32 / 39
ⅩⅩⅩⅡ
しおりを挟む
それから何日か経ったある朝、私はごみ捨てで外に出た際近所の小母さんに声を掛けられた。
「おはようございます」
「久し振りね、最近見ないけどお元気そうね」
えぇまぁ。夜勤に仕事を変えているのと執筆のお仕事が増えたおかげで、このところ明るい時間に外出する事はほとんど無くなってる。
「お宅の駐車場に外車がよく停まってたけどどなた?」
外車?ミカも香津も国産車のはずだが。私はペーパー、由梨は免許を持っていない。ひょっとして由梨の彼氏か?
「同居人の彼氏かと、送り迎えしてもらってるとかで……」
「何言ってんの?結構な時間居座ってるわよ。しかもディーゼル車みたいでエンジン音もうるさいし」
これは一度由梨に確認を取ろう。
「すみません、何だかご迷惑をお掛けしてる様で……」
「ちょっと待って、麻帆ちゃん何も聞いてないの?」
えぇ。私は正直に頷く。
「某さんに聞いただけよ、私は車しか見た事ないんだけどね」
と小母さんは私が一切知らなかった事を教えてくれた。
「最近はなりを潜めてるみたいだけど、誰もいない時間帯を見計らってあなたのお父さんの後妻の娘がその外車の主の男連れ込んでるって……ほら、麻帆ちゃん二週間ほど家空けてたでしょ?ちょうどその時期よ。
それで同居してる色の白い子……彼氏さんに送ってもらったところを一度鉢合わせて、『最近トイレが臭くて困ってる』から何か良い消臭剤ないですか?って。そう言えばミカちゃんも似たような事言ってたわ」
「その彼氏さんの車の車種分かります?」
「えぇ、国産のコンパクトカーよ。うちの娘のと同じメーカーだから」
アレよ。小母さんはご自宅の駐車場を指差し、そこにはライトブルーの国産コンパクトカーが鎮座していた。いくら噂好きの小母さんとは言えわざわざ嘘を教えたりはしないだろう。余程でない限り主婦はそこまで暇ではない。
「その男の見た目とかの話は出た事がありますか?」
「えぇえぇ、ホラあの何とかって企業の御曹司。アレよ、“エセ美談婚”!そう聞いてるわ。『女をたらし込みたがる男ってああいう顔してるのね~』なんて仰ってたから、ちょっとしたイケメンに騙されると痛い目見るわよ」
なるほどそれならアレで間違いない、これなら全て辻褄が合う。
「ありがとうございます、肝に銘じます」
「気を付けなさい、あなた可愛い顔してるから。やっぱり蛙の子は蛙なのね、おお怖」
小母さんはそれじゃ、と言って家に引っ込んでいった。こりゃいい事聞いたわと家に戻ると、何故か香津が不機嫌そうにこちらを見ている。
「ごみ捨てに何分掛かってんの?」
ごみ捨て自体はすぐに終わったが。
「ご近所さんに声を掛けられまして。母と割と親しい方なので少しお話してました」
私はここが里なのでご近所付き合いはあまり蔑ろに出来ない、お前とは事情が違う。
「こっちは朝が一番忙しいんだから!もう出なきゃいけないのに!」
そうかも知れないが私は夜型、生活サイクルが違うくらいで八つ当たりしてほしくない。
「今日は吉原さんがお休みですよ、今お風呂に入られてます」
私はこれと言った悪い事はしていない。あくまでこれまで知らなかった真実を知っただけ。キッチンに入って洗い物をしていると由梨が風呂から出てきてキッチンに入ってきた。
「麻帆ちゃん朝ごはん食べたの?」
由梨は香津を完全無視して私に声を掛けてくる。ただの消去法だろうが、これまでのように端々に嫌味を言われなくなったので少し話しやすくなった。
「いえまだです、これが終わってから食べようかと」
「じゃあ一緒に食べよう、お腹空いたぁ」
そうですね。私は二人分の朝食を準備し、この時初めて由梨と二人で朝食を摂った。風呂上がりでスッキリしたはずなのに心なしか彼女の目が充血しているような気がする、最近寝坊気味な印象もあるし。
「眠れないんですか?」
何の気なしに訊ねてみるとそうなのぉ、と返ってきた。
「夜中二時三時の長電話が煩くて」
あぁ……私夜勤だし深夜はほとんどヘッドフォンを付けてるから気付かなかった。
「しかも普段とは違う猫なで声のぶりっ子口調で胸クソ悪くてさぁ」
それは分かる、普段硬派振ってるだけに下手なホラーより薄気味悪い。新垣の時にもやめてくれとは言ったのだが、マナー力皆無の香津にとっては相手が変われば無効になるらしい。
「『今すぐ会いたい』とか言って笑ってんの、だったら行けば?って思っちゃう」
煩いよりはマシだもん。由梨はふくれっ面ながらも目の前の食事はもりもりと平らげていた。
「おはようございます」
「久し振りね、最近見ないけどお元気そうね」
えぇまぁ。夜勤に仕事を変えているのと執筆のお仕事が増えたおかげで、このところ明るい時間に外出する事はほとんど無くなってる。
「お宅の駐車場に外車がよく停まってたけどどなた?」
外車?ミカも香津も国産車のはずだが。私はペーパー、由梨は免許を持っていない。ひょっとして由梨の彼氏か?
「同居人の彼氏かと、送り迎えしてもらってるとかで……」
「何言ってんの?結構な時間居座ってるわよ。しかもディーゼル車みたいでエンジン音もうるさいし」
これは一度由梨に確認を取ろう。
「すみません、何だかご迷惑をお掛けしてる様で……」
「ちょっと待って、麻帆ちゃん何も聞いてないの?」
えぇ。私は正直に頷く。
「某さんに聞いただけよ、私は車しか見た事ないんだけどね」
と小母さんは私が一切知らなかった事を教えてくれた。
「最近はなりを潜めてるみたいだけど、誰もいない時間帯を見計らってあなたのお父さんの後妻の娘がその外車の主の男連れ込んでるって……ほら、麻帆ちゃん二週間ほど家空けてたでしょ?ちょうどその時期よ。
それで同居してる色の白い子……彼氏さんに送ってもらったところを一度鉢合わせて、『最近トイレが臭くて困ってる』から何か良い消臭剤ないですか?って。そう言えばミカちゃんも似たような事言ってたわ」
「その彼氏さんの車の車種分かります?」
「えぇ、国産のコンパクトカーよ。うちの娘のと同じメーカーだから」
アレよ。小母さんはご自宅の駐車場を指差し、そこにはライトブルーの国産コンパクトカーが鎮座していた。いくら噂好きの小母さんとは言えわざわざ嘘を教えたりはしないだろう。余程でない限り主婦はそこまで暇ではない。
「その男の見た目とかの話は出た事がありますか?」
「えぇえぇ、ホラあの何とかって企業の御曹司。アレよ、“エセ美談婚”!そう聞いてるわ。『女をたらし込みたがる男ってああいう顔してるのね~』なんて仰ってたから、ちょっとしたイケメンに騙されると痛い目見るわよ」
なるほどそれならアレで間違いない、これなら全て辻褄が合う。
「ありがとうございます、肝に銘じます」
「気を付けなさい、あなた可愛い顔してるから。やっぱり蛙の子は蛙なのね、おお怖」
小母さんはそれじゃ、と言って家に引っ込んでいった。こりゃいい事聞いたわと家に戻ると、何故か香津が不機嫌そうにこちらを見ている。
「ごみ捨てに何分掛かってんの?」
ごみ捨て自体はすぐに終わったが。
「ご近所さんに声を掛けられまして。母と割と親しい方なので少しお話してました」
私はここが里なのでご近所付き合いはあまり蔑ろに出来ない、お前とは事情が違う。
「こっちは朝が一番忙しいんだから!もう出なきゃいけないのに!」
そうかも知れないが私は夜型、生活サイクルが違うくらいで八つ当たりしてほしくない。
「今日は吉原さんがお休みですよ、今お風呂に入られてます」
私はこれと言った悪い事はしていない。あくまでこれまで知らなかった真実を知っただけ。キッチンに入って洗い物をしていると由梨が風呂から出てきてキッチンに入ってきた。
「麻帆ちゃん朝ごはん食べたの?」
由梨は香津を完全無視して私に声を掛けてくる。ただの消去法だろうが、これまでのように端々に嫌味を言われなくなったので少し話しやすくなった。
「いえまだです、これが終わってから食べようかと」
「じゃあ一緒に食べよう、お腹空いたぁ」
そうですね。私は二人分の朝食を準備し、この時初めて由梨と二人で朝食を摂った。風呂上がりでスッキリしたはずなのに心なしか彼女の目が充血しているような気がする、最近寝坊気味な印象もあるし。
「眠れないんですか?」
何の気なしに訊ねてみるとそうなのぉ、と返ってきた。
「夜中二時三時の長電話が煩くて」
あぁ……私夜勤だし深夜はほとんどヘッドフォンを付けてるから気付かなかった。
「しかも普段とは違う猫なで声のぶりっ子口調で胸クソ悪くてさぁ」
それは分かる、普段硬派振ってるだけに下手なホラーより薄気味悪い。新垣の時にもやめてくれとは言ったのだが、マナー力皆無の香津にとっては相手が変われば無効になるらしい。
「『今すぐ会いたい』とか言って笑ってんの、だったら行けば?って思っちゃう」
煩いよりはマシだもん。由梨はふくれっ面ながらも目の前の食事はもりもりと平らげていた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる