タバコと木札

藤ノ千里

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番外編

花火デート①

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 夏休みの間は毎日曲尾神社に通ってたけど、学校が始まるとそれも難しくなる。
 それでも、休みの日は毎日会いに行こうと思った。
 おじさんは、何事も無かったかのようにバイトさせてくれて、それが嬉しいような物足りないような複雑な気がしていた。
 そしてそれは、9月の半ばの土曜日だった。
「嬢ちゃん、来週末は予定あったりする?」
 境内を掃除する私に、おじさんがそう声をかけた。
「来週末はまたバイトに来る予定」
 私は掃除の手を止めずに答える。
 デートのお誘いなら嬉しいけど、多分違うんだろうな。
 おじさんはそういう所はきっちりするタイプだから。
「日曜日、花火見に来るか?」
 予想外の言葉に、思わずおじさんの顔をまじまじと見た。
 前言撤回だ。おじさんは意外となぁなぁにするタイプらしい。


 来週末の日曜日は隣町で大きな花火大会が開催される。
 おじさんの話は、その花火が曲尾神社からよく見えるから、見に来ないかとのお誘いだった。
 花火デートだ!と浮かれたのも一瞬で。
「ただし、嬢ちゃんの友だちを2人以上連れてくること」と言われてしまった。
 要はちゃんと青春しろということらしい。
 今日は月曜日。
 友だちなんていなければ、気軽に誘えるような相手もいない私は困っていた。
 おじさんと一緒に花火は見たい。でも、2人も誘えというのはボッチには荷が重すぎる。
 そう思いながらお弁当を食べていた私の耳に、救世主のような声が聞こえてきた。
「花火どこなら見えるかなー?」
 思わず振り返る。
 背の高い女子と、背の低い女子の2人組がちょうど花火大会の話をしているようだった。
 名前、なんだったっけか。
 声をかけようにも同級生の名前すら思い出せず、そんな自分に少し嫌になる。
 私は本当に、今まで他人に興味が無さすぎたのだ。
「去年のとこは?」
「あそこはナンパがうるさいしなぁ」
 名前も分からなければ、会話に割り込むタイミングも分からない。
 話しかけようか、どうしようか・・・。
 思わずじっと見てしまい、背の低い方の女子と目が合った。
 顔を逸らす前にニコッと微笑まれる。可愛い。愛嬌があるというのはこういう事かと思う。
「どうしたの?美菜月ミナツちゃん」
 突然名前を呼ばれて、ドキリとしてしまう。
 私の名前だった。喋ったこともないはずなのにどうして知っているのか。
「まこまこ、いきなり名前呼びは違うんじゃない?」
 背の高い方の女子が、低い方の女子を窘めるように声をかけた。
「えー、いいじゃん。ね、美菜月ちゃん?」
 まこまこと呼ばれた背の低い方の女子は、人懐っこい笑顔を向けてくる。
 慣れていないので少し恥ずかしいが、嫌ではない。
 でも、どう答えていいかが分からない。
 とりあえず、意思表示のために頷いておく。
「あ、私の名前は真子ね。まこまこって呼んでいいよ!」
 名前を憶えていないのを察してくれたのか自己紹介までしてくれた。なんて優しい子なんだろう。
 私は正直、今まで友だちもいなければあだ名を呼ぶ相手もいたことは無い。
 急に距離を詰められて驚いたが、でも、うさぎのような可愛い仕草に悪い気はしなかった。
「私は静香。まこまこにはしーちゃんって呼ばれてるの」
 背の高い方の女子は、大人びた雰囲気で微笑んでくれる。
 嬉しくってでもこそばゆい感じがして、口篭ってしまいそうになった。
 でも、手首の木札がカランと鳴ったから、だから頑張ってみようと思った。
「あの、私、花火見れるとこ知ってるんだけど、一緒に行かない?」
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