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第10話 〜苦い昔話〜

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 時は十五年前の三月上旬……。

 中学三年だった俺は、受験を無事乗り切ったんをええ事にちょこっと羽目を外してクラスの奴らと夜の繁華街を彷徨いとった。そこの一角にあるゲーセンで遊んどったところ裏手で女性の悲鳴が聞こえてきた。
 ‎何や?俺は後先考えず連れを放っぽってゲーセンを飛び出すと二十歳くらいの女の人が路地裏で倒れていた。転んだんか?突き飛ばされたんか?瞬間までは見ていないが、偶々直線距離の長い路地裏だったので一瞬だけ半袖のシャツを羽織った男(目測だが多分今の俺くらいの身長はあったので)の影が見えた。三月やのに半袖シャツ?俺の記憶の中に一人だけ存在したが、ネオンな街を嫌う男やったからあり得んとすぐに打ち消した。
 ‎そんな事よりこの人大丈夫なんか?俺は女の人に駆け寄り声を掛けた。
 ‎
 ‎『あの、立てますか?』

 ‎『えぇ、多分』
 ‎
 ‎彼女は多少よろめきながらも何とか立ち上がった。俺は彼女の手を握って灯りのある所まで歩き、リュックからケータイを取り出してライトを点けると脚に数箇所血が滲んどった。

 ‎『すみません、怪我してんのに引っ張ってしもて』

 ‎『ううん、私も見るまで気付かんかったもの』

 ‎『未開封の水持ってますんで傷口洗っときましょ』

 ‎『平気よこんなん、そんなんに使わんとって』

 ‎『あきません、化膿してもたら治りが遅うなります』

 ‎俺は遠慮する彼女にお節介し、寒いのにむき出しになっている脚に水を掛け、ティッシュで傷口を拭った。彼女も自身のハンカチで脚を拭いており、多少痛々しいが汚れはほぼ無くなったと思う。

 ‎『帰宅されたら消毒してくださいね』

 ‎『……うん、ありがとう』

 ‎ちょっと照れ臭そうにする小柄な女性の姿は可愛らしく映っていた。このクソ寒いのにスケスケの服を着て派手な化粧までしてたけど、この人そこまで擦れてないんちゃうかなと思う。

 ‎『あの、悲鳴聞こえたんですけど……バッグの中見た方がええん違います?』

 ‎『多分お財布盗られたと思う』
 ‎
 ‎『警察行って被害届出した方が……』

 『大丈夫、ここに居るんバレる方がマズいから。君もそうなんちがうの?』

 確かにそうかも知れん、中坊でこんな所居ったら補導の対象になるんは間違いない。そしたら確実に親と学校にはバレる、多少のお咎めくらい構わんが入学取り消しはさすがに嫌や。

 『ICカードは盗られてないから家には帰れるよ、ありがとうね心配してくれて』
 ‎
 ‎女の人は可愛い笑顔を見せて俺に手を振ると、ちょっと脚を引きずりながらバス停のある方向へと歩き出した。
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