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第23話 〜陽平の本音〜

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 僕に言わせればてっぺの反応ってそう意外でもない。だって考えてみたら陣ちゃんの悪い噂話の渦中におったてっぺにとってあの結末は相当後味の悪いもんやったと思う。
 ‎僕はあの日の事はあらかた聞いてる。校則違反を犯して行った繁華街で、アロハシャツを着た男に財布を盗られた金子さんいう女性を助けたんが事の発端。その犯人が陣ちゃんやと騒ぎ出した八杉氏たぬきオヤジと金子さんの親父とのくだらん茶番劇の中、中学生のてっぺはどうにか頑張って真実を知ろうとしてたんやと思う。本人によると今思えば相当生意気な事も言うたみたいで、高校生の時は八杉氏に目を付けられて野球部が圧力掛けられとった中、万年初戦敗退記録を帳消しして県大会四強に導いた功績は今でも凄いと思う……って話脱線してしもたね。
 ‎でも陣ちゃんは僕らの思考とは一歩も二歩も先を行ってたせいか、八杉氏の思惑にわざと乗ってとっととこの町から姿を消した。てっぺには八杉氏にどう思われようとどうでもええわと笑うてたらしい。そのメンタルは凄いけど、陣ちゃんの無実を証明するために尽力したてっぺの頑張りは徒労に終わり、ご家族も数年後にひっそりと引っ越しされてしまった。

 『何やねんなアイツ!陣ちゃんの気持ち踏みにじりおってからに!』

 サキちゃんは何も知らんから好き勝手言うてる。彼女もそれから一年ほどで都会に行き、戻ってきたかと思えば結婚でまた出て行き、半年持たんと離婚して今に至る……てっぺの気持ちどころか僕の気持ちも逆撫でされてんねんけど。まぁ彼女の無神経振りは今に始まった事やないし、顔だけ綺麗なケダモノを相手したら流血もんやから黙っとく。

 『てっぺかて色々あってんで』

 『せや、あの一件以来アイツ殆ど笑わんくなった』

 サキちゃんと陣ちゃんに比べたら剛ちゃんと啓ちゃんの方がてっぺをよう見てる。二つ下の僕から見ても普段は阿呆な先輩やけど、基本は善人やし何やかんやで末っ子キャラのてっぺを案じてるんやで。そんな気苦労……と言うよりかは二人共てっぺ可愛さにやってるだけやけど、ぷっつり居らんくなったそっちの二人よりも地元に残っててっぺを見守ってきたこっちの二人の方を僕は尊敬するわ。

 『ちょっと薬が効き過ぎた』

 ……その辺コダマ君は『らしい』よね。いつまでもてっぺを子供やと思うてる陣ちゃんピーターパンと正と負の感情を拗らせてるてっぺを同時に治そうとしたんやな、それいくら何でも無茶言うもんやで君。

 『あたしテスト勉強あるから……』

 ‎陣ちゃんを知らんルミちゃんは立ち上がって家に帰ろうとする。まぁそらそうやろなぁと思ってると、陣ちゃんはいきなり思い出話をおっ始めおった。

 『小ちゃい頃のてっぺは女の子みたいやってん。体もひと際小そうて、いっつもオレに引っ付き回っとってんで』

 『てっぺは野球が上手やってん。高校ん時の活躍をテレビで見とったからいつかメジャーで活躍するやろと思とってんけど、アイツ野球辞めてしもたんか?』

 ……今のあんた相当イタい人やわ。
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