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~かりそめ夫婦・妻の憂鬱~
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“かりそめ生活”を始めて、三ヶ月が過ぎた。
ちょっとした喧嘩もありつつ、人前では“仲の良い夫婦”を装う生活を送る理名は、最近あることで頭を悩ませていた。
一つは、半月前から週三日、理名は近くのスーパーで働き始めたのだが……初出勤の日に京介がストーカーと間違われるような不審な行動をして、パートさんたちに“イケメンだけど残念な人”扱いされたり…。
もちろん理名にこってりと絞られた京介は、それ以来ストーカー紛いなことはしなくなったが、今度は昼間の理名がいる時間に堂々と買い物に来るようになった。
すると『理名さんが心配で仕方ないのね……新婚さんだから無理もないけど、お仕事はされてるのかしら……?』と心配を装った嫌味を言われることに……。
他のパートさんからは“仕事もしないで、昼間からフラフラしてる夫なんて……森園さんお気の毒ね”と言わんばかりの哀れんだ眼差しを向けられる羽目になった。
『だいたい京介さんは良くも悪くも目立つんですから、変な行動はしないでください!今後同じことしたら、家を出て行きますからね!』
『わ、わかった。申し訳ない……』
と注意し本人も反省していたのに、全然わかっていなかった。
それともう一つ、京介がやたらと構うようになったのだ。しかも理名が冷たくあしらうと悲しそうな顔をする……キッカケは多分“喧嘩”
結婚当初はほとんど家に居なかったのが、たまにではあるが夕食を一緒に食べるようになり。毎週ではないが休日には家に居るようになった……。
京介は臆病者で超ヘタレな上に“超面倒臭い”男だった。
(正直……鬱陶しいんですけど……)
あの異常なほど女に対して嫌悪感を持ち、近寄る女に蔑むような冷たい眼差しを向けていた男が、何がどうなって……犬っころのようになるのか……。
とはいっても、二人の関係に変化があったわけではなない。“かりそめ夫婦”であることには変わりなく、理名の気持ちも変わっていない。
ただ……京介がほんの少し心を開いたのだ……。
理名がこれまでの賎しい女たちと違い、人間(ひと)として信頼できる人物だと……。
だとしても、あまりにも変わりすぎじゃない!?と、理解に苦しむ理名ではあった。
そんなある日、パートさんたちの間で“理名さんはタワマンに住んでいる”という噂が広まった。
偶然パートさんの誰かがマンションに入っていく理名を見かけたらしい。
すると今まで京介をニート夫と陰で笑っていた人たちが、突然態度を変えてすり寄って来たのだ。
(え、何……?急に!?)
確かにタワーマンションに住んではいるが、家賃を払っているのは京介で、自分は住まわせて貰っている身なのだ……。何を勘違いしてすり寄ってくるのか……理名としては甚だ迷惑な話だった。
「ねぇねぇ、森園さんって隣駅にある高級タワーマンションに住んでるって本当?」
「……」
「一度遊びに言ってもいい!?」
住んでると言ってもないのに、パートさんたちのテンションが上がって、遊びに来る気満々である。
働き始めてまだ半月しか経ってないのに、なぜ親しくもない人間を家に入れなければならないのか?図々しいにも程がある。
「……あのマンションは知り合いが住んでて、たまたま訪ねただけですけど……(嘘)」
そういうと、一気に熱が冷めたパートさんたちは「やっぱり!旦那さんニートだものね。そうじゃないかと思ったのよ~」と、さっきまでのゴマすりはどこへやら。失礼過ぎる嫌味を残して帰って行った。
(なんなの……いったい?)
呆れて開いた口が塞がらない……。
人の価値を物や金でしか見ない女はどこにでもいるが、街の小さなスーパーで同じように働く相手に、あの人たちはいったい何にマウントを取ろうとしているのか……理名にはまったく理解出来なかった。
ただタワマンに住んでるという噂だけで、ころっと手の平を返すのだから、イケメンで御曹司の京介の周りはもっととんでもなくドロドロとして、えげつないんだろうな……と、理名は少しだけ京介に同情した。
(本当は住んでるって知ったら、押し掛けて来るかもしれないな……ちょっと面倒かも……)
「パート辞めて来ました!」
「は……?」
今日の夕食はキノコの和風パスタ。フォークに絡ませたパスタを口に運んでいた京介は、理名の突然の報告にパスタを口にするのも忘れて固まってしまった。
「職場の人と揉めたのか?俺のせいか?」
「違いますよ」
「じゃあ、どうして……」
京介は辞めた原因が自分にあるのでは……と、子犬のようにシュンとなった。
(ちょっと心許し過ぎじゃない……?)
「本当に京介さんのせいじゃないですから!」
「そうか……」
「仕事はまた探しますから心配なく」
「いや、心配はしてないが……」
あれだけ働きたいと言っていた理名が仕事を辞めたのは、やっぱり自分のせいなのでは……と内心責任を感じる京介だが……。
「お金があるって大変ですね……ちょっとだけ、わかった気がします……」
理名はしみじみと口にした。
「急にどうした?」
「なんでもないですよ!ただ思いもしないことがあるんだろうな……と思っただけです」
「あ、ああ……?」
京介はますます理名の言葉に困惑した。
とりあえず意志疎通が出来ないまま夕食を済ませた二人だったーーーー
ちょっとした喧嘩もありつつ、人前では“仲の良い夫婦”を装う生活を送る理名は、最近あることで頭を悩ませていた。
一つは、半月前から週三日、理名は近くのスーパーで働き始めたのだが……初出勤の日に京介がストーカーと間違われるような不審な行動をして、パートさんたちに“イケメンだけど残念な人”扱いされたり…。
もちろん理名にこってりと絞られた京介は、それ以来ストーカー紛いなことはしなくなったが、今度は昼間の理名がいる時間に堂々と買い物に来るようになった。
すると『理名さんが心配で仕方ないのね……新婚さんだから無理もないけど、お仕事はされてるのかしら……?』と心配を装った嫌味を言われることに……。
他のパートさんからは“仕事もしないで、昼間からフラフラしてる夫なんて……森園さんお気の毒ね”と言わんばかりの哀れんだ眼差しを向けられる羽目になった。
『だいたい京介さんは良くも悪くも目立つんですから、変な行動はしないでください!今後同じことしたら、家を出て行きますからね!』
『わ、わかった。申し訳ない……』
と注意し本人も反省していたのに、全然わかっていなかった。
それともう一つ、京介がやたらと構うようになったのだ。しかも理名が冷たくあしらうと悲しそうな顔をする……キッカケは多分“喧嘩”
結婚当初はほとんど家に居なかったのが、たまにではあるが夕食を一緒に食べるようになり。毎週ではないが休日には家に居るようになった……。
京介は臆病者で超ヘタレな上に“超面倒臭い”男だった。
(正直……鬱陶しいんですけど……)
あの異常なほど女に対して嫌悪感を持ち、近寄る女に蔑むような冷たい眼差しを向けていた男が、何がどうなって……犬っころのようになるのか……。
とはいっても、二人の関係に変化があったわけではなない。“かりそめ夫婦”であることには変わりなく、理名の気持ちも変わっていない。
ただ……京介がほんの少し心を開いたのだ……。
理名がこれまでの賎しい女たちと違い、人間(ひと)として信頼できる人物だと……。
だとしても、あまりにも変わりすぎじゃない!?と、理解に苦しむ理名ではあった。
そんなある日、パートさんたちの間で“理名さんはタワマンに住んでいる”という噂が広まった。
偶然パートさんの誰かがマンションに入っていく理名を見かけたらしい。
すると今まで京介をニート夫と陰で笑っていた人たちが、突然態度を変えてすり寄って来たのだ。
(え、何……?急に!?)
確かにタワーマンションに住んではいるが、家賃を払っているのは京介で、自分は住まわせて貰っている身なのだ……。何を勘違いしてすり寄ってくるのか……理名としては甚だ迷惑な話だった。
「ねぇねぇ、森園さんって隣駅にある高級タワーマンションに住んでるって本当?」
「……」
「一度遊びに言ってもいい!?」
住んでると言ってもないのに、パートさんたちのテンションが上がって、遊びに来る気満々である。
働き始めてまだ半月しか経ってないのに、なぜ親しくもない人間を家に入れなければならないのか?図々しいにも程がある。
「……あのマンションは知り合いが住んでて、たまたま訪ねただけですけど……(嘘)」
そういうと、一気に熱が冷めたパートさんたちは「やっぱり!旦那さんニートだものね。そうじゃないかと思ったのよ~」と、さっきまでのゴマすりはどこへやら。失礼過ぎる嫌味を残して帰って行った。
(なんなの……いったい?)
呆れて開いた口が塞がらない……。
人の価値を物や金でしか見ない女はどこにでもいるが、街の小さなスーパーで同じように働く相手に、あの人たちはいったい何にマウントを取ろうとしているのか……理名にはまったく理解出来なかった。
ただタワマンに住んでるという噂だけで、ころっと手の平を返すのだから、イケメンで御曹司の京介の周りはもっととんでもなくドロドロとして、えげつないんだろうな……と、理名は少しだけ京介に同情した。
(本当は住んでるって知ったら、押し掛けて来るかもしれないな……ちょっと面倒かも……)
「パート辞めて来ました!」
「は……?」
今日の夕食はキノコの和風パスタ。フォークに絡ませたパスタを口に運んでいた京介は、理名の突然の報告にパスタを口にするのも忘れて固まってしまった。
「職場の人と揉めたのか?俺のせいか?」
「違いますよ」
「じゃあ、どうして……」
京介は辞めた原因が自分にあるのでは……と、子犬のようにシュンとなった。
(ちょっと心許し過ぎじゃない……?)
「本当に京介さんのせいじゃないですから!」
「そうか……」
「仕事はまた探しますから心配なく」
「いや、心配はしてないが……」
あれだけ働きたいと言っていた理名が仕事を辞めたのは、やっぱり自分のせいなのでは……と内心責任を感じる京介だが……。
「お金があるって大変ですね……ちょっとだけ、わかった気がします……」
理名はしみじみと口にした。
「急にどうした?」
「なんでもないですよ!ただ思いもしないことがあるんだろうな……と思っただけです」
「あ、ああ……?」
京介はますます理名の言葉に困惑した。
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