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第123話 〜やっぱりピーターパン症候群やった〜

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「どないしたんやてっぺ?」

 どないしたもこないしたもあんたが原因でここに居るんやけど。

「川の浅瀬で倒れたって聞きました」

「ふぅん、で?」

 『で?』って何? 俺は他人事のようにのらりくらりとしとる患者にイラッとする。呼ばれて来た以外の理由なんか無いから特に何も言わんでおると、もうじきやなと勝手に話をおっ始めおった。

「遼生の命日、法事くらいするんやろ?」

「えぇ、二十五周忌ですんで」

「その日の夜、時間取れるか? 啓輔ん家の山の頂上に来てほしいんや」

 何で暗うなってからわざわざ雪山登らなあかんねん。それにその日は高木先生と舞花さんと侑斗が来てくれることになっとる。

「来客があるんで無理ですね」

「そこ何とかならんか? 接待ならおばちゃんでもできるやろ?」

 この人どこまで自分勝手なんやろ? 法事の最中に家の者が席外すっておかしいやろ。

「なりません」

「俺あんま時間が無いんや」

「こっちの都合は無視ですか?」

「これは遼生が望んどったことなんや、それを無視して法事ってちゃんちゃらおかしいな」

 患者は俺を見て小馬鹿にしたように笑う。

「家のやり方をあざ笑うんも兄の望みですか?」

「えっ?」

「二十五年も前に死んだ兄の望みに拘っていらっしゃるようですので」

「てっぺ?」

「兄の魂はいつまでも生前に拘ってないと思います、当時だって過去よりも未来を見据えとる性分やったんで」

 俺はこの場に居るんが阿呆らしゅうなってきて病室を出た。あまりにも早々にロビーに戻ったもんやから皆驚いとるけど、特に話すことも無かったし同じ空間におるだけでイライラさせられるから初めから長居するつもりなんか無い。

「もうええの?」

 舞花さんが心配そうに俺を見上げとる。

「うん、侑斗が待っとるから帰ろう」

 俺は彼女を伴って病院を出ようとすると……。

「てっぺ、陣の“病気”って何やったんや?」

 剛さんの言葉に俺の足が止まる。“病気”って何のことや? そう言えば『時間が無い』的なこと言うとったけど。

「いえ何も聞いてないです」

 具体的には何も言うてなかったからなぁ。

「そうか、ほなえぇわ」

 とあっさり引かはったんでそのまま病院を出て自宅に戻った。
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