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第54話 〜粉もんはおかずや〜

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 「そう言えば唯子殿の友人……名前は忘れたが眼鏡美人からキャベツを頂いたぞ」

 あぁそれで分かった、まなみちゃんこと旧姓藤本ふじもと真奈美や。彼女はユイさんとサキちゃんの同級生なのだが彼女は両方共と仲が良く、仲介役みたいな役回りやった。今は結婚して高部たかべ姓を名乗っており、嫁ぎ先は兼業農家で日夜土と野菜と戯れとる言うて笑うてはった。
 キャベツかぁ……何したろ?俺は冷蔵庫を漁って山芋を見つける。こう来りゃお好み焼きやろ、キャベツをみじん切りにして山芋をすりおろし、てんかす、干しえび、たまご、小麦粉、塩、こしょう、水を入れてぐっちゃぐちゃに混ぜる。トッピングに豚肉は外せんやろ、シーフードミックスも定番やななんて思いながらホットプレートでじゅうじゅうと焼いていく。

 「てっぺ、それは何だ?」

 「ん?お好み焼きやけど」

 何や?金持ちの子はお好み焼き知らんのか?

 「それは分かる、炊飯器にご飯あるぞ」

 ならお好み焼きはおかずや、何がおかしい。

 「両方食うたらええ」

 「なるほど、妙案だが食べ合わせは大丈夫なのか?」

 何でもまんま食う男が何言うとんねん、お前一人の間キャベツも生で食うとったんやろが。

 「鰻と梅干しよりはええやろ」

 「では問題無い、だが汁物がほしい」

 結局はそこかい、俺は再びキャベツの葉を数枚めくり、今度は千切りにする。それを鍋に入れ、更に水と鰹節をざっと足してから火にかける。玉子にしよかな?油揚げにしよかな?冷蔵庫を覗くと玉子しか無かったんで必然と具材が決まる。俺あんまちゃんと計って作らん、その辺の雑さは女性的やと思う。せやから主婦の食事は飽きひん……そんな事言うてた人がおったけど誰やったかいな?

 『ただいまぁ、どっちでもええから荷物入れるん手伝ってー!』

 玄関に居るおかんの声が響き渡り、コダマが様子を見に行った。

 『ビール一ケース当たったんよ、あ~重っ』

 『全てキッチンで宜しいですかな?』

 『頼むわコダマ君、私先着替えてくる』

 おかんは少々ヨレっとした状態で洗面所に向かってった。コダマは慣れんなりに買うてったばっかりの食材を冷蔵庫に入れていく。俺はその間飯の支度をそれなりに順調にこなしとったところに……。

 『皆遠慮無う上がって』

 無駄に明るく無遠慮なあの人の声、そして全く聞き覚えの無い男共のざわめき。

 『『『『お邪魔しまーす!』』』』

 ……一体何事ですのん?俺は一瞬何が起こったんか分からんかった。反射的にコダマを見るが奴もほぼ同じような感じやったから多分何も知らんのやろ。

 「てっぺ、飯頼むわ」

 いやまずはどういう事なん?そちらの皆さん何者なん?そして何で当たり前のように俺に飯用意させようとしとんの?

 「その前に説明したまえ、陣殿」

 コダマは珍しくちょっと怒っとった。
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