Daty-b

霜月 しき

文字の大きさ
上 下
2 / 3

第2話 お披露目

しおりを挟む
先刻、箱詰めされた係員に連れられて、研究所の教室が並ぶ廊下へ連れられる。
軍事研究所、という看板のかかってある教室に入ると、中には人がたくさん既にいた。さっきの騒ぎのせいか目線が俺たちに集まる。
ならんだ机の空いた席に三人並んで腰掛ける。俺らが座るのを待っていたかのようなタイミングで教員が入ってきた。
それまで後ろをぴったりついてきていた係員は最後まで笑顔を絶やさずどこかへいってしまった。
入ってきた教員はそれとは対比に無表情で目つきが怖い。教室中がしんと静まり返る。
「えー、」
急に話したず教員に目線が集まる。
「ようこそ。軍事研究所へ。私は教員のレベラだよろしく。俺からはお前たちにここの仕組みを話せと言われている。大事なことだからしっかり聞いてくれ。
まずここのカリキュラムは授業:実践を2:8で行っていく。」
生徒がざわめく。メモを取るもの、周りと話し合うものなど、それぞれが動揺をみせる。
「軍事に関する実践と言うと相当厳しいものだ。移動する者はしてもらって構わない。
実践は基本的にチームで行ってもらう。それぞれの国から依頼がくるのを教員がランク付けてそのチームに任せるものだ。チームはランクにあった任務なら好きなものを選び実践できる。で、
そのランクというのはS.A.B.Cとあって生徒にもランクがつけられる。そして、それを決めるのが軍事研究所の第一イベントのランク・ナップだ。」
「ランク・ナップ?」
全員が面白いほど声を揃える。
「ランク・ナップ他の説明を、オルガ教員にしてもらう。オルガ。」
「はーい!やっほ~☆教員のオルガでーす!」
これまたキャラの濃い若くて胸の空いた服が特徴的な女性。男性陣の目線はもちろんそこに向かう。
「これからぁ、ランク・ナップの説明をします!ランク・ナップが行われるのは年に一回だけ!まずこれから共に戦うチームを結成、明日にランク・ナップが行われます!
そしてそのランクですが日常でも自分のランクより上の人からこのランクバッチを奪えばそのランクは交換となります!チームの一人が奪われれば全員交代でーす。」
教員が小さいバッチをひらつかせる。
「実践という名の依頼のランクより高いチームしかその依頼は受けられません。そしてその依頼の報酬額の二割が生徒へ行きます!
後は寮代、食事代等もろもろ引かれ残りは学校のものです~!あ!今日問題起こしちゃった2人はしばらくタダ働きだけど☆ね♪」
教員が俺らの方にウインクする。
なにかあるとは思っていたがしばらくタダ働きとは響きが悪すぎる。くそっ…。
周りは苦笑いしている。
「今日はこれが終われば寮に戻ってもらうけど寮は研究所の種類関係なしになってるよ~!あ、さっき笑った人たちも乱闘とか他規則を破ってしまうと同じような罰または退学となりますので注意してね!
まあ今日は、チーム決めた人から申請して寮に戻り、明日の08:30にグラウンドに集合!わかったあ?」
はーいと返事する生徒たち。周りの人たちとさっそく交渉をはじめている人もいる。

「あ、依頼は玄関前電子掲示板に載ってるからチェックしてみてねー!ではかいさ~ん☆」
解散の合図で生徒たちはみんな立ち上がり、教室内は騒がしくなってきた。
エトとトワと目が合った瞬間トワの肩に男の手が乗った。と同時に俺の周りに女たちが群がる。
「ねえ~君さっき乱闘してた子だよねえ?」
「さっき見ててすっごくかっこいいなって思ってたの!チームになってくれない?」
あー。うぜー。顔だけ見やがって。
一方手を置かれたトワの方は、
「君かわいいねー!俺たちと組まない?」
「乱闘見てたよ!すごい能力だね。」
「名前教えてよ~。」
トワはどう見てもイライラしているのがわかる。さっき俺にしたことをまたしそうになるのをエトが無言で止めるだけ。
エトは俺に必死に目線…といっても目は隠れているがなにかを訴えてくる。
俺は背後にいる女たちの方を向いた。
一人ずつじっと見つめる。
女は驚いたようだがやがて赤面して黙った。
「悪いな。」
女たちに微笑を浮かべてトワの隣へ行きトワの肩に手を乗せてトワの頭を手で俺の頭に近づけるような体制をとった。
女たちは今だ赤面して羨ましそうにしている。
「俺はこいつらと組むから。」
女はキャーキャー言ってどこかへ去っていった。男に鋭い目線を送ると男は諦めて帰っていった。
ため息をついて一安心し、横を向くとトワがものすごく不機嫌な顔をしてまもなく俺を殴って床へへばらせた。
痛がっている俺のそばにエトが座った。
「かっこよかったよ!ネル!」
その言葉は悪い気はしなかった。薄く微笑んで起き上がろうとした時、
「これでチーム結成だね!」
なんて言わなかったらもう一度床にへばりつくことはなかったのだろうが。
「うーん、チーム名ねえ」
「ま、待て待て!俺は一言もチームになるとは…」
「言ったよね?」
「い、言った…けど!あれは仕方なくというか!」
「ネル、僕らとチーム組むの嫌なの?」
うるうる目を光らせるエト…どうもこういう目は苦手だ…。それにもしこいつらと組まなかったらチームになるのは恐らくあの女たちだ。そう考えるとこいつらの方がましだな…。
「…ああ仕方ないな!組んでやるよ!」
エトの目が歓喜に輝く。やったー!と飛び跳ねている。トワも微妙な表情をしながら納得しているようだ。きっと俺と同じ思考が働いたのだろう。トワを諦めた男たちはこっちを見てニヤニヤしている。
それを知ってかトワは笑みを浮かべながらわざと俺のところへやってきて男たちに目線をむけて俺がさっき女にやったのと同じことをやった。男が無理やりやったのが悔しかったのだろうか。
確かに俺をしてやられた感じで解せない。男たちがじっとこっちを見てくるだけで帰らないのでトワは俺の腰に手を回して無理やり引っ張って教室を後にした。
廊下をつかつか歩きながら愚痴を垂れ流す。
「なんなのよ、鬱陶しい。」
「それはこっちのセリフだ早く離せ。」
あっと咄嗟にトワが腕を離す。
「別に好きでやってる訳じゃ…」
「わかってるよ…」
「ネル、残念そうだねぇ。」
「あ?!」
「本当はもう少しこうしてても悪くないな。とか思ったんじゃないのー?」
エトが俺の真似をしながら茶化してくる。うんざりしている俺の隣でトワは赤面している。
「なんでお前赤面すんだよ!」
「え?は?してないよ!!!」
トワは不慣れそうに顔をそらす。エトはまだニヤついている。
「エト覚えとけよ…。」
「エト…?」
「?」
あ、しまった。
「今!!!今エトって言ったよね?!?!」
やってしまった。ついついあだ名で呼んでしまった。
「ああ!もう!!!早く寮行こうぜ!暗いし!!!」
「暗くないけど。」
「トワ…トワレットは黙ってろ!!!」
急いで駆け出す俺に二人は明るい表情で着いてきた。
やがて、寮の集まるところへやってきた。敷地に寮があるなんて流石。寮自体も豪華な風貌で庭や噴水まである。大きな扉は自動で開くようになっておりまるで高級マンション。
扉の先には受け付けがあり、綺麗な制服を着た長髪の人が顔を出していた。
「貴方たち新入生?」
「はい。」
「待っていたわ、こっちまで来てくれるかしら。」
俺たちは扉の前から受け付けまで足を進めた。受け付け員は寮の全容図を取り出して名前を聞いてきた。名前を言うと新入生の一覧にチェックして全容図をこちらに向けて見せてきた。
「エトワール=ベルタさん、トワレット=ベルタさんはここね、それでネルウェスト=ウィルダさんはここ…」
「寮って同性同士じゃないんだな。」
俺はふと思ったことを吐き出すと周りの三人が驚いてこちらを見る。
「私たち…女よ?」
ん?
「ん?」
「僕、女だよ?」
「え…えー!!!?!?!まじで?!まじで?」
「し、失礼な!!!」
エトは頬を膨らませて足をじたばたさせた。
「わ、悪い!悪かったよ!」
トワと受け付け員は引いたような顔でこちらを見ていた。
まじかよ…こいつボクっ娘だったのか…
「まあよく間違えられるから仕方ないけどね!」
「まじで悪かった…」
「もう!早く行こう!姉さん!」
しょげる俺に受け付け員のお姉さんは笑顔で鍵を渡してくれた。
「元気出してください。私も正直わかりませんでしたから。」
「え、じゃあ能力?」
「いえいえ、ほらこの名簿に性別が…」
俺はギャグでよくあるようなズッコケしたさを抑えるのに必死だった。

さて、鍵ももらったことだし、一様報告入れとくか…。
携帯を取り出しあいつにかけてみる。ワンコールで出る辺り、皮肉っぽい。
『おっネルボーイ!ちゃんとやってるかー?』
「その呼び方やめろって何度も言ってるだろ。」
『いいじゃねえかよ。今どういう状況?』
「入学式が終わって寮の中だ。」
『寮か…ってことは受かったんだな。』
「お前!!!知ってたのか?!」
『知ってたもなにも何も聞かずに出向いたのお前だろ?』
ウッと声を詰まらせる。電話の先は得意げな様子。
『で、ターゲットは?発見したか?』
「いや、それが注意してはいるんだけど全然。もしかして落ちたのか?」
『いや、相手は相当の手練れだ。落ちるとは考えられない。』
「なんで手練れってわかるんだよ。前に狙ってたやついるのか?」
『ああ、ターゲットは餓鬼の頃から狙われているらしい。前もプロを雇ったらしいが結局みつけられず仕舞いで時間切れだったらしい。』
「あ?見つけられない?じゃああの写真はどっから持ってきた?」
『俺も疑問に思って聞いてみたら餓鬼の頃の写真から今推定される年齢を予測したものらしい。PDS所属説も餓鬼の時にPDSの初等部にいたことから推定されたものらしい。というか、手練れの能力者はだいたいPDSに集まるらしいからな。』
「推定、推定って大丈夫か?それ、情報違いで名前汚されたらたまんないぞ。」
『まあ相手が能力者だからどうにか姿消したりしてるのかもしれないがな…。』
「もういい。情報がわかったら連絡してくれ。やれることはやってみる。PDS初等部出身から探ってみる。」
『ああ。俺も金持ちじゃねーんだ。早く成功させて返ってこい。じゃあな、暗殺ボーイ。』
ツーツーと電話の切れた音がする。
暗殺ボーイも辞めろって何度もいってんのになあ…。
にしてもここまで手こずるなんて初めてだな。ま、長々と高校生ライフ、楽しむか。

廊下を歩き進めていくと俺の名前とその下に別の人物の名前が描いてあるプレートのついた部屋に到着する。
マイケル=レイラ…か。
頭と中にゴツゴツした筋肉質の地黒が浮かぶ。全くの偏見である。
深くため息をつき、ドアノブに手を掛ける。中にはベッドが二つ距離を開けて置いてあり、あとは小さな冷蔵庫とかタンスとか物置とかが置いてある。飯は共同なのでキッチンはないが綺麗なシャワールームは完備されていた。靴を脱ぎ、カーペットに足をつけると奥のベッドに人影があるのに気づいた。
寝てる?
近づいてよく見ると上着を脱ぎ捨ててノースリーブのワンピース姿で寝ている…
?!ワンピース?!スカート?!?!え?ここ、俺の部屋だよな?!
急いでプレートを確認するとやはり自分の名前がある…。
てことは、こいつがマイケル=レイラ?こんな華奢で女顔がマイケルくん?!いや、待てよ、女?いやいやいや男同士で同室のはず…。
落ち着こうとしてもう一度マイケル=レイラの顔を覗き込む。や、でもよく見たら男…?
覗き込んだままの俺の目の前でマイケルが目を覚ました。
「うわあ?!」
驚いて距離を置く両者。マイケルは急いで上着を着てベッドから飛び降りた。
「えっと、ネルウェスト=ヴィルダくん?」
「ああそう。で、お前、マイケル=レイラ?」
名前を聞かれ、反射的にマイケル=レイラはポーズをとった。
「そう!俺がマイケル=レイラだよ!」
俺?!?!
「あの…傷ついたら悪い…お前…男?」
「うん?」
マイケルは不思議そうに返事をする。
「じゃあ、その…スカートは…」
あっとマイケルが反応して服を整える。ネルは手を裏返して頬に当て世に言うオネエのポーズをしてこれ?と恐る恐る呟いた。
マイケルは頬をぷうっと膨らませて腕組みをして答えた。
「しっ失礼な!俺はただ、女の子の格好しないと落ち着かないだけだよ!」
「わ、悪い…」
俺は気まずさと恥ずかしさで下を向いて苦笑いしていた。マイケルは頬を戻して少し黙ったあと、ゆっくりと近づいて俺のアゴを軽く持ち上げるようにして俺を上から見下ろした。
「俺のことはマイマイって呼んでね♪」
俺は驚いてマイケルを突き放しながら叫んだ。
マイケルはぽかんとしている。
俺が咄嗟に悪いと言うとマイケルは何事もなかったかのように立ち上がり、純白のスカートのなにかを払う仕草をした。
「ネルちゃん…軍事研究所?」
「そうだけど…?」俺は申し訳ない気持ちからベッドの上で正座をして丁寧に答えた。
マイケルは立ったまま考え込む探偵のようなポーズで俺をくまなく上から下まで眺めた。
しばらくしてん?と言い放ったり考え込んだりしている様子を見せて、やがてマイケルは俺の顔の前に自分の顔を持って来て問いた。
「暗殺者?」

しばらくの沈黙が続いた。




「え…?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...