上 下
23 / 117

vingt-trois

しおりを挟む
 それから何日か経ったある日、幼稚園から中学までの同級生で電気屋の息子てつここと中西哲なかにしてつがひょっこり家を訪ねてきた。
「最近見ないけど元気してるか?」
「うん、そっちはどう?」
「まぁぼちぼち。それより先週末辺りに同窓会の案内はがき来てたろ? 俺速攻欠席で送り返したけど」
 そりゃあ今更あんな居心地の悪い環境に身を置きたくないわな。考えてる事はほぼ一緒の様だ、有砂も欠席にしたってメールあったし。
「有砂と私も欠席。有砂は仕事だって言ってた、私も法事と上司の送別会があるし」
「ウチ長男家庭だから盆時期って親戚集まって忙しくなるから普通に無理だよ。なつんとこだって盆時期はご両親の墓参りとか色々あんだろ?」
「うん、大分簡素にはなったけどだからってあそこに行く時間は勿体無いわ」
「言えてる。まこっちゃんらも同じ事言って欠席で送り返したってさ。厚木あつぎ先生の事は別の日に俺たちだけで何かしようや」
「うん、そうだね。正直今じゃなくてもいいもんね」
 私たち“島エリア”の同級生は七人しかおらず、女は有砂と私だけだ。あとは今いるてつこ、テーラーのまこっちゃん、ケーキ屋のこうた、僧侶のげんとく君、お茶屋のぐっちーの男の子五人、揃いも揃って大人しめの性格なのでちょいちょい嫌な目にも遭ってきてた。
 ただまぁ腐っても“島エリア”男子、大人しいのも表向きだけだから最後の最後で“街エリア”の男子児童全員を返り討ちにしてたけど。同窓会するなら七人でだけでいいわ、それが多分本音だと思う。その言葉通り私たち七人は年に数回顔を合わせて近所の居酒屋へ飲みに行ったりしてるから。
「そうだてつこ、一二三憲人ってどんなだったっけ? 全然覚えてないのよね」
「うへぇ~、あれ忘れるって相当だな。俺六年間女扱いされて屈辱的だったから嫌でも覚えてるぞ。なつだって『なっちゃん顔じゃない』って六年間欠かさず言われ続けてたんだからさすがに忘れてないと……その一二三憲人がどうかしたのか?」
あ~あの糞ガキかぁ……間違った『継続は力なり』ヤローでしたか。私は保科酒造の利き酒バーであった出来事をざっくりと話した。
「へぇ、ウザい奴って大人になってもそう変わらないんだな。にしたって職場の会長ってサラリーマンやOLじゃ普通お目にかかれない存在なんじゃないのか?」
「ううん、ウチの会社は全然。暇そうに色んな部署に入り浸っては邪魔者扱いされてるよ」
「うわぁ~、海東文具の会長だろ? 結構な財界人って聞いてるけど」
「うん、人脈は物凄いよ」
「俺なつを敵に回すのやめよう」
 とそんな話をしていると秋都がアルバイト先から戻ってきた。
「ただいまぁ~、あれ? てつこちゃん久し振り、相変わらず美人だな」
「やめいちっとも嬉しくない」
 てつこは子供の頃から周囲が振り返るくらいに可愛い顔をしていて、普通に男の格好してるけど男にナンパされまくってる女には羨ましい奴なのだ。
「何で? 俺てつこちゃんなら抱けるぞ」
「俺は嫌じゃ! いくら秋都がイケメンでも男に掘られるのは勘弁!」
「試してみる価値はあんだろ、俺男抱くならてつこちゃんって決めてたんだ」
「そんなもん勝手に決めんな! もう帰るわなつ、仕事も残ってるし」
 てつこは逃げる様に家を出ていった。秋都はこれまで女の子としか付き合っていないはずなのに、てつこにだけはちょいちょいああいう事を言ってる。本人曰く『気が合えばどっちでもオッケー!』らしいので一応バイと認識してるけど。
「あ~また逃げられちった」
「そりゃそうでしょ、てつこゲイじゃないんだから。アンタてつこと付き合いたいの?」
「てつこちゃんさえ良ければ。そこらの女よか可愛いし料理美味いしさ、小柄だから抱き心地も良さそうじゃん。まぁハグもさせてくんねぇけど」
 てつこは電子レンジとかIHとかの実演販売の為そこそこ料理は出来るのだ。んでそれがまた美味いもんだから商品が売れるのは良いが、男にモテるという要らんオプションのせいか顔も性格も良いのに独身彼女無しという案外可哀相な奴でもある。
「お前彼女いるだろうが」
「それとこれとは別、今カノ何気にビアンでさ」
 そうなの? 何かややこしいな。
「だからって訳でもないだろうけどお互い浮気しても修羅場になんねぇんだわ、『目移りくらいはするでしょ?』程度の感じ。それで一年半持ってんだから相性は悪くねぇと思うんだ」
 まぁこればっかりは当人同士にしか分かんない事だからねぇ、でも秋都とこんな話するの初めてだ。
「でもちょっと寂しくない?」
「う~ん、楽ではあるけど物足んねぇとは思う。嫉妬して時には感情撒き散らして大喧嘩すんのも恋愛の醍醐味だったりするだろ? それが無いから時々何考えてんのかさっぱり見えなくなる」
 今日の秋都はいつになく大人に見える。恋愛偏差値は私よりも相当高いと思う。
「でもまぁ乳デカイし挿れ具合は最高だからセックスには満足してる」
 あっそう、見直して損した。

「この店どう思う?」
 今日は職場の一般職OL四人で軽く飲み会。この度直属の課長が定年退職となり、送別会会場の下見も兼ねている。メンバーは先輩の椿水無子つばきみなこ、後輩の八木睦美やぎむつみ、弥生ちゃん、私の四人。
「ここ最近出来たんですよね? クーポン雑誌に『NEWOPEN』って紹介されてて気になってたんです」
 と睦美ちゃん。雰囲気は完全に女子会向けだと思うけど。
「座敷席とかあるのかな?」
 弥生ちゃんは辺りをキョロキョロしてる。階段でも探してるのかな?
「貸し切りが可能なのよ、それなら他のお客さんを気にしなくていいじゃない?あとは料理の味」
 もうここに決めちゃってないです? 水無子さん。でもまぁ彼女課長とは前に所属していた広報課からの付き合いだから好みはよくご存じで、あとは辛いものが苦手な私の口に合うかってところかな?
「夏絵の口に合えば課長も大丈夫だと思う、ご病気さえなければ元々辛いものはお好きだから」
 そう、ここはエスニック料理店。とにかく辛いものはご勘弁ください。
「カプサイシン攻撃はどうかご勘弁を」
「辛さ抑えめの『マイルドコース』っていうのがあるらしいですよ。クーポン雑誌情報ですけど」
「今日はそれを予約してあるの」
 さすがは水無子さん、下見と言いつつバッチリ予行演習じゃないですか。ってかここに決めちゃってますよね?
「男ども納得しますかね?」
 ウチの課は何気に男性社員の方が多い。『もっと大衆居酒屋みたいな所の方が』とか言ってきそう。彼らの選ぶ店ってタバコ臭くて正直げんなりするもの。
「別にそこどうでもいいじゃない? 砂糖と塩テレコにした玉子焼き出したって違いに気付きもしないクズな舌しか持ち合わせてない連中ばっかなんだから」
 イヤイヤそんな奴いないって! いたら速攻病院に行ってください! でもまぁ水無子さんの舌は割と信用できるのでこの店はきっと大丈夫だと思う。何気に課長こういうお店お好きだからね、娘さんと仲良しで親子で飲みに行くって仰ってたし。
「いらっしゃいませ。本日のご予約ご来店誠にありがとうございます」
 アジアンテイストな衣装を着ている若い女性店員さんが一人一人におしぼりを手渡ししてくれる。私たちはベトナム産のビールを注文し、程なくして料理と一緒に運ばれてきた。うん、見た目辛そうじゃなくてちょっと安心。
「これなら大丈夫そうです」
「良かった、冷めないうちに頂きましょう」
 水無子さんのひと声で私たちは料理を頂く事にする。見た感じ中華料理に東南アジア系の料理、沖縄料理っぽいのもある。私はまずミミガーのサラダを頂く。ごまドレッシングかと思ったらピーナッツドレッシングか、これ美味いわ。
「美味しいですね。課長結構グルメですからいいと思いますよ」
 睦美ちゃんも野菜炒めを美味しそうに食べている。これ白ご飯欲しくなる。私たちは思い切って白ご飯を注文し、案外ご飯に合う料理たちに舌鼓を打っていると……。
「五条夏絵!」
 またお前かよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...