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第72話 〜思わぬ訪問客〜

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 「何気取っとるんです?『お客人』て」

 「気取るも何も会うた事無い綺麗な女やもん、小さい子連れとるわ」

 小さい子連れの美女なんて言うたら一人しか居らん、うわぁ俺今大掃除中で汚い格好しとんねん。着替えたいけど掃除まだ終わっとらんしかえって洗濯物増えるしなぁ……取り敢えず手と顔を洗うて頭に巻いとったタオルを外し玄関に向かう。大掃除中て言い訳しよ、いやホンマにやっとるんやけどと俺の心は騒がしなってった。

 「お待たせしてすみません、今日は大掃除で」

 俺は客人として来てくれた金子さん母子と対峙する。彼女の手には風呂敷に包んだ大きめの箱、何なんかな?

 「いきなりお訪ねしてごめんなさい、お節料理作ってたんやけどちょっと作り過ぎて……」

 えっ?手料理頂けんの?マジ?めっちゃ嬉しい!

 「ちがうやろおかあちゃん、ホンマはこの……」

 「侑斗」

 金子さんは侑斗にめっという顔をして言葉を遮り、侑斗は侑斗でニヤニヤしながら手で口を塞いで彼女を見上げとる。ホンマは……何なんやろ?その続きが気になったけど俺はサプライズ的に彼女に会えたんがとにかく嬉しかった。

 「てっぺいちゃん、ぼくおてつだいするー!」

 「アカンよ侑斗、人様のお家で勝手したら……」

 侑斗は大掃除に勤しむ三人を見ながら家に入りたそうにしとる。気持ちは嬉しいし可愛いけど四歳の子には重労働やで、腐っても一軒家やからなぁ。

 「良いではないか、私としては人手が欲しい」

 コダマは和室から顔を出して侑斗を手招きする。コイツ人の好き嫌いが激しい割に子供は好きみたいやねん。

 「お前の場合サボる気やろ?」

 「何を申すか、てっぺこそ腹では喜んでおるくせに」

 黙れ俺の心を読むな。彼女が来てくれたんは嬉しいですよそらもちろん、しかも作り過ぎただけとは言え手料理まで持ってきてくれて……ごにょごにょ。

 「うぉらてっぺ、いつまで美女を玄関先に立たせとんのじゃ。例え小汚のうても中に上がった頂いた方がええやろ」

 うっさいわおっさん、ルミちゃんに相手してもらえんから金子さんにまとわり付くつもりやろが。それより何より彼女の都合を聞かんと。

 「金子さんのご都合は大丈夫なんですか?」

 「うん大丈夫よ、大掃除も昨日終わらせたから……けど私ら邪魔にならん?」

 「なりませんよ、見ての通り何のおもてなしも出来ませんが」

 邪魔どころか和みます♪モチベーション上がります♪俺の胸は自然と踊る。

 「それやったら微力ながらお手伝いさせて頂きますね。侑斗、ちゃんとお手伝いするんやで」

 はーいっ!侑斗は嬉しそうに家に上がり、早速コダマと和室の掃除を始める。金子さんもビニール手袋をはめてから雑巾を持ち、ルミちゃんと一緒にリビングの掃除をしてくれる。普段女っ気の無い……おかんも一応女やけど生物学上とかいう事やのうてお年頃の美女が家に居るってだけでその場が華やかになるな、うん。
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