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兄と座敷ぼっこ(3)
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「サチさんに会いたい?」
まったりとした店内に豆が挽かれる音が小さく響く。ミルを回しながら僕は目の前にいる客にポツリと訊いた。
サチさんは兄さんを『キライジャナイ』と言っていた。ということは、まだ修復の見込みがあるということだ。
すると次に確かめることは兄の気持ち……では、あるが。
僕の質問にとんとわけがわからない?という兄にしてはめずらしく間抜けな表情をしている。
「いきなり……どうしたんだ?」
「いや、この間……サチさんに嫌われてるって言ってたから」
兄は少しだけ重々しい溜息を吐いた。言いたくないのかな?と思っていると。
「会いたいとか会いたくないとか……そういうことではない。サチが元気なら俺はそれでいい。……お前がいるしな」
最後の“お前がいるしな”が、ちょっと引っ掛かるが、昔から兄は本心を見せないところがある。大人だからといえばそうなのかもだが、兄はどこか僕に距離を置いてる気がするのだ(それは僕もどけど)。それがサチさんと関係してるなら知りたいと思った。
「ねえ、兄さんにとってサチさんてどんな存在?」
「なんだ?めずらしく食いついてくるな」
「正直に言うと、兄さんにサチさんが見えてたことにショックだった。サチさんが見えるのって僕だけの特権みたいに思ってたし……ちょっと優越感みたいのがあったから……さ。兄さんとサチさんの昔の話し聞いて、嫉妬した……」
情けないけど、自分の正直な気持ちだ。
兄は鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしたと思ったら、肩を震わせながら笑いだした。大爆笑だ。
こんな大笑いしてる兄は見たことがない。いつもクールで何事にも動じない兄なのに……と。僕の方が面食らってしまった。
……?
「ほんと、お前には敵わんな。ばか正直で純粋で……疑わない」
ん?んん?これって、褒めてんの?バカにしてんの?上げて落とすってやつ?
僕が困惑していると「嫉妬してたのは、俺の方だ」と言ってきた。さらに困惑する僕。
「言っただろ、お前が生まれるまではサチの遊び相手は俺だったって」
僕は頷いた。
兄は幼少の頃の気持ちを話してくれた。
サチさんのことは大事に思っていたけど、どう接していいかわからず意地悪するという子どもあるあるな手段を取ってしまったこと。
僕がなんの躊躇もなくサチさんを受け入れたこと。サチさんも僕に心を開いたこと。
自分にはできなかったのにと、心の中で10も下の弟に嫉妬していたこと。
僕とサチさんが仲良くなればなるほど羨ましくて妬ましくて……それを素直に言えなかったこと。
気づけば距離をとっていたこと……を明かしてくれた。
話し終わったあとの兄はどこかすっきりしたように「まあ、子どもの時の話だ。今は嫉妬も羨ましいもない。どんな状況でも誰といてもサチが幸せならそれでいい。それにお前が傍にいるなら安心だ」と、今までに見たことのない優しい笑みを浮かべていた。
その時、嫉妬するのもバカらしいと思うくらい敵わない……と、心の底から思った。
まったりとした店内に豆が挽かれる音が小さく響く。ミルを回しながら僕は目の前にいる客にポツリと訊いた。
サチさんは兄さんを『キライジャナイ』と言っていた。ということは、まだ修復の見込みがあるということだ。
すると次に確かめることは兄の気持ち……では、あるが。
僕の質問にとんとわけがわからない?という兄にしてはめずらしく間抜けな表情をしている。
「いきなり……どうしたんだ?」
「いや、この間……サチさんに嫌われてるって言ってたから」
兄は少しだけ重々しい溜息を吐いた。言いたくないのかな?と思っていると。
「会いたいとか会いたくないとか……そういうことではない。サチが元気なら俺はそれでいい。……お前がいるしな」
最後の“お前がいるしな”が、ちょっと引っ掛かるが、昔から兄は本心を見せないところがある。大人だからといえばそうなのかもだが、兄はどこか僕に距離を置いてる気がするのだ(それは僕もどけど)。それがサチさんと関係してるなら知りたいと思った。
「ねえ、兄さんにとってサチさんてどんな存在?」
「なんだ?めずらしく食いついてくるな」
「正直に言うと、兄さんにサチさんが見えてたことにショックだった。サチさんが見えるのって僕だけの特権みたいに思ってたし……ちょっと優越感みたいのがあったから……さ。兄さんとサチさんの昔の話し聞いて、嫉妬した……」
情けないけど、自分の正直な気持ちだ。
兄は鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしたと思ったら、肩を震わせながら笑いだした。大爆笑だ。
こんな大笑いしてる兄は見たことがない。いつもクールで何事にも動じない兄なのに……と。僕の方が面食らってしまった。
……?
「ほんと、お前には敵わんな。ばか正直で純粋で……疑わない」
ん?んん?これって、褒めてんの?バカにしてんの?上げて落とすってやつ?
僕が困惑していると「嫉妬してたのは、俺の方だ」と言ってきた。さらに困惑する僕。
「言っただろ、お前が生まれるまではサチの遊び相手は俺だったって」
僕は頷いた。
兄は幼少の頃の気持ちを話してくれた。
サチさんのことは大事に思っていたけど、どう接していいかわからず意地悪するという子どもあるあるな手段を取ってしまったこと。
僕がなんの躊躇もなくサチさんを受け入れたこと。サチさんも僕に心を開いたこと。
自分にはできなかったのにと、心の中で10も下の弟に嫉妬していたこと。
僕とサチさんが仲良くなればなるほど羨ましくて妬ましくて……それを素直に言えなかったこと。
気づけば距離をとっていたこと……を明かしてくれた。
話し終わったあとの兄はどこかすっきりしたように「まあ、子どもの時の話だ。今は嫉妬も羨ましいもない。どんな状況でも誰といてもサチが幸せならそれでいい。それにお前が傍にいるなら安心だ」と、今までに見たことのない優しい笑みを浮かべていた。
その時、嫉妬するのもバカらしいと思うくらい敵わない……と、心の底から思った。
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