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第112話 〜児玉の発見〜

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 遼生うじはかなり出来の良い方だったように思う。妙子さんは彼の成績表やらテストの答案用紙なんかも遺しており(ご本人は『カビが生えたら捨てる』と仰っていたが)、小学校低学年のものとは言え、全ての教科でコンスタントに満点を取るのはなかなか至難の業と言えよう。因みに私もそういったタイプの男ではあるが、大概の人間は得手不得手が出てこうもいかないものであろう。
 ‎勉学の面ではかなり優秀だったようではあるが、生活面となると芳しくない評価が散見されている。この点も私と似たようなところがあるのだが、彼はしょっちゅうぼんやりと窓から外の景色を眺めて空想の世界で遊んでいらしたようだ。それが見受けられるものとして、スケッチブックや自由ノートには空想の物語や架空の生き物が所狭しと書き並べてあった。
 ‎その中に混じって色鮮やかな打ち上げ花火の絵が特に印象深いものであった。それのみに留まらず、どこで勉強してきたのか(図書館あたりで専門書を読み漁ったのであろうが)この花火を作るには火薬の配置がどうの……などという素人にはチンプンカンプンな内容のものまで書かれてあった。
 ‎この順番ってこの花火を打ち上げて……という設計図的なものまであったので、恐らくは花火職人を目指していたのであろう。一桁の年齢で明確な夢を持っていたとは何とも羨ましい男であるな、仮にこの世で叶わずともあの世の世界で思う存分花火を打ち上げている事であろう。
 ‎そしてそれと同じダンボールに仕舞われていた作文の中にこんな内容のものがあった。

 『しょう来ぼくが冬の花火大会を作りたい』

 冬の花火大会……確かあるにはあると記憶しているが多くはないであろうな。何せ湿度が低くて火災が起きやすい状況になりうるからだ。積雪のあるこの地ではある程度の湿度は見込めるが、平地では地面が濡れいるので足場の確保が難しそうだ。スキー場のようにガチガチに固まった雪の上であれば不可能ではないだろう、あとは太平洋側の雪のほとんど振らない地域であれば出来なくもない。
 遼生氏が亡くなられて間もなく二十五年になるそうだ、果たしてこの事を覚えておる者は一体如何ほど居るのだろうな?妙子さんとてっぺであればこれを読み返す機会があるので、例え忘れておっても思い出すのは可能であろう。
 ‎陣殿……は覚えていそうだ、彼は一見明るくて人懐こいがかなりの粘着男である。古い事をいつまでも覚えており、成長した相手に対してもそれをはめ込もうとしてくる厚かましさも持ち合わせていて厄介な事極まりない。
 ‎まぁあの男はてっぺに懐く私を大層嫌っておったので、仲良くする振りをして監視まがいな事までしてきていたしな。十五年ほど経過した今も全く成長しておらぬな、だからこそ思い出というものにいつまでも浸れるおめでたい脳みそをしているのであろうがな。
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