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~かりそめ夫婦の嫉妬(三)
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このところ京介の様子がおかしい……。
初めは仕事のトラブルかと思っていたが、どうもそうではないらしい……らしいと思ったのは、ふとしたときに京介から微かに香水の匂いがしたからだ。
“浮気!?”
もしかして?と思いつつも、どうしてよ!?と詰め寄る理名ではない。自分たちは“かりそめの夫婦”なのだから、浮気しようが何をしようがとやかくいう権利はない……と思っている。
ただ“婚姻期間中は好きな人・恋人は作らない”という一応の約束事があった。契約結婚してもらうのだから、それは当然のことと京介は言っていたが、元彼のことがあってから、男という生き物は浮気もするし裏切るもの!と理名は認識しており、大して驚きもしなかった。
多少“京介さんも……か”という残念感はあるが“好きな女性(ひと)”が出来たところで責める気もなく、なんなら報告してくれても……くらいに思っている。
最近やたらと構って来たり、子犬みたいな顔を見せてくれることもあった分……まったく寂しさや悲しさを感じないといえば嘘になるが……。
「理名さん。年内で会社を辞めることになった」
ある休日の午後“好きな人疑惑”を残したまま、京介がそんなことを言ってきた。本来なら驚くところではあるが、これは当初の予定通りで理名は驚くことはなく、決まったんだ?くらいの薄い反応だった。
「本当なら来春に会社を継ぐはずだったんだが、他の社員たちと連携を取りたくてね。しばらく一社員として働くことになった。なので正式に社長に就くのはもう少し先になる……いいだろうか?」
子犬のように窺う京介に理名は少し呆れてしまった。
(……私と“夫婦”続けていいの?)と。
契約結婚の約束事の一つとして“婚姻期間は社長に就任するまで”となっている。
もう少し先がどれくらいの期間かわからないが、そうなると婚姻期間が延びて“かりそめ夫婦”も継続することになる。もし本当に好きな人か恋人がいるなら、その人にお願いした方がいいのでは?
自分に窺ってる場合ではないだろう……?
京介が父親の会社を継ぐ為に、休日返上で色々と勉強し動いていたことを知っている。
会社を継ぐ為に“契約結婚”したことも……。
結婚したのは勢いだが、京介を見ていたら最後まで見届けるのも悪くないと思っていた。
けれど自分と婚姻関係を続けるメリットは……?と少なからず引っ掛かりを感じる理名ではあった。
(好きな人にお願い出来ないのかな? 契約結婚してること知られたくない……とか)
最近の理名は“夫婦ごっこ”を楽しんでいるところがあり、自分としては婚姻関係が延びたところで差して問題はないが、でも……と。
「あの京介さん……は、いいんですか?」
「何がだ?」
「あ、いえ……好きな……」
まごまごしていると京介の携帯が鳴った。
着信を見た京介の態度がどことなくぎこちなくなり、また「少し出掛けて来る」と言って出て行ってしまった。
別に隠さなくてもいいのに……と、理名は息をついた。変に隠される方が気を遣ってしまう。
京介のことは今では“臆病者でヘタレな上、面倒臭い男”と思っているが、上司としては尊敬していたし、仕事の出来る男というのは本当だ。だからこそ……。
「……京介さんがすごすごと出て行く姿は見たくなかったな……」と、気づいたら口から出ていた。
とりあえず京介が帰って来たら、話をしてみよう……。そんなことを思っていたら、なんだか胸に違和感を感じた。
(……ん?……あれ? なんかモヤモヤする……)
得体の知れない……いや、よく知っている感情に理名は戸惑ってしまった。
それは理名も認めたくないものだった。
「とにかく、今後のことを……きちんと話さないと……」
自分の感情に蓋をするように、理名はもう一度口に出して言ったーーーー
初めは仕事のトラブルかと思っていたが、どうもそうではないらしい……らしいと思ったのは、ふとしたときに京介から微かに香水の匂いがしたからだ。
“浮気!?”
もしかして?と思いつつも、どうしてよ!?と詰め寄る理名ではない。自分たちは“かりそめの夫婦”なのだから、浮気しようが何をしようがとやかくいう権利はない……と思っている。
ただ“婚姻期間中は好きな人・恋人は作らない”という一応の約束事があった。契約結婚してもらうのだから、それは当然のことと京介は言っていたが、元彼のことがあってから、男という生き物は浮気もするし裏切るもの!と理名は認識しており、大して驚きもしなかった。
多少“京介さんも……か”という残念感はあるが“好きな女性(ひと)”が出来たところで責める気もなく、なんなら報告してくれても……くらいに思っている。
最近やたらと構って来たり、子犬みたいな顔を見せてくれることもあった分……まったく寂しさや悲しさを感じないといえば嘘になるが……。
「理名さん。年内で会社を辞めることになった」
ある休日の午後“好きな人疑惑”を残したまま、京介がそんなことを言ってきた。本来なら驚くところではあるが、これは当初の予定通りで理名は驚くことはなく、決まったんだ?くらいの薄い反応だった。
「本当なら来春に会社を継ぐはずだったんだが、他の社員たちと連携を取りたくてね。しばらく一社員として働くことになった。なので正式に社長に就くのはもう少し先になる……いいだろうか?」
子犬のように窺う京介に理名は少し呆れてしまった。
(……私と“夫婦”続けていいの?)と。
契約結婚の約束事の一つとして“婚姻期間は社長に就任するまで”となっている。
もう少し先がどれくらいの期間かわからないが、そうなると婚姻期間が延びて“かりそめ夫婦”も継続することになる。もし本当に好きな人か恋人がいるなら、その人にお願いした方がいいのでは?
自分に窺ってる場合ではないだろう……?
京介が父親の会社を継ぐ為に、休日返上で色々と勉強し動いていたことを知っている。
会社を継ぐ為に“契約結婚”したことも……。
結婚したのは勢いだが、京介を見ていたら最後まで見届けるのも悪くないと思っていた。
けれど自分と婚姻関係を続けるメリットは……?と少なからず引っ掛かりを感じる理名ではあった。
(好きな人にお願い出来ないのかな? 契約結婚してること知られたくない……とか)
最近の理名は“夫婦ごっこ”を楽しんでいるところがあり、自分としては婚姻関係が延びたところで差して問題はないが、でも……と。
「あの京介さん……は、いいんですか?」
「何がだ?」
「あ、いえ……好きな……」
まごまごしていると京介の携帯が鳴った。
着信を見た京介の態度がどことなくぎこちなくなり、また「少し出掛けて来る」と言って出て行ってしまった。
別に隠さなくてもいいのに……と、理名は息をついた。変に隠される方が気を遣ってしまう。
京介のことは今では“臆病者でヘタレな上、面倒臭い男”と思っているが、上司としては尊敬していたし、仕事の出来る男というのは本当だ。だからこそ……。
「……京介さんがすごすごと出て行く姿は見たくなかったな……」と、気づいたら口から出ていた。
とりあえず京介が帰って来たら、話をしてみよう……。そんなことを思っていたら、なんだか胸に違和感を感じた。
(……ん?……あれ? なんかモヤモヤする……)
得体の知れない……いや、よく知っている感情に理名は戸惑ってしまった。
それは理名も認めたくないものだった。
「とにかく、今後のことを……きちんと話さないと……」
自分の感情に蓋をするように、理名はもう一度口に出して言ったーーーー
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