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第89話 〜凶のおみくじは結んできたで〜

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 「てっぺいちゃーん!ダマちゃーん!」

 ん?えらい大きい声で呼ばれとる俺ら、声から察するに侑斗やな。けどそれなりの人混みやからどこに居るんかが分からん。どこやろ?それなら金子さんも一緒のはずやと辺りをきょろきょろしとると下半身に結構な衝撃が伝わってった。

 「もぅ~はようみつけてよ~」

 ごめん侑斗、俺はそう言いながらその場にしゃがむ。

 「てっぺは母君を探しておったのであろう」

 「せや、お母ちゃんは?」

 ん?あれ?侑斗はようやっと金子さんとはぐれてしもうた事に気付いた様や。

 「おかあちゃん?どこぉ?」

 彼女を探そうとする侑斗を俺は慌てて引き留め、その勢いのまま一気に抱き上げてやる。今となってはそう役に立たん無駄な高身長やけど、こういう時は何気に有効やったりもする。

 「うわぁ~めっちゃたかぁい……あっ!おかあちゃんこっちこっち!」

 「侑斗!?」

 金子さんは俺が抱っこしとる侑斗に気付き、慌てた表情でこっちに向かってくる。小柄な彼女は人混みを掻き分け、息を切らしながら俺の前に立った。

 「ごめんなさい、私走るん遅うて……」

 呼吸を整えるんに胸に手を当てとる姿も可愛い。

 「いえそんな……にしても奇遇ですね」

 凶のおみくじ引いた後のこれは至福過ぎる。

 「ホンマですね、私らさっきまで三階の特設ブースに居ったんです。高木先生の工房が実演販売なさってて」

 「こないだのこわれたんとこれとこうかんしてん」

 侑斗は手にしとった竹とんぼを見せてくれた。手作りのそれはとても綺麗で滑らかな触り心地、この前壊れたやつよりも軽く感じられた。コダマもそれに興味を示してじっと見つめとる。

 「ふむ、なかなか良い仕事をなさる。侑斗殿、ご本人にお会いしたいので案内を頼めぬか?」

 うんええよ。侑斗はさっき行ったばかりのところへのUターンも気にならん様や。取り敢えず金子さんとも合流出来とるしと俺は侑斗を下ろすと、今度は嬉しそうにコダマと手を繋ぐ。

 「ほないこうダマちゃん!てっぺいちゃんとおかあちゃんはべつこうどうな」

 「「えっ!?」」

 いや待って、嫌どころか嬉しいけど二人きりなんてまだハードル高すぎるって。

 「待って侑斗、皆で行ってもええんちがうの?有岡君かて先生にお会いしたい思うよ」

 「それやったらあとからふたりでいけばええやん、ぼくいまはダマちゃんとおりたいねん。てっぺいちゃん、おかあちゃんのことたのんだよ」

 侑斗はそう言い残し、コダマの手を引いてガチで俺らを置いて行きおった。
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