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第三章 道明様の愛
第二十三話 赤い痕
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なんとなく、これからどうしようか私の中での指針が決まりそうになっていた時、静かな音と共に道明様がやってきた。
「何やら考え事か?」
昼間の取ってつけたようなものとは違う笑顔。
嬉しくて、飛びつくように抱き着いた。
抱きとめてくれる腕の強さ、道明様の匂い。道明様の、匂い?
「道明様もしかして毎日お風呂に入ってます?」
おかしかったのだ。彼だって毎日僧正としての務めを果たしているはずなのに、汗臭いと思ったことが一度もない。
確認するために、彼の首筋の匂いを嗅ぐ。やはりいい匂いしかしない。
「これ、すみれ」
無遠慮に匂いを嗅いだため引きはがされてしまった。
男の人なのにズルいと口をとがらせる。
「私は水行を行なっているし、香の匂いがするのであろう」
水行と言えば、水を頭からかぶるあれか。お務めの一環ではあるだろうが、こんなに寒い時期に水を浴びているなんて信じられない。
でも、絶対にお香の匂いだけではないと思う。
不満顔の私を道明様は優しく抱きしめる。
「匂いであればそなたの方が・・・」
クンクンと髪の匂いを嗅がれてしまった。でも大丈夫。今日はお風呂に入ったから気にならない。
「知らぬ香りがするの」
「医療所の先生が作ってくれた石鹸なんです。いい匂いでしょ?」
得意げに笑う。草順先生に特注してもらったため気に入っている香りだった。
道明様の顔が目の前に下りてきた、てっきり褒められるかと思ったのに、なぜか少しだけ怒っているように見える。
「そなた、他の男の香りをまとっているのか?」
驚いた。これは嫉妬か。
いつしか私を殿の側室になどと提案したはずの人が、嫉妬をしているのか。
道明様の真剣な目が、私を責めている。嬉しいような恥ずかしいようなむず痒さでドキドキしてしまう。
「だ、だって、汗かいたから・・・」
悪いことはしていないはずなのに、怒られているような気がして言い訳をしてしまう。
息苦しいほどに心臓が脈を打つ。道明様から目が離せない。
「仕置きをせねばな」
蠱惑的な唇が言葉を紡いで、そのまま私の首筋に吸い付いた。
くすぐったい感触が下へ下へと移動していく。
「あの、道明様、布団に・・・」
返事がない。身をよじって逃れようとすると、抱きしめるように抱えあげられてしまった。
抱えられたまま胸元を吸われる。軽々と抱えられていても、足が地面につかない不安があった。
「道明様・・・?あの・・・」
顔が見えないので怒っているのかふざけているのか分からない。
道明様の唇が何度も何度も胸元に吸い付いて・・・ん?
彼の唇がなぞったところをよく見ると、薄明りの中でもそこに痕がついているのが見えた。
もしかしてと、嫌な予感がよぎった。
「待って!待ってください!離して!!」
全力で彼を押しのけると、ようやく解放される。
改めて確認するが、やはり胸元にはいくつもの赤い痕がついていた。
そう、この男、キスマークをつけていたのだ。
「な、何を・・・!」
怒りよりも恥ずかしさで声が震える。服の上からは見えないが、少しはだければ見えるような計算された位置に痕がついていたからだ。
他人には見えなくても侍女には確実に見られてしまう。
道明様はそんな私の様子を見て、挑発するような意地悪な顔で笑っていた。そんな顔も綺麗なのが本当に腹が立つ。
「私、真剣に将来の事考えてたんですからね・・・!」
そっぽを向いて座り込む。
こっちはバレないようにいつも気を付けているのに、こんないたずらをするなんてあんまりだ。
数秒の沈黙が流れ、道明様が私の後ろに座り込む気配がした。
「そなたには、あまり名を挙げてほしくはないのだがな」
呟く声が聞こえた。
どういうことか気にはなったが、まだ怒っていたので振り向かなかった。
「そなたは、己の魅力に疎すぎるのだ」
「何やら考え事か?」
昼間の取ってつけたようなものとは違う笑顔。
嬉しくて、飛びつくように抱き着いた。
抱きとめてくれる腕の強さ、道明様の匂い。道明様の、匂い?
「道明様もしかして毎日お風呂に入ってます?」
おかしかったのだ。彼だって毎日僧正としての務めを果たしているはずなのに、汗臭いと思ったことが一度もない。
確認するために、彼の首筋の匂いを嗅ぐ。やはりいい匂いしかしない。
「これ、すみれ」
無遠慮に匂いを嗅いだため引きはがされてしまった。
男の人なのにズルいと口をとがらせる。
「私は水行を行なっているし、香の匂いがするのであろう」
水行と言えば、水を頭からかぶるあれか。お務めの一環ではあるだろうが、こんなに寒い時期に水を浴びているなんて信じられない。
でも、絶対にお香の匂いだけではないと思う。
不満顔の私を道明様は優しく抱きしめる。
「匂いであればそなたの方が・・・」
クンクンと髪の匂いを嗅がれてしまった。でも大丈夫。今日はお風呂に入ったから気にならない。
「知らぬ香りがするの」
「医療所の先生が作ってくれた石鹸なんです。いい匂いでしょ?」
得意げに笑う。草順先生に特注してもらったため気に入っている香りだった。
道明様の顔が目の前に下りてきた、てっきり褒められるかと思ったのに、なぜか少しだけ怒っているように見える。
「そなた、他の男の香りをまとっているのか?」
驚いた。これは嫉妬か。
いつしか私を殿の側室になどと提案したはずの人が、嫉妬をしているのか。
道明様の真剣な目が、私を責めている。嬉しいような恥ずかしいようなむず痒さでドキドキしてしまう。
「だ、だって、汗かいたから・・・」
悪いことはしていないはずなのに、怒られているような気がして言い訳をしてしまう。
息苦しいほどに心臓が脈を打つ。道明様から目が離せない。
「仕置きをせねばな」
蠱惑的な唇が言葉を紡いで、そのまま私の首筋に吸い付いた。
くすぐったい感触が下へ下へと移動していく。
「あの、道明様、布団に・・・」
返事がない。身をよじって逃れようとすると、抱きしめるように抱えあげられてしまった。
抱えられたまま胸元を吸われる。軽々と抱えられていても、足が地面につかない不安があった。
「道明様・・・?あの・・・」
顔が見えないので怒っているのかふざけているのか分からない。
道明様の唇が何度も何度も胸元に吸い付いて・・・ん?
彼の唇がなぞったところをよく見ると、薄明りの中でもそこに痕がついているのが見えた。
もしかしてと、嫌な予感がよぎった。
「待って!待ってください!離して!!」
全力で彼を押しのけると、ようやく解放される。
改めて確認するが、やはり胸元にはいくつもの赤い痕がついていた。
そう、この男、キスマークをつけていたのだ。
「な、何を・・・!」
怒りよりも恥ずかしさで声が震える。服の上からは見えないが、少しはだければ見えるような計算された位置に痕がついていたからだ。
他人には見えなくても侍女には確実に見られてしまう。
道明様はそんな私の様子を見て、挑発するような意地悪な顔で笑っていた。そんな顔も綺麗なのが本当に腹が立つ。
「私、真剣に将来の事考えてたんですからね・・・!」
そっぽを向いて座り込む。
こっちはバレないようにいつも気を付けているのに、こんないたずらをするなんてあんまりだ。
数秒の沈黙が流れ、道明様が私の後ろに座り込む気配がした。
「そなたには、あまり名を挙げてほしくはないのだがな」
呟く声が聞こえた。
どういうことか気にはなったが、まだ怒っていたので振り向かなかった。
「そなたは、己の魅力に疎すぎるのだ」
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