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第二章 医師団
第十一話 医師団の派遣
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木村先生から指名された医師は、園田先生、山田先生、草順先生、郷広先生そして私だった。そして、私を含め断る人は誰もいなかった。
嬉しいことに私が行くならとお凛さんも同行を申し出てくれた。知らない地で女性がいてくれるのは心強い。
その6人と木村先生は、殿の御前で出発の挨拶をしていた。
「こちらの6名を派遣致します」
木村先生の後ろで一斉に頭を下げる。派遣するに当たって馬や必要なものを用意してくれるということらしい。
「急ぎゆえもう下がって良い、励んで参れ」
殿の激励の言葉を受け木村先生が立ち上がる。
私達もその後に続こうとした時、殿から声がかかった。
「聖女殿には話がある、近う寄れ」
一瞬木村先生とお凛さんを見たが、呼ばれたのは私だけだ。大人しく従うことにする。
殿の近くで膝をつき頭を下げる。先生方が退席すると、ようやく声がかかった。
「そなた、ワシの側室になれ」
以前「側室になるか?」と冗談めいて言われたことがあった。
私を守るためと利用するために。そして発案者はあの人だった。
今度のは命令だった。声にもからかいの色は一切ないと分かった。
守るため、か。また私を守ろうとしているのか。
よく見るとあの人にそっくりな殿は、あの人と同じようにこうやって自分の身を盾に使うのか。
「嫌です」
気づけば返事をしていた。
物凄く無礼だっただろう。身分の差を考えれば切って捨てられてもおかしくない。
でも、これだけは嫌だった。
殿の許可も得ずに頭を上げる。怪訝そうな眼差しを真正面から受け止めた。
「私は、あの方以外のどなたとも結婚する気はありません」
それが包み隠さない本心だった。
あの人でないなら、たとえ形だけでも、どんな理由があっても結婚などしたくなかった。
物凄いわがままだと、自分でも呆れてしまう。
殿は少しだけ寂しそうに笑った。
笑って、「行け」と扇を振った。
「失礼します」
頭を下げて急いで退席する。駆け足のまま先生方の後を追いかけた。
城の門の前にはすでに出立準備が整った先生方と馬が8頭待っていた。
2頭は予備の馬らしい、私の相棒はなるべく大人しい子を選んでくれたそうで、すぐに背中に乗せてくれた。
「お気をつけて」
木村先生のお見送りを背に城を出る。
地理にも明るい園田先生と山田先生が先頭で、私たちはただひたすらついて行くことになる。
先頭の2頭が駆け足を始めると、賢い他の馬も勝手に従ってくれる。
時間は夕方頃5時頃。徹夜での大移動が始まった。
長距離の馬での移動は、想像していたよりも穏やかだった。
平地は駆け足で、足場が悪いところは慎重に歩いて、そして2時間に1回馬から降りて短い休憩をとる。その繰り返しだ。
そして休憩中は、園田先生から医師団としての心得を学ぶ。
「大規模な災害の時は、普段より治療の優先順位の判断が重要になる」
メモなんて持ってきていない。先生の言葉をしっかりと心に刻みつけていく。
「優先順位は私と山田先生で決める。助からないと判断した患者は治療するな」
「治療するな」という強い言葉に、背中がゾクリとする。医療所では1度だって聞いた事のない言葉だった。
それほどまでに壮絶なのだと、今更になって気づく。
心得の他に、念の為火傷についても学ぶ。火傷には程度があり、程度と範囲で重症度が違う。重症度の判断はやはり園田先生と山田先生が行うので、自己判断するなと強い口調で言われる。
「責任は全て私がとる。先生方はただ指示通りに動いてくれ」
責任。他の領地でもし何かあった場合、それが医療行為の結果であったとしても、派遣元の領地としては何かしらの責任を負わされるのだろう。
それを負うために自分がいるのだと、園田先生の表情が物語っていた。
移動しながら夜が明け、朝が過ぎ、昼になる。川平までの道のりが2/3を過ぎたあたりで、仮眠を取るために馬宿に立ち寄った。
男女別に部屋を取ることができたので、部屋に入るなり大の字で畳に寝転ぶ。お凛さんしか見ている人がいないから、はしたないとか気にしなくていいのが楽だ。
「お風呂は無理ですが、体を拭くものを用意しますね」
楽なんてものじゃなかった、気が利く侍女の存在は物凄くありがたい。
お凛さんも乗馬の練習は私と同じくらいしか出来ていなかったはずだ。疲れているだろうに、甲斐甲斐しく動いてくれて本当に頭が上がらない。
「父さん?」
廊下に出たお凛さんの声が聞こえた。お凛さんのお父さん、園田先生が尋ねてきたらしい。
慌ててきちんと座り直す。
先生は部屋に入ってくると、私の目の前に腰を下ろした。お凛さんは私の隣に控えてくれる。
出立からずっと難しい顔をしていた園田先生だったが、それよりも一層難しい顔で口を開いた。
嬉しいことに私が行くならとお凛さんも同行を申し出てくれた。知らない地で女性がいてくれるのは心強い。
その6人と木村先生は、殿の御前で出発の挨拶をしていた。
「こちらの6名を派遣致します」
木村先生の後ろで一斉に頭を下げる。派遣するに当たって馬や必要なものを用意してくれるということらしい。
「急ぎゆえもう下がって良い、励んで参れ」
殿の激励の言葉を受け木村先生が立ち上がる。
私達もその後に続こうとした時、殿から声がかかった。
「聖女殿には話がある、近う寄れ」
一瞬木村先生とお凛さんを見たが、呼ばれたのは私だけだ。大人しく従うことにする。
殿の近くで膝をつき頭を下げる。先生方が退席すると、ようやく声がかかった。
「そなた、ワシの側室になれ」
以前「側室になるか?」と冗談めいて言われたことがあった。
私を守るためと利用するために。そして発案者はあの人だった。
今度のは命令だった。声にもからかいの色は一切ないと分かった。
守るため、か。また私を守ろうとしているのか。
よく見るとあの人にそっくりな殿は、あの人と同じようにこうやって自分の身を盾に使うのか。
「嫌です」
気づけば返事をしていた。
物凄く無礼だっただろう。身分の差を考えれば切って捨てられてもおかしくない。
でも、これだけは嫌だった。
殿の許可も得ずに頭を上げる。怪訝そうな眼差しを真正面から受け止めた。
「私は、あの方以外のどなたとも結婚する気はありません」
それが包み隠さない本心だった。
あの人でないなら、たとえ形だけでも、どんな理由があっても結婚などしたくなかった。
物凄いわがままだと、自分でも呆れてしまう。
殿は少しだけ寂しそうに笑った。
笑って、「行け」と扇を振った。
「失礼します」
頭を下げて急いで退席する。駆け足のまま先生方の後を追いかけた。
城の門の前にはすでに出立準備が整った先生方と馬が8頭待っていた。
2頭は予備の馬らしい、私の相棒はなるべく大人しい子を選んでくれたそうで、すぐに背中に乗せてくれた。
「お気をつけて」
木村先生のお見送りを背に城を出る。
地理にも明るい園田先生と山田先生が先頭で、私たちはただひたすらついて行くことになる。
先頭の2頭が駆け足を始めると、賢い他の馬も勝手に従ってくれる。
時間は夕方頃5時頃。徹夜での大移動が始まった。
長距離の馬での移動は、想像していたよりも穏やかだった。
平地は駆け足で、足場が悪いところは慎重に歩いて、そして2時間に1回馬から降りて短い休憩をとる。その繰り返しだ。
そして休憩中は、園田先生から医師団としての心得を学ぶ。
「大規模な災害の時は、普段より治療の優先順位の判断が重要になる」
メモなんて持ってきていない。先生の言葉をしっかりと心に刻みつけていく。
「優先順位は私と山田先生で決める。助からないと判断した患者は治療するな」
「治療するな」という強い言葉に、背中がゾクリとする。医療所では1度だって聞いた事のない言葉だった。
それほどまでに壮絶なのだと、今更になって気づく。
心得の他に、念の為火傷についても学ぶ。火傷には程度があり、程度と範囲で重症度が違う。重症度の判断はやはり園田先生と山田先生が行うので、自己判断するなと強い口調で言われる。
「責任は全て私がとる。先生方はただ指示通りに動いてくれ」
責任。他の領地でもし何かあった場合、それが医療行為の結果であったとしても、派遣元の領地としては何かしらの責任を負わされるのだろう。
それを負うために自分がいるのだと、園田先生の表情が物語っていた。
移動しながら夜が明け、朝が過ぎ、昼になる。川平までの道のりが2/3を過ぎたあたりで、仮眠を取るために馬宿に立ち寄った。
男女別に部屋を取ることができたので、部屋に入るなり大の字で畳に寝転ぶ。お凛さんしか見ている人がいないから、はしたないとか気にしなくていいのが楽だ。
「お風呂は無理ですが、体を拭くものを用意しますね」
楽なんてものじゃなかった、気が利く侍女の存在は物凄くありがたい。
お凛さんも乗馬の練習は私と同じくらいしか出来ていなかったはずだ。疲れているだろうに、甲斐甲斐しく動いてくれて本当に頭が上がらない。
「父さん?」
廊下に出たお凛さんの声が聞こえた。お凛さんのお父さん、園田先生が尋ねてきたらしい。
慌ててきちんと座り直す。
先生は部屋に入ってくると、私の目の前に腰を下ろした。お凛さんは私の隣に控えてくれる。
出立からずっと難しい顔をしていた園田先生だったが、それよりも一層難しい顔で口を開いた。
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