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第56話 〜もうええ加減にしろや〜

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 「「「……」」」

 何か疲れた……放置されたお好み焼きは片面焼きのみで既に火が通っとった。幸い今時のホットプレートは自動的に温度調節してくれはるから焦げるんだけは免れた。俺はそれをひっくり返し、申し訳程度やけど焼き色を付けたろかと軽く押さえてみる(基本はせん方がええよもちろん)。

 「おっ、美味そうやな」

 あの人は何事も無かったかのように焼き上がったお好み焼きを嬉しそうに見る。何なんそのメンタル?こっちは勝手に空気乱されてヘトヘトなんやけど。

 「ホンマやな、早速頂こか」

 あの人の図太さに便乗してサキちゃんも図々しく食卓の輪に入ろうとする。

 「それは私の分だ、ガサツはお隣で食べるがよい」

 「そんなんええやん。てっぺ、次焼いて」

 さすがにその態度は頭に来る、俺の中で何かがキレた。

 「コダマ、これ焼き方不細工やけどええんか?」

 俺はサキちゃんを完全無視してコダマに焼けたお好み焼きを見せる。

 「火が通っておれば問題無い。味に関しては信頼しておる」

 「ほなコダマ君先に二枚とも食べ、陣ちゃんせめて手洗うてから座って」

 うん。あの人は呑気そうに頷いて一旦キッチンを出る。サキちゃんもそれに付いて行こうとするので俺は彼女を呼び止めた。

 「あなたの分はありません」

 「はぁ?そんだけあったら賄えるやろ?陣ちゃんの客人放っぽり出しとんのやから」

 何好き勝手言うとんのや?大食漢のコダマ仕様であって客人用やない。そもそもここに居る誰一人あの人があんだけの人を連れて来た事自体寝耳に水の話やってんから。

 「断りも無く上がり込まれてはどうにも出来ぬであろう、客人もそれを理解した上でのお帰りであるぞ」

 「居候は黙っとれ」

 例えそうでもおかんが認定しとるからこの家の住民や。

 「黙っとくんはあなたです」

 もうさっさと帰れ、顔見とるだけで胸糞悪ぅなってった。サキちゃんは身長差の都合上一応見上げてはいるが、腕組みして見下すような視線を俺に向けてくる。見掛けへん間に何があったんか知らんけど、この人もうただのごじゃにしか見えん。

 「図体デカなったら口の聞き方も生意気になるんやな」

 「勝手に他所の家の事に首突っ込んでくる人に言われたくありません、お引き取りください」

 俺はそう言い捨てて次食べる分の生地を焼く。このまま無視しとけば帰るやろ思とったけど、何故かニヤッと笑うて俺の隣に立った。
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