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ⅩⅩⅩⅤ
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「漫画家、訃報……えっ、嘘でしょ……」
と由梨の声、彼女十代の頃は漫画家を目指していたそうで今でもかなりの漫画好きだそうだ。その彼女にとって漫画家の訃報は気になるニュースだと思う、ケータイ画面を見ながら表情が消えていく。
「富士川譲が……乳癌だったんだ……」
クズ男はこの漫画家の担当のはずだ、今頃彼女の近辺はてんやわんやのはずなのに何故こんな所にいるんだ?
「あなたここで何してるんです?昨夜から富士川先生の看病当たってましたよね?四社の担当者とアシスタントさんと交代で看病に当たってると伺っていましたが」
「そんな事よく知ってるな、部外者のくせに」
「仕事上では部外者ですが個人的にはそうもいかないんですよねぇ……あなた一つの命見放したんですよ、妻の訃報で慌ただしい中余所の女と懇ろかましてたとなると……」
まだ話の続きがあったが、私のケータイが動きを見せる、檜山からの着信だ。
「はい」
『ニュースはもう見てるな?』
「見ました」
『そうか……まさかとは思うが仰木大和そっちに行ってないよな?』
「そのまさかです」
私はケータイをクズ男に差し出した。
「はい……」
クズ男は私のケータイを受け取って通話に出る、どんな顔をしてくれるのか見ものである。今頃檜山から事情を聞いているのだろう、さすがに顔面の色が無くなっていく。間違いなくシビアな内容をシャツにパンツ姿で聞いているのだからあまりにも不様なものだ。
「……」
通話を終えたクズ男からケータイが返ってくるが通話はもう切れていた。いくら所属が違えど契約していた漫画家の訃報だ、何らかの影響はあるだろう。
「……会社に戻る」
クズ男はゆらゆらした足取りで階段を登っていく。香津もその背中を追い掛けたので由梨と私がその場に残される。
「麻帆ちゃん、葬儀参列するの?」
「そのつもりです、昔一緒に働いていたので」
「ファンの献花とかってあるのかな?」
「現時点では分かりませんが、もしあるようでしたら報せますよ」
「分かった、ありがとう」
由梨もまたゆらゆらした足取りでキッチンに入り、水を飲んでから風呂に入っていった。
翌日の夜、私は檜山と共に富士川讓の通夜に参列していた。富士川讓の本名は仰木幸穂、一緒に働いていた頃はまだ独身で旧姓である小宮だった。私はそのくせが抜けず結婚して以降も『小宮さん』と呼んでいた。彼女は五年前とある出版社の公募で大賞を獲り、漫画家になれる道が開けたことで勤務先の百貨店を辞めた。
私たちはそうしょっちゅう連絡を取り合うほど親しくはなかったが、途切れない程度の交流は続けていた。三年前にクズ男と結婚し、プライベートでは度重なる夫の不貞に悩まされたり、乳癌を発症したりごきょうだいを亡くされたりと踏んだり蹴ったりだったように思う。それと反比例するかの様に漫画家としての人気は鰻上り、テレビアニメ化の話も出ていたほどだった。
「この度は御愁傷様です」
私たちは幸穂の母親に一礼する。彼女は憔悴している風だったが丁寧に礼を返してくださった。
「薗田さん」
葬儀を終えて帰宅しようとしたところに幸穂の母親が私を追いかけてきた。
「はい」
「……今日は来てくれてありがとう。あなたはどうか長生きなさってね」
と言って私の手を握ってきた。彼女とは何度か面識があったし、立て続けに娘を二人亡くしている事で同年代の私に何かを感じてくださっているのだろう。
「……精進致します」
私は幸穂の母親の手を握り返した。
と由梨の声、彼女十代の頃は漫画家を目指していたそうで今でもかなりの漫画好きだそうだ。その彼女にとって漫画家の訃報は気になるニュースだと思う、ケータイ画面を見ながら表情が消えていく。
「富士川譲が……乳癌だったんだ……」
クズ男はこの漫画家の担当のはずだ、今頃彼女の近辺はてんやわんやのはずなのに何故こんな所にいるんだ?
「あなたここで何してるんです?昨夜から富士川先生の看病当たってましたよね?四社の担当者とアシスタントさんと交代で看病に当たってると伺っていましたが」
「そんな事よく知ってるな、部外者のくせに」
「仕事上では部外者ですが個人的にはそうもいかないんですよねぇ……あなた一つの命見放したんですよ、妻の訃報で慌ただしい中余所の女と懇ろかましてたとなると……」
まだ話の続きがあったが、私のケータイが動きを見せる、檜山からの着信だ。
「はい」
『ニュースはもう見てるな?』
「見ました」
『そうか……まさかとは思うが仰木大和そっちに行ってないよな?』
「そのまさかです」
私はケータイをクズ男に差し出した。
「はい……」
クズ男は私のケータイを受け取って通話に出る、どんな顔をしてくれるのか見ものである。今頃檜山から事情を聞いているのだろう、さすがに顔面の色が無くなっていく。間違いなくシビアな内容をシャツにパンツ姿で聞いているのだからあまりにも不様なものだ。
「……」
通話を終えたクズ男からケータイが返ってくるが通話はもう切れていた。いくら所属が違えど契約していた漫画家の訃報だ、何らかの影響はあるだろう。
「……会社に戻る」
クズ男はゆらゆらした足取りで階段を登っていく。香津もその背中を追い掛けたので由梨と私がその場に残される。
「麻帆ちゃん、葬儀参列するの?」
「そのつもりです、昔一緒に働いていたので」
「ファンの献花とかってあるのかな?」
「現時点では分かりませんが、もしあるようでしたら報せますよ」
「分かった、ありがとう」
由梨もまたゆらゆらした足取りでキッチンに入り、水を飲んでから風呂に入っていった。
翌日の夜、私は檜山と共に富士川讓の通夜に参列していた。富士川讓の本名は仰木幸穂、一緒に働いていた頃はまだ独身で旧姓である小宮だった。私はそのくせが抜けず結婚して以降も『小宮さん』と呼んでいた。彼女は五年前とある出版社の公募で大賞を獲り、漫画家になれる道が開けたことで勤務先の百貨店を辞めた。
私たちはそうしょっちゅう連絡を取り合うほど親しくはなかったが、途切れない程度の交流は続けていた。三年前にクズ男と結婚し、プライベートでは度重なる夫の不貞に悩まされたり、乳癌を発症したりごきょうだいを亡くされたりと踏んだり蹴ったりだったように思う。それと反比例するかの様に漫画家としての人気は鰻上り、テレビアニメ化の話も出ていたほどだった。
「この度は御愁傷様です」
私たちは幸穂の母親に一礼する。彼女は憔悴している風だったが丁寧に礼を返してくださった。
「薗田さん」
葬儀を終えて帰宅しようとしたところに幸穂の母親が私を追いかけてきた。
「はい」
「……今日は来てくれてありがとう。あなたはどうか長生きなさってね」
と言って私の手を握ってきた。彼女とは何度か面識があったし、立て続けに娘を二人亡くしている事で同年代の私に何かを感じてくださっているのだろう。
「……精進致します」
私は幸穂の母親の手を握り返した。
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