5 / 82
葵
5
しおりを挟む
「そりゃ……告白したのは結々の方なんだし、いきなりラブラブというわけにはいかないだろうけど……。そんな深刻に考えなくても大丈夫よ。そんなのよくある初々しい悩みじゃない」
絵美の言葉に、少し心がほぐれる。
今感じている心配事も違和感も、絵美の言うように付き合いたての恋人たちが抱える一過性のもので、実は大した問題ではないのだろうか。
「そうかな、大丈夫かな」
「大丈夫よ。そもそも結々はもう藤宮先輩の彼女なんだから」
「そうだね」
絵美はその返答に満足したように頷くと、じゃあ帰りますか、と言って立ち上がった。
「え、帰るの? でもまだ何もしてないし」
「何もって、普段だって特に何もしてないでしょうが、このサークルは。一ヶ月に数回、ちょっと遠出して撮影会するだけだってのにこんな部室までもらえて、ラッキーよね、ほんと」
足元においてあった鞄を肩にかけて、絵美は続ける。
「特に今日は、うちの部の二年は休講だって言ってたから、待ってても誰も来ないよ。三年だって最近じゃほとんど来ないんだし」
「え、そうなの? 二年生今日来てないんだ……」
「そうよ、聞いてなかった? 今日はサークルの二年でどっか遊びに行ってるって。藤宮先輩も」
「そう……え、じゃあなんで絵美は部室に来たのよ。教えてくれればよかったのに」
「そりゃあ、あんたの話を聞きに来たのよ。部活以外じゃ昼休みくらいしか会えないし。じゃあ、またね」
ひらっと手を振って、絵美は廊下を反対方向へと歩いてゆく。
さらりと揺れた長い髪からただよう香水のいい香りだけが、まだ彼女のいた空間に残っていた。
絵美の言葉に、少し心がほぐれる。
今感じている心配事も違和感も、絵美の言うように付き合いたての恋人たちが抱える一過性のもので、実は大した問題ではないのだろうか。
「そうかな、大丈夫かな」
「大丈夫よ。そもそも結々はもう藤宮先輩の彼女なんだから」
「そうだね」
絵美はその返答に満足したように頷くと、じゃあ帰りますか、と言って立ち上がった。
「え、帰るの? でもまだ何もしてないし」
「何もって、普段だって特に何もしてないでしょうが、このサークルは。一ヶ月に数回、ちょっと遠出して撮影会するだけだってのにこんな部室までもらえて、ラッキーよね、ほんと」
足元においてあった鞄を肩にかけて、絵美は続ける。
「特に今日は、うちの部の二年は休講だって言ってたから、待ってても誰も来ないよ。三年だって最近じゃほとんど来ないんだし」
「え、そうなの? 二年生今日来てないんだ……」
「そうよ、聞いてなかった? 今日はサークルの二年でどっか遊びに行ってるって。藤宮先輩も」
「そう……え、じゃあなんで絵美は部室に来たのよ。教えてくれればよかったのに」
「そりゃあ、あんたの話を聞きに来たのよ。部活以外じゃ昼休みくらいしか会えないし。じゃあ、またね」
ひらっと手を振って、絵美は廊下を反対方向へと歩いてゆく。
さらりと揺れた長い髪からただよう香水のいい香りだけが、まだ彼女のいた空間に残っていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
アリア
桜庭かなめ
恋愛
10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。
それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。
様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。
※完結しました!(2020.9.24)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる