上 下
2 / 131

第0話 〜先ずは自己紹介〜

しおりを挟む
「ぁたっ!」

 指先に痛みが走り朝方に目を覚ます。俺は夢の中で人を助けようとしとったみたいで無意識に腕を伸ばし壁に指をぶつけてしもた。
 この夢久し振りに見たわ……そんな事を思いながら枕元にあるケータイを取り、ライトを点灯さして指先の状態を確認すると怪我はしてへんみたいや。仕事で一応パソコン使うから指の怪我は仕事に支障をきたしてまう。
 ついでにケータイで時間を確認すると五時三十七分、起きるにはちょい早いけど二度寝するには危険な時間とも言えるのでしゃあないから体を起こす。季節も秋が深まり、日の出も遅うなってきて辺りはまだ薄暗いが電気を点ける程でもない。

 寝起きの状態で失礼するが、俺が何者なんかという事を軽くお話ししておこうと思う。名前は有岡徹平ありおかてっぺい、とある田舎町の役場で働いている今年三十路の冴えない男である。彼女居ない歴七年、地元のお年寄りが主だった話し相手で女っ気ゼロの日々、車通勤でまともな遊興施設も無く自宅と勤務先の往復のみ、何の彩りも変哲も無い退屈な毎日を送っている。
 小学校から高校まで野球をしていたお陰か身長は百八十二センチあり、目鼻口の配置も正常範囲内なので多分見た目はさほど悪くないと思う。特に高校時代は創部以来万年初戦敗退記録更新中の学校が夏の甲子園の県予選で四強に入りちょっと名前が知れてしまった。当時はエースで四番、初戦で対戦した県内屈指の強豪校相手に完封勝ち(多分相手チームがすこぶる不調だったんやと思う)なんぞしてしまいその頃は人生最高潮のモテ期やった。人生の中でモテ期いうもんは三度あるらしいが、多分俺はあそこで一生分使うたな。けどローカルレベルとは言え有名になんぞなるんは百害あって一利無しや、十二年経った未だにその事を話題に持ち出されるんははっきり言うて面倒臭いだけである。
 当時から野球は高校までと決めていたので上を目指そうとかいう気は微塵も持ってなかった(今思えば最後と言う気持ちがあの結果を導いたんやと思う)。ありがたい事にスカウトしてくださった大学、実業団は全てお断りさせて頂いた。俺の実力で上の世界を目指せるなんて甘い考えは持ち合わせていない、実際プロ球団からのスカウトは無かったのでそれが多分証明してくれているんやと思っている。
 高校を卒業し、地元に大学が無いのでその四年間だけ郷を離れた。大学時代はサークルに入ってアルバイトも経験し、恋人も居てよくある大学生活を満喫した。それでも俺は生粋の田舎者なんやろな、最初のうちは都会の似合う男になったるわ!くらいの勢いで田舎を出たが、いざ就活を始めると郷の求人ばかりに目が行く自分がおって結局今の仕事に落ち着いた。恋人とは卒業して郷に帰ってもしばらくは遠距離恋愛を続けとったけど、離れとると生活サイクルがずれてきてすれ違いも増えていった。結果を言えば自然消滅、特に別れを告げた訳でもなく七年連絡を取ってない状態のままである。
 そうは言うても恋人がいなくなったからと嘆いてみせたところで生まれ育った環境での生活が一番性に合うてるんやな、俺は大して何も無く辛気臭いこの町が大好きなんやなと思う。例え非リア充だろうが刺激が全く無かろうが不満らしい不満は無い、知った顔ぶれに囲まれたぬるま湯に一生浸かっとくんも悪くはない、と爺さんみたいな事を思う俺。
しおりを挟む

処理中です...