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第102話 〜頑張り過ぎんでええんやで〜

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 「侑斗、熱測ったんか?」

 侑斗は赤い顔を俺に向けて首を横に振った。

 「体温計の場所、分からんのんか?」

 「ううん、たいおんみたらよけいぐあいわるなりそうで……」

 お母ちゃんに心配掛けたないんかな?けど無理はしたらアカン、俺はまずは体温測ろう言うて侑斗を寝室に連れてベッドに入れる。

 「眠れんかってもええから横になっとき、体温計はどこにあるんや?」

 「……いまのテレビだいのペンたてんなか」

 分かった。侑斗に言われた通り居間のテレビ台を見ると、ペン立ては分かり易い所に置いてあってすぐに見付けられた。俺は体温計を手に取って寝室に戻り、電源を入れて侑斗の脇に入れてやる。せや、冷却シートとか氷枕とかあるんかな?ちょっと台所借りるかと思うて立ち上がろうとすると、侑斗が体を起こして俺の服の袖を掴んできた。

 「……ボクつよいこやからだいじょうぶやで。ねつだしたくらいでねこんどったらアカンねんて」

 ……おいそれ誰の教育やねんな?金子さんがそんなん言うとは思えんけど、彼女なら多少の無理は圧してそうや。

 「そんな事誰が言うんや?調子の悪い時は無理せんでええ」

 「……おかあちゃんはそんなことぜったいにいわんよ、『しんどい時はちゃんと休み』っていうてくれる。けどあのじいさんとばあさんは『風邪や熱くらいで休むんは弱虫や』いうねん」

 あぁあの夫婦かいな……あんたら腐っても飲食店経営しとんのやからむしろ休んでくれ。そんな事を考えとる間に体温計がピピッと鳴り、侑斗の脇から抜き取ってみると案の定三十八度以上の高熱やった。

 「あんな侑斗、こんだけ熱あったらじいさんとばあさんも休む思うで」

 俺は【三十八度五分】とデジタル表記されとる体温計を侑斗に見せてやる。

 「詳しい事は病院に行かんと分からんけど、最悪インフルエンザの可能性もあるからお客さんに風邪移したらアカンやろ?飲食店なんやからそうでのうても高熱で店に立たれるんはかえって迷惑なくらいや」

 「……うん、ゲホゲホいいながらごはんだされるんイヤやもんね」

 侑斗はちょっと安心したんか金子さんに似た可愛らしい笑顔を向けてくれた。

 「頭はちゃんと冷やしとこ、氷枕作ってくるな」

 うん。侑斗はようやっと掴んどった服の袖を離してくれる。

 「それと冷却シートってあるんか?」

 「うん、おクスリけいはでんわだいのなかにあるよ」

 俺は立ち上がってまずは冷却シートを探す。金子さん宅は整理整頓もきちんとしとってこれまたすぐに見付けられた。最近使うてなかったんか氷枕も一緒に入っとったからそれも取り出す。寝室に寄って冷却シートを侑斗の小さいデコに貼っ付けてから台所で氷枕を作っとったら、俺自身歳上に囲まれとってこういう経験無かったなぁと改めて甘やかされて育っとった事を実感した。
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