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第91話 〜付いて回る桐山陣〜

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 「初めて会うた時も学費の支払い分を用立てる為やってん。その頃になるとホテルに連れ立って相手さんがお風呂入ってる間にお金盗って逃げるいう事もするようになって……もう立派な犯罪なんやけど、相手さんも疚しいとこがあるから幸いいう表現が正しいんかはともかく表沙汰になる事もなくて。
 ‎ それがどこでどうバレたんかは分からんかってんけど、あの日の事が八杉先生の耳に入って『財布を盗った犯人は桐山陣』いう話に発展した結果ああなってしもて。この前実家で再会出来た日にあの時の顛末の理由が分かった時は正直ショックやった……」

 金子さんも気付いとったんか……俺も言わなあかん事が出てきた様や、俺は彼女の方に体を向けて細い二の腕を掴んどった。

 「……有岡君?」

 小柄な彼女からしたら俺みたいな大男に腕掴まれただけでも怖がらせとんのかも知れん、声を掛けられてようやっとその事に気付いた俺は慌てて手を離す。

 「すみません、つい……ただ、事態はもう覆らんのです」

 「うん……私気付くんが遅すぎた」

 「金子さんが悪いんやありません、仮に当時気付いとったとしても結果は同じやったと思います。それに……桐山陣本人が罪を認めてしもうとるんです」

 えっ……?金子さんの耳には入っとらんかったみたいで驚きの表情を見せとる。

 「そうやったんやね、私らが要らん騒ぎを起こしてしもたから……」

 「それは桐山陣が本人の意思でした事です。信じてない人間も居ますけどそれでもう認知されとるんです」

 多分あの人は噓を嘘で返して八杉氏を皮肉ったつもりやったんやと思う、あんな嘘吐きと同じ土俵に立つなんぞ阿呆らしいって。けど俺に言わしたらあの人かて嘘吐きや、兄貴が死んだ時何て言うた?そらいつまでも真に受けとった俺も阿呆かも知れんけど、出て行ってからただの一度も連絡を寄越さず、それどころか当時のケータイも解約して消息を絶ってしもたやないか。
 ‎最初はショック過ぎて野球も辞めてまう勢いやった、けど色んな人に励まされて高校までは続けると決めてやれる事は全部やった。それで俺は気付いたんや、これまでは何でもあの人を信じとって自分の人生自分で舵を切ってなかったんやって。そう思えてくるとあの人はあの人、生きる道が違うんやと思える様になって自分なりに立ち直ってここまで来れた。
 ‎けど十五年経ってあの人が戻ってきたら昔の気持ちとかが蘇ってきて胸糞悪うなる時がある。まだ完全には昇華出来てない……それを思い知らされて時々どうしてええんか分からん時がある。所構わず喚き散らかしたら解決すんのか?あの人を一発殴れば解決すんのか?それともとことんまで逃げて終息を待つんか?十五年経って成長した気でおったけど違うとったんか?俺はあの人がチラつく度に自信を失うていく……もうあの気持ちに戻るんだけは嫌や、ならどないしたらええ?
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