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第69話 〜剛太の苦悩〜

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 『陣ちゃんが知り合い三人と店で言い争い始めおった』

 陽平から電話があった僕は仕事を妹に任せて『かわい食堂』に向かう。途中で啓と合流して店に入ると陣VS三人という構図で睨み合いが始まっとった。多分今朝急にチェックアウトした片平君の事やろな、詳しい事情は分からんけど陣が何の前触れも無くビジネス契約を打ち切りおったいう話や。片平君の人脈で参加しとる佐竹さん、玉城さんにとっては死活問題やろ、今朝二人とも片平君を必死に引き留めよったもん。

 態度が気に入らん。陣はそれしか言わんから三人組は当然納得せん、僕も付き合いこそ短かったけど彼は結構な好青年やと思う。この前陽平からちらっと聞いたけど、野球好きの片平君と春来君が十二年前の県予選の話題で盛り上がっとった時に陣が機嫌を損ねたらしいんや。要はてっペの事に触れる話題な訳なんやけど、それでアイツが機嫌損ねる理由が僕にはさっぱり分からん。

 唯子はくだらん嫉妬や言うとったけどその選択をしたんは陣自身やないか、繁華街で女の子の財布盗んだいう噂が流れた途端ぷつっと姿消しおったからな。僕らはそんなん誰も信じてないけど、黙って出て行った上に連絡も出来ん状態になったと知ったてっぺのショックは見とって痛々しかってんぞ。
 ‎高校野球に打ち込む事でその寂しさを紛らわそうとしとったし、その頑張りが最後の大会の結果に繋がってようやっとてっぺは報われたんや。その間お前は何をしとった?噂の釈明もせんと逃げ回っとっただけやろ?
 ‎正直この前いきなり戻ってった時は僕でも今更かい?思ったで。てっぺの態度にキレたサキにしてもそうや、お前ら二人肝心なとこ見てないくせに勝手過ぎるやろ?もうちょいてっぺの気持ち慮れよ、あれ以来陽平も陣とサキには容赦無うなっとる、多分てっぺしか知らんはずの何かを知っとるんやと思う。

 「……てっぺ呼んできてくれ」

 は?何でや?

 「いやてっぺは無関係やろ」

 三人組の仲裁をしとる啓も陽平も唯子も変な顔しとる。

 「てっぺと話がしたい」

 「先に目の前の事解決せぇよ」

 「せやな。ほなたった今を以ってチームは解散、はい皆さんお疲れ様でした!」

 「「「……」」」

 何やそれ?身勝手にも程がある。三人組は今更何も言い返す気になれんのか黙って店を出ていった。啓は三人組と一緒に店を出て行きおる、アイツも今や彼らと仲良うなっとるもんな。

 「解決したぞ、早うてっぺ呼んできて」

 ……で正直釈然とはせんけど今僕は有岡家にお邪魔しとる状態や。
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