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第二章 聖女の力
第十九話 内緒話
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その少女は、巷で「聖女」と呼ばれていると言う。
東山城の新たな主を祝うべく入城していた私の耳に届いたのは、にわかには信じ難い話であった。
この八ツ笠の地では、新城主であらせられる将親様のご意向によりまがい物の医術が禁ぜられており、そのような眉唾の話など昨今はとんと聞いた事がなかったからである。
すぐに殿のお耳にも入り噂話も掻き消えるかと思うていたが、驚くことに医療所筆頭医師たる木村様が後ろ盾となられ、噂が実態を持ち始めたのだ。
しかし、何か手を打つべきかと密やかに考えていた所に、思いがけず件の少女とかち合うことができたのは行幸であったというべきか。
立ち振る舞いにまだ幼さの残る少女は、大層な呼び名にそぐわず、雀のように落ち着きのない様子なのが見て取れた。
どのような娘であるか探るまでもない。あれは、まだ世間を知らぬ童ではないか。
城内の御堂にて、神妙な面持ちがふたつ。密やかな声で密談を催している。
「・・・という手筈となっておるが、いかがかな?」
唐突に私へと問う。あくまでも私のためであると、誇示しておきたいのであろう。
「私には仔細は分かりかねまするゆえ、貴殿の思うように」
さっぱり分かりませぬと、首を傾げ微苦笑を見せると、その者は満足だとばかりに嘲りの笑みを浮かべる。
実に御し易い。格下相手と侮らせておくだけで、いっそう動きを読むのが容易になるのだ。
「あぁ、そういえば」
口を開いたもうひと方へ視線を移す。こちらの者は小心ゆえ扱いが難しい。
「聖女と言ったかあの小娘。小石にならねば良いが」
あの娘、か。
確かに、娘自体は扱い易かろうが、聖女の業とやらは確認して置いた方が良いかもしれぬ。
腕の中で生娘のように高揚していた頬を浮かべる。付け入るべくはあの初心さか。
「聖女様におかれましては、恐れ多くも私に好意を抱いていらせられるようですので、直にお願い申し上げてみまする」
世間知らずの体で、意味を含んだ言葉を選べば、両者ともに伝わったようで揃いの下卑た笑みを浮かべた。
「まぁ、若い娘であるからなぁ!」
「見目麗しい僧正殿の前では、聖女の名も型なしだなぁ!」
顔を顰めたくなる下衆の高笑い。
醜悪な空気に泥を塗られるような心持ちであったが、今しばしは仕方があるまい。嫌悪を表には出さず、ただ良き僧の微笑みを貼り付けた。
聖女殿。あの娘は、このようなおぞましいものなど生来目の当たりにしたこともなかろう、と悪戯心が頭をもたげる。
恨みは無いが、利用するからにはせいぜい甘い夢を見させてやるべきかと、この後の展望へと思いを馳せた。
東山城の新たな主を祝うべく入城していた私の耳に届いたのは、にわかには信じ難い話であった。
この八ツ笠の地では、新城主であらせられる将親様のご意向によりまがい物の医術が禁ぜられており、そのような眉唾の話など昨今はとんと聞いた事がなかったからである。
すぐに殿のお耳にも入り噂話も掻き消えるかと思うていたが、驚くことに医療所筆頭医師たる木村様が後ろ盾となられ、噂が実態を持ち始めたのだ。
しかし、何か手を打つべきかと密やかに考えていた所に、思いがけず件の少女とかち合うことができたのは行幸であったというべきか。
立ち振る舞いにまだ幼さの残る少女は、大層な呼び名にそぐわず、雀のように落ち着きのない様子なのが見て取れた。
どのような娘であるか探るまでもない。あれは、まだ世間を知らぬ童ではないか。
城内の御堂にて、神妙な面持ちがふたつ。密やかな声で密談を催している。
「・・・という手筈となっておるが、いかがかな?」
唐突に私へと問う。あくまでも私のためであると、誇示しておきたいのであろう。
「私には仔細は分かりかねまするゆえ、貴殿の思うように」
さっぱり分かりませぬと、首を傾げ微苦笑を見せると、その者は満足だとばかりに嘲りの笑みを浮かべる。
実に御し易い。格下相手と侮らせておくだけで、いっそう動きを読むのが容易になるのだ。
「あぁ、そういえば」
口を開いたもうひと方へ視線を移す。こちらの者は小心ゆえ扱いが難しい。
「聖女と言ったかあの小娘。小石にならねば良いが」
あの娘、か。
確かに、娘自体は扱い易かろうが、聖女の業とやらは確認して置いた方が良いかもしれぬ。
腕の中で生娘のように高揚していた頬を浮かべる。付け入るべくはあの初心さか。
「聖女様におかれましては、恐れ多くも私に好意を抱いていらせられるようですので、直にお願い申し上げてみまする」
世間知らずの体で、意味を含んだ言葉を選べば、両者ともに伝わったようで揃いの下卑た笑みを浮かべた。
「まぁ、若い娘であるからなぁ!」
「見目麗しい僧正殿の前では、聖女の名も型なしだなぁ!」
顔を顰めたくなる下衆の高笑い。
醜悪な空気に泥を塗られるような心持ちであったが、今しばしは仕方があるまい。嫌悪を表には出さず、ただ良き僧の微笑みを貼り付けた。
聖女殿。あの娘は、このようなおぞましいものなど生来目の当たりにしたこともなかろう、と悪戯心が頭をもたげる。
恨みは無いが、利用するからにはせいぜい甘い夢を見させてやるべきかと、この後の展望へと思いを馳せた。
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