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本編
プロローグ
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高校三年生の夏、好きだった人に振られた。
離婚まで秒読みのはずのその人が、美人な奥さんと可愛い娘と一緒に仲良く買い物をしているのを見てしまった。
何が「20歳になってまだあなたの気持ちが変わらなかったら食事に行きましょう」だ!
私の気持ちを弄んでおいて、自分はあんなに幸せそうな顔をして!大嫌い!
荻野先生なんて大嫌い!
ぶち壊してやろうと思った。
ラッキーなことに、家から歩いて30分の神社は縁切りで有名なのだ。
収まりようのない怒りを抱えた私は、スマホと財布だけを握りしめてその神社に向かった。
想定外だったのは、暑さだった。
夏休みに入ったばかりだというのに、日差しは指すように痛く、アスファルトは焼けるように暑い。
その上神社は小山の上にあって、そこまでの階段が地味に辛い。
半分まで登ってもう無理だと思った。
でも、絶対に諦めたくない。諦めたら負けだ。荻野先生を絶対に不幸にしてやりたい。
階段脇の木陰で休憩しながら、残りの階段を睨みつける。
もう一度歩き出そうとしたところで、休んでいた木陰の脇から獣道が伸びているのに気づいた。
もしかしたら、ここからスロープみたいになっているのかも?
整備された道では無いが、木陰の間に伸びる道は炎天下の階段よりは明らかに快適そうだ。
行き止まりなら引き返せばいい。そんな好奇心も相まって、私はその脇道に足を踏み入れた。
今思えば、それが全ての始まりだったのだ。
数分歩いただろうか。
緩やかな上り坂は、途切れることなく続いていて、しかも予想通り涼しかった。
多分もうちょっとでてっぺんに着く。
そう思って下ろした足が、空をきった。
え?と思いながら体がどこかへ落ちていく。
これはきっと天罰だ。人を呪おうとした天罰。
天罰で私は死ぬんだ。
と、思ったが思い違いだった。
「いったぁぁい!!」
私の体は落ちると言うより滑り落ちて、そして何かにぶつかって止まった。
落ちた時の擦り傷とぶつかった打ち身であちこち痛い。
最悪。お気に入りだったスカートも破れた。
なんで私がこんな目に合わないといけないんだ。
また腹立たしい思いが湧いてきて、心の中で思い切り悪態をついた。
「あーあ、やっちまったなー」
わざとらしい声にそちらを向くと、おじさんが立っていた。
センスのないTシャツにジーンズ。口にタバコを咥えながら、ボサボサの髪を掻いていて。
どう見てもダメなおじさんだった。
しかも、ボロボロの私を見ても一言も心配の言葉をかけてくれないのだ。
「やっちまったからには弁償だな弁償」
おじさんが指を指したのは私の足元。
よく見ると、ぶつかったのは何か小さな建物だったみたいだ。
踏んでしまったからか元の形もよく分からないが。
「わざとじゃないです」
「わざとじゃなくても、壊したのは嬢ちゃんだろ?」
確かにそうかもしれないが、事故なのに急に弁償しろだなんてありえない。
このオジサン不審者じゃないだろうか。
「警察呼びますよ」
ポケットのスマホを服の上から確認する。
この距離なら捕まるより先に通報できそうだ。
「あぁ呼びたきゃ呼べ。その代わり捕まんのは嬢ちゃんだけどな」
おじさんはそう言いながらこちらに近づいてくる。
スマホを取り出して構えたが、気にする様子もない。
少なくとも不審者ではないのかもしれない。
おじさんが差し出してきた手に掴まるか迷ったが、悪い人ではなさそうだと、手を取った。
立ち上がると少し足元がふらついた。思ったよりたくさんぶつけてしまっているのかもしれない。
おじさんは思ったより背が高くて、思った以上にタバコ臭かった。
そして、思った以上に不敵に笑った。
「弁償できねぇなら体で払って貰うしかねぇな」
離婚まで秒読みのはずのその人が、美人な奥さんと可愛い娘と一緒に仲良く買い物をしているのを見てしまった。
何が「20歳になってまだあなたの気持ちが変わらなかったら食事に行きましょう」だ!
私の気持ちを弄んでおいて、自分はあんなに幸せそうな顔をして!大嫌い!
荻野先生なんて大嫌い!
ぶち壊してやろうと思った。
ラッキーなことに、家から歩いて30分の神社は縁切りで有名なのだ。
収まりようのない怒りを抱えた私は、スマホと財布だけを握りしめてその神社に向かった。
想定外だったのは、暑さだった。
夏休みに入ったばかりだというのに、日差しは指すように痛く、アスファルトは焼けるように暑い。
その上神社は小山の上にあって、そこまでの階段が地味に辛い。
半分まで登ってもう無理だと思った。
でも、絶対に諦めたくない。諦めたら負けだ。荻野先生を絶対に不幸にしてやりたい。
階段脇の木陰で休憩しながら、残りの階段を睨みつける。
もう一度歩き出そうとしたところで、休んでいた木陰の脇から獣道が伸びているのに気づいた。
もしかしたら、ここからスロープみたいになっているのかも?
整備された道では無いが、木陰の間に伸びる道は炎天下の階段よりは明らかに快適そうだ。
行き止まりなら引き返せばいい。そんな好奇心も相まって、私はその脇道に足を踏み入れた。
今思えば、それが全ての始まりだったのだ。
数分歩いただろうか。
緩やかな上り坂は、途切れることなく続いていて、しかも予想通り涼しかった。
多分もうちょっとでてっぺんに着く。
そう思って下ろした足が、空をきった。
え?と思いながら体がどこかへ落ちていく。
これはきっと天罰だ。人を呪おうとした天罰。
天罰で私は死ぬんだ。
と、思ったが思い違いだった。
「いったぁぁい!!」
私の体は落ちると言うより滑り落ちて、そして何かにぶつかって止まった。
落ちた時の擦り傷とぶつかった打ち身であちこち痛い。
最悪。お気に入りだったスカートも破れた。
なんで私がこんな目に合わないといけないんだ。
また腹立たしい思いが湧いてきて、心の中で思い切り悪態をついた。
「あーあ、やっちまったなー」
わざとらしい声にそちらを向くと、おじさんが立っていた。
センスのないTシャツにジーンズ。口にタバコを咥えながら、ボサボサの髪を掻いていて。
どう見てもダメなおじさんだった。
しかも、ボロボロの私を見ても一言も心配の言葉をかけてくれないのだ。
「やっちまったからには弁償だな弁償」
おじさんが指を指したのは私の足元。
よく見ると、ぶつかったのは何か小さな建物だったみたいだ。
踏んでしまったからか元の形もよく分からないが。
「わざとじゃないです」
「わざとじゃなくても、壊したのは嬢ちゃんだろ?」
確かにそうかもしれないが、事故なのに急に弁償しろだなんてありえない。
このオジサン不審者じゃないだろうか。
「警察呼びますよ」
ポケットのスマホを服の上から確認する。
この距離なら捕まるより先に通報できそうだ。
「あぁ呼びたきゃ呼べ。その代わり捕まんのは嬢ちゃんだけどな」
おじさんはそう言いながらこちらに近づいてくる。
スマホを取り出して構えたが、気にする様子もない。
少なくとも不審者ではないのかもしれない。
おじさんが差し出してきた手に掴まるか迷ったが、悪い人ではなさそうだと、手を取った。
立ち上がると少し足元がふらついた。思ったよりたくさんぶつけてしまっているのかもしれない。
おじさんは思ったより背が高くて、思った以上にタバコ臭かった。
そして、思った以上に不敵に笑った。
「弁償できねぇなら体で払って貰うしかねぇな」
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