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兄と座敷ぼっこ(2)

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サチさんの存在に気づいたのは僕が3才になるかならないかの頃で、この時は誰かいる?くらいの認識だったと思う。
話し掛けて来るわけでもなく、遊び回るわけでもなく部屋の隅でジッとしているだけのサチさんに僕がよく笑い掛けていたと、先日兄とサチさんの意外な過去を知った時に兄が教えてくれた。
小学校に上がる頃にはサチさんが自分と違うのだと何となく気づいていた。でも不思議と怖いとかはなく、その頃には僕が話し掛けるとサチさんも戸惑いながら短い言葉を返してくれるようになっていて、友達と遊ぶよりサチさんと過ごす時間の方が楽しくなっていた。
気づけば学校では友達が一人もいなかった……というのは言わずもがなである。
両親は友達のいない僕を心配していたけど、僕はサチさんがいれば良かったし楽しかったから、学校は勉強しに行く所と、生意気にも割りきった考えで小学校も中学校も高校も通っていた。
良くいえば純粋で一途、悪くいえばただのバカ……。
そんなこんなもあり極端にコミュ力が低く、人間関係が超苦手な大人に成長してしまったのは当然といえば当然ではある。それは誰のせいでもない、もちろん自分のせいなのだが。でも最近は少しずつではあるけど改善しつつある。兄にリハビリ頑張れと言われてしまった。



ハルカちゃんのことでしばらく元気がなかったサチさんに最近やっと笑顔が戻ってきた。
いつものように朝食を作り、ミルク多めの珈琲(9割ミルク)を淹れてのんびりと過ごす。
トーストを頬張るサチさんを見つめながら、まだ兄が嫌いなのだろうか……?とふいに気になった。
もちろん全面的に兄が悪い!!
でも……『俺はサチに嫌われてるからな』と言った時の兄の顔が微かに悲しげに見えたのだ。
何だかんだと子どもの頃に一緒に遊んだ仲である。兄がやったことは酷すぎるし許せないが、ずっと避けられるのはやっぱり辛い。いい様に考えれば愛情表現の裏返し……とも思える。
よくある好きな子をいじめてしまうってやつだ。
今は女性客の扱いも上手くクールな兄もそんな時代があったのだと思わずニヤけていると、『ソウタヘン』とサチさんに変な目で見られてしまった。
いやいや、今はそんなことよりサチさんに確認しないといけないことがある。もしかしたら嫌なことを思い出させるかもしれない。しばらく口を聞いて貰えないかもしれないけど……。
「サチさん、兄さんと会わないの?」
急にどうしたの?という顔をされた。当然だろう今までそんなこと聞いたことも口にしてこともなかったのだから。でもそれは兄にサチさんが見えてないと思っていたから……二人の昔のことを知って気にならないわけがない。
(嫉妬深い彼氏かっ!!)
サチさんは少し考え込むと『……アワナイ』とポツ。「どうして?」と僕。するとまた考え込んで『イオリイジワルスル』とポツリ。
これ……は、サチさんの中で相当なトラウマというか傷になっていると感じた。
(兄さん、何やったの~~!!)
兄に不信感を募らせながら、最後に「兄さんのこと嫌い?」と聞いた。
サチさんは自分でもよくわからないといった顔で『キライ……ジャ……ナイ?』と、小さく呟いた。
どうも僕が思ってるより、サチさんの中で色んな思いが渦巻いているようだった……。

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