平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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quarante-neuf

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 とゆっくり出来たのかひたすら落ち込んだのか分からないまま大浴場を出た私は、既にクールダウンして定番のフルーツ牛乳を飲んでいる冬樹と合流した。
「あれ? あきは?」
「通話中~、ミッツ君から着信があって」
 昨夜聞いたことかなぁ……別に今じゃなくてもとは思ったけど、基本ミッツは何事も即断即決タイプである。そうは言っても我が五条家はただ今旅行中、あれでも一応遠慮してくれたのだろう。
「それ飲んだら出るよ」
「え~あと一本飲みたぁい」
 そう言ってるけど傍らには既に空の瓶が二本、おいもうじき朝食だぞ。
「フルーツ牛乳と朝ご飯、どっちが楽しみ?」
「ん~っと朝ごは~ん!」
「んじゃ行くよ」
 フルーツ牛乳を飲み終えるのを待ってから私たちは大浴場を出て通話を終えた秋都と共に部屋へ戻ると、ちょうど仲居さんが布団を片付けてくださっている。
 「おはようございます、お連れ様でしたら仲良く・・・露天風呂に入っていらっしゃいますよ」
 仲居さんは超絶手際良く布団を片付けるとササッと部屋から出て行く。それから少しして別の仲居さんが朝食を運んできてくれ、先輩と姉もさっぱりとした表情で風呂から出てきてお料理を囲む。
 朝食入って旅館らしく純和食で、炊きたてのご飯、お味噌汁、焼き魚、煮物、お浸し、白和え、佃煮、お漬物、味付け海苔と何とも豪華なものだった。お漬物が茄子だったので先輩は口にしなかったが、昨夜の田楽茄子はちゃんと食べていたので単純にお漬物が苦手なのだろう。因みに我が家でも秋都がお漬物を食べない、塩っぱいものがあまり得意ではないというのがその理由だ。
 何にせよ朝食も美味しく頂いた私たちは、もう一泊するので鍵だけフロントに預け身支度をして旅館を出る。今日はこの街のローカル鉄道を利用して、昨日行かなかった県立公園に行く事にした。すぐ近くに昨夜バーで飲んだワインを醸造している工房があり、予約制なので見学は出来ないが直営店での買い物は出来るのでついでに立ち寄る予定である。
「ねぇねぇお昼ここにしな~い?」
 冬樹がガイドブックを広げて見せてくる。
「ステーキハウスかぁ、良いな」
 肉好き秋都が嬉しそうにそれに乗る。私は美味しければ何でも良いが姉は牛肉がさほど好きではない、さてどうなる?
「う~ん」
「牛肉しか無い訳じゃないみたいだぞはる、良いんじゃないかな」
 先輩は一応姉の好き嫌いを把握してらっしゃるみたいだ、この言い方だと結構な肉好きのご様子。
「うん、食べられない訳じゃないから」
 と言いつつも返事の歯切れが宜しくない。きっと三十代に入って肥満とかメタボが気になる年頃なのだろう、私に言わせればむしろ痩せてるよアナタ。
「十代男子にエネルギーを~!」
「非リア充男子に活力を!」
 肉が食いたい弟二人は姉にすがる、お前らそこまで必死にならんでも。
「はる姉ちゃんといたる兄ちゃんも精力付けないと~!」
 それ大声で言う事ではないぞ冬樹。
「彼はこれ以上要らないわよ」
 姉は先輩の顔を見て肩を竦めてる。
「それどういう意味だ?」
「言葉のままの意味よ、どこかおかしなところあったかしら? えっ!」
 姉の憎まれ口に対して、先輩は姉の腰に腕を回しぐっと体を引き寄せてニヤッと笑う。姉は何だかんだで結構な照れ屋さんなのでこういう事をされるのにめっぽう弱かったりする。
「ちょっと往来でこんなことしないでよ」
 姉の頬はみるみる真っ赤に染まっていく、可愛いなぁおい。
「これぐらいは良いだろ?」
 先輩はニヤニヤを崩さないまま姉の首筋にチュッとリップ音付きのキスを落とす。いやぁアメリカンですなぁお二人さん、非リア充にはちょっと厳しいぞコノヤロー! にしても先輩って結構大胆なことするんだなぁ、高校時代の記憶では硬派なイメージだったんだけど。
「んもぅ」
 恥ずかしがりつつも離れようとはしない姉、そんな姉を見て楽しそうにスキンシップを図る先輩、何か普段の二人の関係性が垣間見えたような気がするわ。
「いやいやお二人さん、仲が良いのは分かったから」
 秋都はバカップルのいちゃつきっ振りに苦笑いしている。
「ホントだよね~、だからこそステーキ食べようよ~」
 冬樹はとにかくステーキしか頭に無いらしい。何に対して『だからこそ』なのかさっぱり分からないが、そこを掘り下げるメリットは無さそうなので気にしないでおこう。
「でもこのお店予約制よ、土曜日だし空いてるかしら?」
「んじゃネットで問い合わせりゃいいんだよ。今日のランチライム、五人で予約っと……」
 秋都はケータイをサクサクと操作して一旦バッグにしまう、こういう時だけ仕事が早いなお前。
「多分営業が始まってすぐくらいに返信があるだろ、仮に駄目なら駅に戻ればどこかしらあるんじゃねぇか?……って早っ!もう来た」
 秋都はブーブー言ってるケータイを引っ張り出して再度いじり始める。
「どぉどぉ? 空いてそぉ?」
「おぅ、十三時ならどうですか? って。決めちまっていいかはる姉?」
 うん。姉が頷くと弟二人の顔がぱぁっとほころんだ。
「うわぁいやったぁ! 良かったねなつ姉ちゃん!」
「えっ! 何で私?」
 ステーキハウスに反対はしていないがお願いとすがった覚えは無いぞ。
「温泉で水分吸収したら次は油分摂取でしょ~? ステーキ食べてガサガサ肌解消だね~!」
 うっさいわ! 人が気にしてる事をズケズケと大声で言いやがって! 一発絞め上げてやろうと冬樹を捕まえにかかったが、普段のゆらゆらとは打って変わって機敏な動きを見せ先輩の後ろにササッと隠れる。さすがに先輩を挟んでの鬼ごっこは出来ないと怯んでしまった私を見て勝ち誇った表情を見せる弟、むむっ、末っ子ってのはこういうとこ本当ズルい。
 私は仕方無く弟の捕縛を諦め、ONE DAYパスポートなるものを購入してから秋都の後に付いて駅構内に入ると可愛らしいデザインの観光用電車が停車していた。
「アレみたいだぞ」
「へぇ~、思ったほど混んでないね」
 取り敢えず乗り込んで座席を探すが観光用なだけあって基本は四人席、所々埋まっていて五人で座れそうな座席が無い。
「あっ! あそこ空いて……優先座席だ、車両移るか」
 私たちが車両を移動してドアを開けた途端、既に壁に付けてある三人席を両側とも占領している姉たちと鉢合う。アレ? さっきまで後ろにいたんじゃないの?
「遅いよぉ二人共~」
 冬樹は陣取ってくれていた三人席に私たちを座らせると向かいの壁の席に移動していった。折角のおデートの邪魔をしなさんな弟よ、でもまぁ先輩と姉は気にしていない様なのでわざわざ止めないけどもね……と思ってたら私のケータイがブーブー言ってる。こんな時に誰だろ?と思って画面をチェックすると郡司君からだ、さっきアナウンスでもうじき発車するって言ってたし車内での通話ってマナー上良くないし……。
「どしたなつ姉?」
 隣にいればさすがに気付くか……秋都は私を見て変な顔をする。
「うん、通話着信なのよ」
「もうじき電車出るぞ、切れるまで待ってからメールしてやんな」
 だよね、外に出て通話したがばっかりに一本電車を遅らせるとかみんなにとっては迷惑だもんね。よし切れるまで待とうとケータイをバッグに放り込むもなかなか振動音が鳴り止まない。多分昨日のメールに返信しなかったからだと思う……色々あったから忘れちゃってたわ。
 程なくして電車は発車、ケータイのバイブもようやく落ち着いたのでケータイを取り出してメールを打つ……でも何て打とう? これと言って用も無いし。
【昨日は返信出来なくてごめんなさい、今旅行中なんです】
 まずは昨日の事を謝罪して様子を伺ってみるとほぼ即レスで【いつから?】と尋ねてくる。
【昨日からです、電源落としてたので】
【今は点けてるよな? 何らかのレスポンスは欲しかった】
 う~んそんなこと言われても……昨日の事があったから続報があってもと思って念の為電源入れてるだけなんだよね。因みに姉、秋都、冬樹も用がある時以外は電源を入れていない、先輩は会社用のケータイのみ電源を点けている状態だそうだ。
【会社から電話が掛かってくる可能性があるので午前中だけ電源を入れてるんです。昨夜は会社から通話があったので返信出来ませんでした】
 このタイミングで尋問とか面倒臭い……用件は何なんだろう? まさかコレ? 旅行中にそれはちょっとなぁ、だって一緒に行ってるメンツの中にこんな奴いたら普通に感じ悪いじゃない。
【ちょっとくらいの時間は取れたんじゃないの? 俺の優先順位低すぎない?】
 イヤだから旅行中なんだって、さすがに家族と比べれば明らかに優先順位は低いよ。
【一人旅ではないので。ご用件は何でしょうか?】
 ん~何かタイミング悪いんだよね郡司君って、何気に残念な方なんだろうか? 一昨日のホテルレストランからのプロジェクションマッピングだって予め約束していけば普通に楽しめるものなのに、何でわざわざあんな事する必要があったのかな?
【何か面白いななつって、ご用件やなんて。けど用が無いと連絡取ったらあかんなんてルール無いよな?】
 確かにそうだけど、その言い分であればこっちの都合で動くのだって構わない訳だよね? さっきから『旅行中だ』っつってんだから、用が無いなら戻ってきてからでも良くないか? 彼がどういうつもりでメールしてきているのかは知らないが、何となく馬鹿にされてる気がするので余り長くは続けたくない。
【だからと言って旅の仲間がケータイにひたすらかじり付いてるのって感じ悪いと思うのですが。私は旅を楽しみたいのでご用が無いのであればこれで】
 私はそのメールを送信するととっとと電源を落としてやった。
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