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本編
第4話 反発と影
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「お、おいしい・・・!」
不審感がいくらあっても胃袋を掴まれていては仕方がない。
日替わりラーメンの今日の味は、なんと豚骨魚介スープだった。
朝から豚骨の匂いがするとは思っていたが、一から仕込んでいたらしい。
「嬢ちゃんの反応がいいからつい本気出しちゃったよ」
頭にハチマキを巻くおじさんは生き生きしていて、もう神社やめてラーメン屋を始めた方がいいと思う。
2週間経つのに参拝者ゼロの神社なんてどう考えても赤字に決まっている。
毎日食べても毎日美味しいのだから行列間違いなしだろう。
スープによく合う麺をすすりながらおじさんをチラ見する。
このおじさん、だらしない雰囲気の割にはマメで面倒見もよく、よく見るとそこそこのイケメンだった。
それをダメさがカバーしてしまっているのが難点だが。
「俺が言うのもなんだけどさ、嬢ちゃん本当に毎日通ってて大丈夫なん?」
食べ終わった食器を洗いながら、おじさんが聞いてきた。
今まで何も言わなかったくせに、こうやって聞かれたくないことを聞いてくるデリカシーのなさこそがモテない原因だろう。
なんと答えたらいいか分からず、少しの間食器を洗う音だけが響く。
スマホをチラッと見るが、当然誰かからのメッセージが来てるはずもない。
いやそもそも、ひと月間毎日こいと言っておいて急にそんな事を言い出すなんて意味がわからない。
おじさんが食器を洗ってる背中を見て、ふと荻野先生を思い出してしまった。
もしかして、と思う。
そんなことあるはずがない、とも思う。
「邪魔になったんですか?」
わざとおじさんに聞こえないように小さく呟く。
おじさんは手を止めて、驚いた顔で振り返った。
「私はもう邪魔ですか?」
今度はハッキリと口にする。
そう、いつもそうだ。
私が好意を抱いた人はみんな私を拒絶する。
「嬢ちゃん何言っ」
「帰ります!」
吐き捨てるように叫んで建物を飛び出した。
いつもそう。みんなそう。向こうから優しくしといて、少し心を許したらすぐにサヨナラだ。
中途半端に優しくて、人の気持ちを弄んで、おじさんも荻野先生と同じだ!おじさんなんてなんて大嫌い!
手元で木札がカランと揺れる。
こんなもの、貰わなければ良かった・・・!
「待て!嬢ちゃんそれは!」
後ろから追いかけてきたおじさんの声がしたが、もうどうでもいい。
木札を引っ張ると、紐が解けるようにちぎれた。
そのままそれを力いっぱい地面に叩きつける。
「駄目だ!!」
おじさんの叫び声。
それを合図に、空気が一瞬で暗く重くなった。
まるで水の中にいるような冷たい息苦しさ。
目の前には、車ほどの幅の、長く大きな影。
蛇だと、なぜか分かった。
ズルズルと地面を這う、半透明な影のような大蛇。
持ち上げた頭は、鳥居より遥かに高く、ギョロリとした目がこちらを向。
「目は合わせない方がいい」
急に、真っ暗になった視界。おじさんのタバコ臭い手が私の目元を覆っていた。
「あ、あれ・・・」
恐怖から声が出ない。
視界を塞がれても、確かにそこに禍々しい雰囲気を感じる。
「しー、これ」
おじさんが私の手のひらに何かを押し付けた。握りこんだそれはあの木札だと、感触で分かった。
木札を握った瞬間に、あの異様な空気は消える。
おじさんの手が離れると、そこにはいつもの境内の光景が広がっていた。
「外すなよって言ったろ?」
呆ける私に、おじさんは困ったような顔で言う。
少し熱を持ち、先程より確実に黒ずんだ木札が、あれが幻でなかっということを教えてくれていた。
「詳しい話は後でな」とおじさんはどこかへ行ってしまい、1時間後に戻ってきた時にはヘロヘロになっていた。
「休憩させてくれ」と言われて更に1時間後、少し復活したおじさんはお茶を淹れて持ってきてくれた。
向かい合って座る。
「どこから話そうか」
おじさんは頬を掻いて、それから諦めたようにフゥと息を着いた。
「嬢ちゃんにはちょっと酷かもしれんが、聞くか?」
真剣な顔だった。きっとそれはとても大切な話なんだと分かった。
手元でカランと音がする。
怖かったけど、おじさんを信じてみようと、思った。
唇を噛み大きく頷く。おじさんの真剣な目に、少しだけドキリとした。
不審感がいくらあっても胃袋を掴まれていては仕方がない。
日替わりラーメンの今日の味は、なんと豚骨魚介スープだった。
朝から豚骨の匂いがするとは思っていたが、一から仕込んでいたらしい。
「嬢ちゃんの反応がいいからつい本気出しちゃったよ」
頭にハチマキを巻くおじさんは生き生きしていて、もう神社やめてラーメン屋を始めた方がいいと思う。
2週間経つのに参拝者ゼロの神社なんてどう考えても赤字に決まっている。
毎日食べても毎日美味しいのだから行列間違いなしだろう。
スープによく合う麺をすすりながらおじさんをチラ見する。
このおじさん、だらしない雰囲気の割にはマメで面倒見もよく、よく見るとそこそこのイケメンだった。
それをダメさがカバーしてしまっているのが難点だが。
「俺が言うのもなんだけどさ、嬢ちゃん本当に毎日通ってて大丈夫なん?」
食べ終わった食器を洗いながら、おじさんが聞いてきた。
今まで何も言わなかったくせに、こうやって聞かれたくないことを聞いてくるデリカシーのなさこそがモテない原因だろう。
なんと答えたらいいか分からず、少しの間食器を洗う音だけが響く。
スマホをチラッと見るが、当然誰かからのメッセージが来てるはずもない。
いやそもそも、ひと月間毎日こいと言っておいて急にそんな事を言い出すなんて意味がわからない。
おじさんが食器を洗ってる背中を見て、ふと荻野先生を思い出してしまった。
もしかして、と思う。
そんなことあるはずがない、とも思う。
「邪魔になったんですか?」
わざとおじさんに聞こえないように小さく呟く。
おじさんは手を止めて、驚いた顔で振り返った。
「私はもう邪魔ですか?」
今度はハッキリと口にする。
そう、いつもそうだ。
私が好意を抱いた人はみんな私を拒絶する。
「嬢ちゃん何言っ」
「帰ります!」
吐き捨てるように叫んで建物を飛び出した。
いつもそう。みんなそう。向こうから優しくしといて、少し心を許したらすぐにサヨナラだ。
中途半端に優しくて、人の気持ちを弄んで、おじさんも荻野先生と同じだ!おじさんなんてなんて大嫌い!
手元で木札がカランと揺れる。
こんなもの、貰わなければ良かった・・・!
「待て!嬢ちゃんそれは!」
後ろから追いかけてきたおじさんの声がしたが、もうどうでもいい。
木札を引っ張ると、紐が解けるようにちぎれた。
そのままそれを力いっぱい地面に叩きつける。
「駄目だ!!」
おじさんの叫び声。
それを合図に、空気が一瞬で暗く重くなった。
まるで水の中にいるような冷たい息苦しさ。
目の前には、車ほどの幅の、長く大きな影。
蛇だと、なぜか分かった。
ズルズルと地面を這う、半透明な影のような大蛇。
持ち上げた頭は、鳥居より遥かに高く、ギョロリとした目がこちらを向。
「目は合わせない方がいい」
急に、真っ暗になった視界。おじさんのタバコ臭い手が私の目元を覆っていた。
「あ、あれ・・・」
恐怖から声が出ない。
視界を塞がれても、確かにそこに禍々しい雰囲気を感じる。
「しー、これ」
おじさんが私の手のひらに何かを押し付けた。握りこんだそれはあの木札だと、感触で分かった。
木札を握った瞬間に、あの異様な空気は消える。
おじさんの手が離れると、そこにはいつもの境内の光景が広がっていた。
「外すなよって言ったろ?」
呆ける私に、おじさんは困ったような顔で言う。
少し熱を持ち、先程より確実に黒ずんだ木札が、あれが幻でなかっということを教えてくれていた。
「詳しい話は後でな」とおじさんはどこかへ行ってしまい、1時間後に戻ってきた時にはヘロヘロになっていた。
「休憩させてくれ」と言われて更に1時間後、少し復活したおじさんはお茶を淹れて持ってきてくれた。
向かい合って座る。
「どこから話そうか」
おじさんは頬を掻いて、それから諦めたようにフゥと息を着いた。
「嬢ちゃんにはちょっと酷かもしれんが、聞くか?」
真剣な顔だった。きっとそれはとても大切な話なんだと分かった。
手元でカランと音がする。
怖かったけど、おじさんを信じてみようと、思った。
唇を噛み大きく頷く。おじさんの真剣な目に、少しだけドキリとした。
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