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再生編
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「今日はありがとう。やむを得ないとは言え延期になっちゃって」
この日は昼過ぎから波那の自宅で丞尉と愛梨を主役にした入籍パーティーを催していた。本当はこの日に結婚式を挙げる予定だったのだが、愛梨の母親が腰痛を悪化させて現在入院を余儀無くされてしまっている。
予定通り式は挙げるよう進言されていたのだが、彼女が一人っ子なのもあって二人で話し合った結果、年明けに空きがある。という事で入籍だけを済ませて延期を決めたのだった。
そこで、麗未の提案で暇をもて余している同級生たちで手作りパーティーをしてしまおう、と波那を始めとした丞尉の友人を中心に集まっている。
「それよりありがとな、わざわざこんな事してもらっちゃって」
「良いよ、そんなの。本当ならレストランの貸し切りとかの方がサマになったんだろうけど……」
予約取れなかったんだ。波那は申し訳無さそうに丞尉の顔を見る。
「そんな事無いよ、私はこっちの方が嬉しいな」
愛梨は夫となる丞尉に寄り添いながら笑顔を見せる。このところの彼女は幸せオーラに満ちており、本来の美しさにより磨きが掛かっている、といった感じだった。職場では彼女の結婚を残念がる男性社員も居るほどで、夫となる男性の同級生である事を理由に波那に苦情を言ってくる勘違い野郎も出てしまった。
「本当に凄いわ、準備大変だったでしょ?」
「ううん、そうでもなかったよ。だって料理はコイツの実家の仕出しでしょ、酒はコイツの勤務先のものでしょ、セッティングと食器はコイツ。イベント会社経営してるから」
「麗未ちゃん、全部『コイツ』はダメでしょ?」
波那は同級生たちを雑に紹介した麗未をたしなめてから、まずは隣に座っている料理の『コイツ』から代わりに一人ずつ紹介する事にする。
「彼は田無渉君、ご実家が洋食レストランなんだ。普段仕出しはなさらないんだけど、お二人の門出、って事で一肌脱いでくださったんだ」
波那に紹介された田無渉が愛梨に向けて会釈すると、愛梨も美しい笑顔を見せて、ありがとうございます。と会釈を返す。
「何だか申し訳ないです、普段なさらない事をさせてしまって……」
「子供の頃からの約束事なんで気にしないでください」
「アレいつ頃だったっけ?波那と私は幼稚園の時だったけど、丞尉とぬぼすけは確かエリカとコーシローの結婚式の時じゃなかった?」
麗未は昔の記憶を辿りながら田無に話し掛ける。
「うどすけはその時だけど丞尉とは中学の時だよ」
あぁ、丞尉はその言葉に頷き、愛梨も思い当たる出来事があった様でパッと表情を変えた。
「それで『二次会は俺に任せてくれ』って……」
「そうなんだけど、寄りによっておばさんの毎年恒例の同窓会と被っちゃって撃沈したんだよ」
「まぁ思わぬ形ではあるけど、親父と兄貴が『増える分には構わない』って事で無事約束は果たせた訳よ」
田無はホッと安堵の笑みを見せた。そのタイミングで今度は麗未の隣に座っている酒の『コイツ』の紹介を始める。
「彼は正木大輔君。丞尉の高校時代の同級生で、去年会ったの覚えてる?」
「えぇ、あの時一緒だった方よね?」
うん。正木は大きな体をポキッと折るように硬い動きで会釈をする。彼は緊張するしない関係無く旧式ロボットの様にぎこちない動きをするのである。
「彼は酒造メーカーで働いてるから、パーティー向けのお酒を用意してもらったんだ。それ、シャンパンじゃなくて日本酒なんだよ」
「ホントに?私日本酒苦手なんだけど、これ凄く美味しい……」
愛梨はシャンパングラスに入っているスパークリング日本酒を気に入った様で、正木に笑顔を見せて礼を言った。
「お気に召して頂き光栄です。パーティーでしたらそちらが一番良いかと思い、選ばせて頂きました」
「相変わらずだな、お前。……普段からこの喋りだからあんま気にしないで」
丞尉は堅苦しい喋り方をする同級生を見て笑う。
「今日のセッティングをしてくれたのが彼、本多鉱史朗君」
波那は最後にイベント会社経営の『コイツ』を紹介したが、彼だけは幼馴染みや同級生の類いではない。高校三年生の時、波那のクラスメイト篠崎えりかに恋をした事で、彼女と親しくしていた波那に難癖を付けたのがきっかけだった。その現場に居合わせた丞尉と正木が仲裁に入り、更には麗未に投げ飛ばされて恋心を白状させられてしまって以来の付き合いなので、短いとは言っても知り合って十年以上になる。
二人は共に父子家庭一人っ子という共通項ですぐに親しくなり、交際を始めた事で波那たちとも交流を持ち、その後結婚して三児のパパとなっている。
「本当なら女房も来る予定だったんだけど、末っ子が熱出しちまって……。本チャンの時は絶対伺うって本人も言ってるんで」
「是非、お会いできる事を楽しみにしています。お大事に、とお伝えください」
ひとしきり波那から同級生の紹介が終わると、少人数のアットホームなパーティーは和やかに進んだ。夕方になると唯一の既婚者である本多は、妻と子供たち、そして同居している双方の父親の待つ自宅へと帰っていった。
「結局残るはこのメンバー、だね」
日もすっかり暮れて夜になると、残っているのは正木を除きここから徒歩数分で帰宅出来る連中ばかりだった。
「うどすけ、家に泊まってけよ。親父の話し相手、してやってくれないか?」
良いよ。正木はあっさり丞尉の誘いを快諾し、全員がここでまったり過ごす気満々な様だ。小泉家の住人である早苗、麗未、波那も人を招くのは比較的好きで、特に賑やかなのが好きな麗未は人が沢山居る事に上機嫌だった。夕飯は彼女と田無が担当し、波那は正木とテーブルメイキングに勤しんでいる。
「主役二人は何もしなくて良いからね」
その言葉に甘える事にした丞尉と愛梨は、正木が持ってきたスパークリング日本酒を片手に晩酌を楽しんでいた。
「こんなじゃお酒足りないよぉ。そこのお前、買ってきな」
麗未は波那と一緒に居る正木を顎で使う。かしこまりました。惚れた弱味で良いようにこき使われる彼は、早速出掛ける支度を始めている。その頃波那は履歴があったから、とケータイをいじっており、何故かソワソワと落ち着かない。
「僕も付いていくよ。大した戦力にはならないけど、一人より良いでしょ?」
「でもあそこのディスカウントショップ、歩くにはちょっと遠いよ。そいつ一人で良くない?」
麗未は弟に何かあると心配なのか外出させないようにする。しかしそこは波那も慣れたもので、おつまみ要るでしょ?と切り返した。
「そうだねぇ……、あんたはやっぱり良い子だよ」
麗未は上機嫌になって波那の頭を撫でていると、甘いんだかこき使ってんだか……。と田無に言われてしまう。
「何だって?もういっぺん言ってみな」
「だからさ……ぐぇっ!!!」
彼女は幼馴染みの首を締め上げてあっさり打ち負かしてしまうと、自身の財布から一万円札を抜き取って波那に手渡した。波那はそれを受け取ると、正木と共に家を出て酒の量販店であるディスカウントショップに向かった。
「ほとんど使い切っちゃったな、麗未さんのお金」
「大丈夫だよ、多分使い切るくらいは買わないと足りないから」
帰り道、酒とつまみを調達した二人は帰路に向かっていた。波那はエコバッグに入れた大量のおつまみを、正木は五百ミリリットルの缶ビール一箱を抱えている。
「だからってつまみに四千円は使い過ぎじゃないのか?」
彼は大抵敬語で話すのだが、丞尉や波那、といった気の許しているメンバーに対してだけはタメ口を使う。
「もうすっかり秋だね、来月はもうクリスマスだよ」
二人はほんの少し寄り道をして、波那が普段よく利用している公園の街路樹を歩く事にする。ライトアップされている街路樹を見ると、津田と歩いた時よりも紅葉は進んでいた。
時が経つのは早いなぁ……。そんな事を思いながら紅葉を眺めていると、すっかり暗くなった公園内のベンチに腰掛けている一人の男性に視線を奪われる。波那は思わず足を止めてしまい、正木に声を掛けられる。
「波那?」
「……ゴメン。先、帰っててくれる?知り合いが居る気がするから見に行きたいんだ」
麗未ちゃんには連絡しとく。それだけ言うと中に入ろうとする。
「波那」
「大丈夫だよ、そんなに遅くならない様に帰るから」
「……荷物、貸しな。俺が持って戻る」
正木はビール箱を小脇に抱え、エコバッグを渡すよう腕を差し出してきたですありがとう。波那はおつまみの入ったエコバッグを正木の肩に掛ける。
「あんま遅くなるな、麗未さん心配するから」
うん。波那は正木が立ち去るのを見送ってから公園の中に入っていく。ゆっくり、ゆっくり、なるべく音を立てないよう、男性の姿が認識出来る所まで近付くと、急に鼓動が早くなって少し胸が苦しくなってきた。
その男性とは畠中だった。彼が何故ここに居るのかは分からない。ただ着信拒否設定にはとおに気付いているはずなのに、敢えて履歴を残してきた。単なる自惚れの可能性もあったのだが、もしかすると自分に会おうとしてくれているのかも知れない……。
対峙したところで何を話す?波那は近くの木に隠れて一度呼吸を整える。瞳を閉じ、ケータイにぶら下がっているウサギを握り締めていた。
しかし着信拒否設定にしてまで二度と元に戻らない覚悟で別れたはずなのに何を今更?ここで中途半端に話し掛けるのはそれに反するのではないか?波那の心は迷いに迷ってなかなか一歩を踏み出せずにいた。
……やっぱり帰ろう。彼はそっとその場から離れ、姿の見えなくなった友人の背中を追い掛けた。
この日は昼過ぎから波那の自宅で丞尉と愛梨を主役にした入籍パーティーを催していた。本当はこの日に結婚式を挙げる予定だったのだが、愛梨の母親が腰痛を悪化させて現在入院を余儀無くされてしまっている。
予定通り式は挙げるよう進言されていたのだが、彼女が一人っ子なのもあって二人で話し合った結果、年明けに空きがある。という事で入籍だけを済ませて延期を決めたのだった。
そこで、麗未の提案で暇をもて余している同級生たちで手作りパーティーをしてしまおう、と波那を始めとした丞尉の友人を中心に集まっている。
「それよりありがとな、わざわざこんな事してもらっちゃって」
「良いよ、そんなの。本当ならレストランの貸し切りとかの方がサマになったんだろうけど……」
予約取れなかったんだ。波那は申し訳無さそうに丞尉の顔を見る。
「そんな事無いよ、私はこっちの方が嬉しいな」
愛梨は夫となる丞尉に寄り添いながら笑顔を見せる。このところの彼女は幸せオーラに満ちており、本来の美しさにより磨きが掛かっている、といった感じだった。職場では彼女の結婚を残念がる男性社員も居るほどで、夫となる男性の同級生である事を理由に波那に苦情を言ってくる勘違い野郎も出てしまった。
「本当に凄いわ、準備大変だったでしょ?」
「ううん、そうでもなかったよ。だって料理はコイツの実家の仕出しでしょ、酒はコイツの勤務先のものでしょ、セッティングと食器はコイツ。イベント会社経営してるから」
「麗未ちゃん、全部『コイツ』はダメでしょ?」
波那は同級生たちを雑に紹介した麗未をたしなめてから、まずは隣に座っている料理の『コイツ』から代わりに一人ずつ紹介する事にする。
「彼は田無渉君、ご実家が洋食レストランなんだ。普段仕出しはなさらないんだけど、お二人の門出、って事で一肌脱いでくださったんだ」
波那に紹介された田無渉が愛梨に向けて会釈すると、愛梨も美しい笑顔を見せて、ありがとうございます。と会釈を返す。
「何だか申し訳ないです、普段なさらない事をさせてしまって……」
「子供の頃からの約束事なんで気にしないでください」
「アレいつ頃だったっけ?波那と私は幼稚園の時だったけど、丞尉とぬぼすけは確かエリカとコーシローの結婚式の時じゃなかった?」
麗未は昔の記憶を辿りながら田無に話し掛ける。
「うどすけはその時だけど丞尉とは中学の時だよ」
あぁ、丞尉はその言葉に頷き、愛梨も思い当たる出来事があった様でパッと表情を変えた。
「それで『二次会は俺に任せてくれ』って……」
「そうなんだけど、寄りによっておばさんの毎年恒例の同窓会と被っちゃって撃沈したんだよ」
「まぁ思わぬ形ではあるけど、親父と兄貴が『増える分には構わない』って事で無事約束は果たせた訳よ」
田無はホッと安堵の笑みを見せた。そのタイミングで今度は麗未の隣に座っている酒の『コイツ』の紹介を始める。
「彼は正木大輔君。丞尉の高校時代の同級生で、去年会ったの覚えてる?」
「えぇ、あの時一緒だった方よね?」
うん。正木は大きな体をポキッと折るように硬い動きで会釈をする。彼は緊張するしない関係無く旧式ロボットの様にぎこちない動きをするのである。
「彼は酒造メーカーで働いてるから、パーティー向けのお酒を用意してもらったんだ。それ、シャンパンじゃなくて日本酒なんだよ」
「ホントに?私日本酒苦手なんだけど、これ凄く美味しい……」
愛梨はシャンパングラスに入っているスパークリング日本酒を気に入った様で、正木に笑顔を見せて礼を言った。
「お気に召して頂き光栄です。パーティーでしたらそちらが一番良いかと思い、選ばせて頂きました」
「相変わらずだな、お前。……普段からこの喋りだからあんま気にしないで」
丞尉は堅苦しい喋り方をする同級生を見て笑う。
「今日のセッティングをしてくれたのが彼、本多鉱史朗君」
波那は最後にイベント会社経営の『コイツ』を紹介したが、彼だけは幼馴染みや同級生の類いではない。高校三年生の時、波那のクラスメイト篠崎えりかに恋をした事で、彼女と親しくしていた波那に難癖を付けたのがきっかけだった。その現場に居合わせた丞尉と正木が仲裁に入り、更には麗未に投げ飛ばされて恋心を白状させられてしまって以来の付き合いなので、短いとは言っても知り合って十年以上になる。
二人は共に父子家庭一人っ子という共通項ですぐに親しくなり、交際を始めた事で波那たちとも交流を持ち、その後結婚して三児のパパとなっている。
「本当なら女房も来る予定だったんだけど、末っ子が熱出しちまって……。本チャンの時は絶対伺うって本人も言ってるんで」
「是非、お会いできる事を楽しみにしています。お大事に、とお伝えください」
ひとしきり波那から同級生の紹介が終わると、少人数のアットホームなパーティーは和やかに進んだ。夕方になると唯一の既婚者である本多は、妻と子供たち、そして同居している双方の父親の待つ自宅へと帰っていった。
「結局残るはこのメンバー、だね」
日もすっかり暮れて夜になると、残っているのは正木を除きここから徒歩数分で帰宅出来る連中ばかりだった。
「うどすけ、家に泊まってけよ。親父の話し相手、してやってくれないか?」
良いよ。正木はあっさり丞尉の誘いを快諾し、全員がここでまったり過ごす気満々な様だ。小泉家の住人である早苗、麗未、波那も人を招くのは比較的好きで、特に賑やかなのが好きな麗未は人が沢山居る事に上機嫌だった。夕飯は彼女と田無が担当し、波那は正木とテーブルメイキングに勤しんでいる。
「主役二人は何もしなくて良いからね」
その言葉に甘える事にした丞尉と愛梨は、正木が持ってきたスパークリング日本酒を片手に晩酌を楽しんでいた。
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「僕も付いていくよ。大した戦力にはならないけど、一人より良いでしょ?」
「でもあそこのディスカウントショップ、歩くにはちょっと遠いよ。そいつ一人で良くない?」
麗未は弟に何かあると心配なのか外出させないようにする。しかしそこは波那も慣れたもので、おつまみ要るでしょ?と切り返した。
「そうだねぇ……、あんたはやっぱり良い子だよ」
麗未は上機嫌になって波那の頭を撫でていると、甘いんだかこき使ってんだか……。と田無に言われてしまう。
「何だって?もういっぺん言ってみな」
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彼女は幼馴染みの首を締め上げてあっさり打ち負かしてしまうと、自身の財布から一万円札を抜き取って波那に手渡した。波那はそれを受け取ると、正木と共に家を出て酒の量販店であるディスカウントショップに向かった。
「ほとんど使い切っちゃったな、麗未さんのお金」
「大丈夫だよ、多分使い切るくらいは買わないと足りないから」
帰り道、酒とつまみを調達した二人は帰路に向かっていた。波那はエコバッグに入れた大量のおつまみを、正木は五百ミリリットルの缶ビール一箱を抱えている。
「だからってつまみに四千円は使い過ぎじゃないのか?」
彼は大抵敬語で話すのだが、丞尉や波那、といった気の許しているメンバーに対してだけはタメ口を使う。
「もうすっかり秋だね、来月はもうクリスマスだよ」
二人はほんの少し寄り道をして、波那が普段よく利用している公園の街路樹を歩く事にする。ライトアップされている街路樹を見ると、津田と歩いた時よりも紅葉は進んでいた。
時が経つのは早いなぁ……。そんな事を思いながら紅葉を眺めていると、すっかり暗くなった公園内のベンチに腰掛けている一人の男性に視線を奪われる。波那は思わず足を止めてしまい、正木に声を掛けられる。
「波那?」
「……ゴメン。先、帰っててくれる?知り合いが居る気がするから見に行きたいんだ」
麗未ちゃんには連絡しとく。それだけ言うと中に入ろうとする。
「波那」
「大丈夫だよ、そんなに遅くならない様に帰るから」
「……荷物、貸しな。俺が持って戻る」
正木はビール箱を小脇に抱え、エコバッグを渡すよう腕を差し出してきたですありがとう。波那はおつまみの入ったエコバッグを正木の肩に掛ける。
「あんま遅くなるな、麗未さん心配するから」
うん。波那は正木が立ち去るのを見送ってから公園の中に入っていく。ゆっくり、ゆっくり、なるべく音を立てないよう、男性の姿が認識出来る所まで近付くと、急に鼓動が早くなって少し胸が苦しくなってきた。
その男性とは畠中だった。彼が何故ここに居るのかは分からない。ただ着信拒否設定にはとおに気付いているはずなのに、敢えて履歴を残してきた。単なる自惚れの可能性もあったのだが、もしかすると自分に会おうとしてくれているのかも知れない……。
対峙したところで何を話す?波那は近くの木に隠れて一度呼吸を整える。瞳を閉じ、ケータイにぶら下がっているウサギを握り締めていた。
しかし着信拒否設定にしてまで二度と元に戻らない覚悟で別れたはずなのに何を今更?ここで中途半端に話し掛けるのはそれに反するのではないか?波那の心は迷いに迷ってなかなか一歩を踏み出せずにいた。
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