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第一章 時雨ファミリー

時雨ファミリー③

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 時雨は雪から封筒を強奪した後、そのままドアから飛び出して反対側から押さえつけた。

 ドアを押さえつけるのとほぼ同時にドアノブがガチャガチャと音をたてる。時雨が押さえる反対側から、雪がドアをこじ開けようとしてるようだ。

「めっちゃ怖いんですけど!」

 時雨は叫びながら玄関までのルートを視線を送って確認する。リビングは一階の一番奥に位置しており、玄関からは最も離れている。

「時雨! そんなことしたら後が怖いわよ!」

 桜荘に雪の怒りの声がこだまする。

「小遣い無しになんてなってたまるか! だいたい、ポスターの期限は厳密には今日の深夜零時までだろ!」

「だったらなによ!」

「なら、この小遣いの所有権はまだ俺にあるはずだ!」

「くだらない屁理屈言ってんじゃないわよ!」

「屁理屈でも構うもんか! 今夜の零時までに小遣い全部使い切ってやんよ! あーっはっはっは!」

 時雨が人間失格なセリフを声高に叫ぶと同時に、先程まで異常なほど音を立てていたドアノブがピタリと無音になる。

「ふ、ふふふ……うふふふふ」

 思わず冷や汗をかくような、殺意と怨みに満ちた笑い声がドアの向こうから聞こえてくる。

 その声に時雨も身の危険を感じ、思わずドアから離れそうになるが、慌てて押さえなおした。

「最初から素直に謝っておけば……許してあげてもいいかなって思ってたのに……」

 今度はドアノブがメキメキと音を立てだす。

「時雨。あんたが本気で逃げるってんなら、あたし一人じゃ分が悪いわね……」

「あの、雪さん?」

 恐怖のあまり、時雨は雪に向かって声をかけてみる。

「霧!」

「は、はい!」

 霧は雪の怒りように少し引き気味に眺めていたが、突然の指名に思わず姿勢を正す。

「時雨を捕まえなさい」

 ぼそりと、しかし力強くつぶやく。

「えっと……。それはちょっと、時雨が可哀想かなー、なんて」

 雪の要求に対し、霧は長めの髪を指で弄りながら視線をそらす。

 ドア一枚で隔たれた時雨にもさっきの問答が聞こえたようで、肩を揺らしながら笑いはじめる。

「あーっはっは! 馬鹿め! 男の友情ってのはお前が思ってるほどヤワじゃねーんだよ!」

 時雨はまさに高笑い。心底人を馬鹿にした笑い声で挑発する。

 だが時雨は気付いていない。ドアノブがメキメキとさらに音を立てている事に。

「一応確認だけど、霧。私の方には付かないってわけね……」

「え? いやー……。気まずいし、ひとまず中立というか――」

「時雨からお小遣いを強奪したら、貴方の分は大目に見てあげるわ」

「オッケー、我が命にかえてでも」

「ははっ……、こんなもんだよな。男の友情」

 雪に霧が加勢した時点で分が悪い。そう認識した時雨はドアを押さえる手を緩めないまま後ろの廊下を見る。

 玄関までの道のりは一本道。曲がり道などはあるものの、大した障害ではない。今となっては一番の障害は霧である。

「……うん、わかった。じゃあそれで……」

 二人がドアの向こうで何やら話しているのが耳に入った。おそらくは作戦を立てていたのだろう。

「何話してやがる?」

 時雨が聞き耳を立てようと、ドアに顔を近づけるが、その瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。いわゆる嫌な予感というやつだ。

 本能の指示するままに、全力で顔を横に逸らす。同時にドアの隙間から、時雨の顔スレスレ、先程まで顔があった空間を何かが猛スピードで駆け抜ける。

 イメージとしてはカッターの刃。それほどの薄さだが、異様に長い。

 危険を感じ時雨が大きく後ろに跳ぶと、ゆっくりとドアが開く。そこに立っていたのは霧だった。

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