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本編
第5話 曲尾神社と水神様
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曲尾神社のある曲尾山にはその昔、山をぐるりととぐろ状に沢が流れていたらしい。
その形が蛇の尾が曲がっているように見えたため曲尾と言う地名になったんだそうだ。
水のあるところには信仰が生まれ、神が宿る。
この曲尾山にも、いつの間にかその名の通りの巨大な蛇の水神様がおわすようになった。
ここ一帯の人達は祠を立て、水神様をそれはそれは大切に祀っていたらしい。
しかし、そんな信仰も時代と共に移り変わる。
元々住んでいた人が減り、外から人が移り住んでくると、諍いから沢を埋め立てられてしまったのだ。
水神様は怒り、山を揺らし、呪いの雨を降らせた。
崇めるためではなく、鎮めるために祠を祀っても怒りはなかなか鎮まらず、最後には力づくで封じることになってしまったらしい。
曲尾神社は、その封印を管理するために後から建てられたそうだ。
祠。そう私が壊してしまったあの祠だ。
「私が水神様の封印を解いちゃったの?」
「元々緩んでたんだよ」
おじさんは「気にすんな」と言いながら私の頭を撫でた。慣れてない手つきで髪の毛がぐちゃぐちゃにされる。
「こっからの話はまた一段ときちーぞ?」
おじさんはタバコを吸おうとして、やめた。未成年の目の前で吸わないという配慮はできるらしい。
今度は少しだけ余裕が出てきて、すぐにコクリと頷く。
怖さはまだあった。でもそれ以上に、おじさんが私を心配してくれている様子が嬉しかった。
私の予想通り、封印はほとんど壊れてしまい、あとは表面しか残っていない状態なんだと言う。
そして、私。何の取り柄もないはずの私は、水神様に巫女として狙われているらしい。
「巫女って言っても、お守り売る方じゃなくて、依り代みたいなやつね」と言っていたが、つまりは私を介して水神様は人々へ呪いを振り撒こうとしているということだった。
神の呪いは私から私の親しい人、またその人の親しい人へと感染していくものなのだと聞いても、ホラー映画のようでいまいち実感は湧かない。
「嬢ちゃんは素質があったから、多分呼ばれちまったんだろうな」
「素質?」
素質なんて言葉、今までの人生で言われたこともない。全てにおいて平凡な私は霊能力とか超能力とかとは無縁の生活を送ってきたというのに。
おじさんは私をジッと見た。見透かすような視線は、彼が何か見える人なのだという気にさせる。
「動物霊の依り代としての素質だ。まぁ、普通に生きてりゃ気付かずに終わるような、そんなモンだよ」
蛇である水神様が依り代とするために私を呼んだ。私はまんまと呼び寄せられ祠を壊してしまい、そして今、水神様の望む通りに依り代にされそうになっている。
あの巨大な影の蛇。完全に封印が解けたら、私はどうなってしまうのか。
背筋を悪寒が走り抜ける。鳥肌が立った腕をさすると、木札がカランと音を立てた。
「これは?」
「それは一時的な目隠しだ。付けてれば向こうからも嬢ちゃんからも互いが見えなくなる」
適当なことを言って肌身離さず着けさせたお守りも、ちゃんと着けているか見張っていたのも全てに意味があったのか。
ただのだらしないおじさんかと思っていたのに、本当は私のために色々してくれていたのか。
「私は、これからどうなるの?」
もう一度水神様の封印をという雰囲気ではなかった。おじさんはまたタバコを取り出そうとして、ため息をつく。
「外国とかに逃げれんならそれが1番なんだけどな・・・」
窓の外を眺めるおじさんの目には、まだあの影の大蛇が見えているんだろうか。
数秒だけだったのに信じられないくらい怖かった。大きさだけじゃなくて、魂の底から恐ろしいと感じるようなそんな存在だったのに。
「バイト中におじさんがなんとかするから心配すんな」
おじさんはまた私の頭をワシワシ撫でる。それはどう見ても虚勢で、でも私にはその言葉を信じるしか選択肢はなかったのだ。
その形が蛇の尾が曲がっているように見えたため曲尾と言う地名になったんだそうだ。
水のあるところには信仰が生まれ、神が宿る。
この曲尾山にも、いつの間にかその名の通りの巨大な蛇の水神様がおわすようになった。
ここ一帯の人達は祠を立て、水神様をそれはそれは大切に祀っていたらしい。
しかし、そんな信仰も時代と共に移り変わる。
元々住んでいた人が減り、外から人が移り住んでくると、諍いから沢を埋め立てられてしまったのだ。
水神様は怒り、山を揺らし、呪いの雨を降らせた。
崇めるためではなく、鎮めるために祠を祀っても怒りはなかなか鎮まらず、最後には力づくで封じることになってしまったらしい。
曲尾神社は、その封印を管理するために後から建てられたそうだ。
祠。そう私が壊してしまったあの祠だ。
「私が水神様の封印を解いちゃったの?」
「元々緩んでたんだよ」
おじさんは「気にすんな」と言いながら私の頭を撫でた。慣れてない手つきで髪の毛がぐちゃぐちゃにされる。
「こっからの話はまた一段ときちーぞ?」
おじさんはタバコを吸おうとして、やめた。未成年の目の前で吸わないという配慮はできるらしい。
今度は少しだけ余裕が出てきて、すぐにコクリと頷く。
怖さはまだあった。でもそれ以上に、おじさんが私を心配してくれている様子が嬉しかった。
私の予想通り、封印はほとんど壊れてしまい、あとは表面しか残っていない状態なんだと言う。
そして、私。何の取り柄もないはずの私は、水神様に巫女として狙われているらしい。
「巫女って言っても、お守り売る方じゃなくて、依り代みたいなやつね」と言っていたが、つまりは私を介して水神様は人々へ呪いを振り撒こうとしているということだった。
神の呪いは私から私の親しい人、またその人の親しい人へと感染していくものなのだと聞いても、ホラー映画のようでいまいち実感は湧かない。
「嬢ちゃんは素質があったから、多分呼ばれちまったんだろうな」
「素質?」
素質なんて言葉、今までの人生で言われたこともない。全てにおいて平凡な私は霊能力とか超能力とかとは無縁の生活を送ってきたというのに。
おじさんは私をジッと見た。見透かすような視線は、彼が何か見える人なのだという気にさせる。
「動物霊の依り代としての素質だ。まぁ、普通に生きてりゃ気付かずに終わるような、そんなモンだよ」
蛇である水神様が依り代とするために私を呼んだ。私はまんまと呼び寄せられ祠を壊してしまい、そして今、水神様の望む通りに依り代にされそうになっている。
あの巨大な影の蛇。完全に封印が解けたら、私はどうなってしまうのか。
背筋を悪寒が走り抜ける。鳥肌が立った腕をさすると、木札がカランと音を立てた。
「これは?」
「それは一時的な目隠しだ。付けてれば向こうからも嬢ちゃんからも互いが見えなくなる」
適当なことを言って肌身離さず着けさせたお守りも、ちゃんと着けているか見張っていたのも全てに意味があったのか。
ただのだらしないおじさんかと思っていたのに、本当は私のために色々してくれていたのか。
「私は、これからどうなるの?」
もう一度水神様の封印をという雰囲気ではなかった。おじさんはまたタバコを取り出そうとして、ため息をつく。
「外国とかに逃げれんならそれが1番なんだけどな・・・」
窓の外を眺めるおじさんの目には、まだあの影の大蛇が見えているんだろうか。
数秒だけだったのに信じられないくらい怖かった。大きさだけじゃなくて、魂の底から恐ろしいと感じるようなそんな存在だったのに。
「バイト中におじさんがなんとかするから心配すんな」
おじさんはまた私の頭をワシワシ撫でる。それはどう見ても虚勢で、でも私にはその言葉を信じるしか選択肢はなかったのだ。
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