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第127話 〜俺の知らん親父の懸念〜

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「実はな、一時遼生の日記が無くなったことがあってん」

 花火を終えて全員が家の中に入り、おかんがおもむろに話を始めおった。

「そんなことをするのは陣殿くらいしかおらぬでしょう」

「まぁ今思えばな。おとんは初めから陣ちゃんを疑うとって、部屋に外鍵を付けて金庫まで用意してきたんや。当時はそこまでせんでもと思うとったけど、遺品整理で怜皇君との交換日記を見つけてからちょっとあの子ヤバイなって」

「ほな何で居候させたんや?」

 ヤバイ奴家に入れてどうすんねんな。

「急に態度変えて勘付かれても具合悪いがな。今ならコダマ君がおってくれるからおかしなことはでけんやろ思うて」

「陣殿は私を大層嫌っているからな、妙子さんもわざと同居させていたのであろう」

 ホンマかいなそれ? あんたら結構仲良うしとったやんか。

「やっぱりコダマ君は話が早いわ。そうしといたら陣ちゃんは嫌でも外出が増えるやろ、この子がおってくれたらそのうち出て行かはるやろなぁって。まぁ要らんことしてくれたから予想以上に早う追い出せたけどな」

「せやけど、何でてっペの気持ちを慮ってやらんかったんですか?」

 ユイさんがおかんに率直な疑問を投げかけとる。

「『敵を欺くにはまずは味方から』言うやろ? 陣ちゃんは今でもてっペが慕うてくれとるいう自負があったと思うねん。息子がどう思うかを考えんかった訳やないけど、あの子の口先八丁に絆されやせんかと見極める時間は必要やったんよ」

 おかんはあの人が戻ってきたことで俺が昔の思考に戻るんを懸念しとったんかもしれん。今でもたまに古傷は疼くけど、この前対峙した時明らかに見えとるもんが違うとるのは実感した。

「てっペ、先日陣殿と何を話したのだ?」

 先日? あぁ病院でのことか。

「法事抜け出して花火上がったあの山に行け言われたわ、断ったけど」

「そうか、それで正解だったと思うぞ、あそこには嫌なものを感じるのだ」

 コダマは渋い表情で何か考え込んどみたいやった。

「まぁ何にせよ交換日記にまで手ぇ付けられんで良かったわ。後でおとんにお礼言うとかんと」

 なんて言うとると頼んどった仕出し屋さんがお寿司を持ってきてくれた。俺はおかんと一緒に仏間にそれを配膳し、舞花さんとユイさんがお茶を淹れ直してくれた。普段三人しかおらん有岡家に十人以上が集結し、兄貴の思い出話に花を咲かせとった。
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