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第121話 〜剛太の懸念〜

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 健さんとはすぐに連絡が付いたが、今は別の所に行っとるらしい。ユーリ姉さんと連絡が取れ次第折り返してくれる言うてくれたけど、それもいつになるか分からんな。

 「ヨシさんには伝えておきましたよ、『事が事やから』って了承も頂きました。陽介さんはすぐ戻ってきてくれはるみたいです。それまでここでお待ちください」

 ヨシばあちゃん陣のことちゃんと覚えとってみたいや、もう九十六歳やけど、事故の後遺症以外は案外ピンシャンしとってやからな。

 「健介さんとも連絡取れました。嫁さんの返事があったら折り返してくれはるそうです」

 そうですか。僕は介護師さんのご厚意に甘えて陽介さんの帰りを待っとった。


 陽介さんは健さんの一回り上の兄さんで、高校を出てすぐ都会に出てはるからひょっとしたら陣とは面識が無いかもしれん。超絶有名アーティストの出身地の海岸でライフセーバーをやっとったとかで、平日はスイミングスクール、今日は地域唯一の私立高校で臨時顧問として水泳部に参加しとるはずや。私立やと屋内プール完備やからな、この辺の積雪事情なんぞ屁でもないな。
 ‎それから小一時間ほど待って陽介さんが帰宅してきた。普段から若い子相手にしとるだけあってアラフィフやけど若々しいな、こういう大人にはちょっと憧れる、独身なんが不思議なくらいや。
 ‎僕らは地区の寄り合いとかで接点があるから普通に親しゅうさしてもろとる。特に緊張することものう車に相乗りさせてもろうて病院に向かう。

 「そう言えば桐山陣と面識あるんですか?」

 「いや。優莉ちゃんの弟やいう事以外顔も知らん」

 やっぱり……健さんが離島の病院への勤務が決まった際にこっちへ戻ってきはったんやから当然っちゃ当然やな。けど表向きは親戚にあたる、多分書類系は書いてもらわんとあかんやろなぁ。

 「多分俺が書類書くことになるんやろな……」

 事情が事情とはいうても、知らん男の健康状態とかアレルギーとか知っとる訳無いもんなぁ。渋い表情見せるんも分かるわ。

 「分かる範囲のフォローはします」

 頼むわ。そう言うてはくれたけど、それから病院に着いてからもその表情が緩むことはなかった。
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