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dix-huit

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 保科酒造さんの利き酒バーを十二分に楽しんだ私は、会長専属の運転手さんに送ってもらって上機嫌で帰宅した。明日は代休だしね、うふふ。
「ただいまぁ」
「「お帰りぃ……」」
 とテンション低過ぎの秋都と冬樹。なした? お前ら。
「はぁ~、なつ姉満田に何つってたんだ? 今日の事」
 へっ? 休日出勤で一日空いてない事はちゃんと伝えたよ、メールでだけど。
「休日出勤って伝えてるよ。何で?」
「何だちゃんと言ってたのかよ」
 と秋都、当たり前だろそんなの。でも何その言い方? まるで私が連絡怠った的な空気なんですが。
「詳しくは話してないよ、会長のお守り・・・なんだから」
「まぁそうだよね~、二流とは言え会社トップの動向は明かさないのがマナーだもんね~」
「いやいや、言ってやった方が居座られる事も無かったんじゃねぇの?」
 アホなのか秋都お前? そんなことして壁に耳ありなんて事態になったらどうすんの?
「今の情報拡散レベル考えてみなって~、悪い奴の目に留まって命狙われることだって十分考えられる時代なんだよ~」
 冬樹はその辺り話が早くて助かるわ……ってか居座られたって何? そんなの知らない!
「なつ姉ちゃん、ケータイ見た~? 多分恐ろしい事になってるよ~」
 今日は会長のお守り、見てる訳無いし電源すら入れてないわ。私は冬樹に言われて電源を入れると……うへぇっ! メールだけで十件以上、留守電も二件入ってる! 何でじゃ! メールの殆どが満田君だった。
【おはようございます(ゴメンもうこんばんはだわ)】
 に始まり、
【今何してますか? (休日出勤と言った筈だが)】
【あっ、メールに書いてありました。休日出勤頑張ってください(事前に送ってんだからちゃんと読めよ)】
【いつ頃終わりますか? (今終わったよ)】
【連絡待ってます(会長の前でメールなんか出来る訳無いだろ!)】
【メール読んで頂けてるのでしょうか? (今読んでげんなりしてるわ)】
 ウザいっ! ウザ過ぎるっ!
「……」
「ん? 何だ? うわっ! キモっ!」
「え~何ぃ~? うわ~キモ~イコイツ~」
 おい、人のケータイ勝手に見るなよ。いくらきょうだいとは言え個人情報だぞこれも。
「そっかぁ、あんたたち晩御飯は?」
「まだだよ、あいつさっき帰ったばっかで俺らもうクタクタ。飯作る気にもなんねぇわ」
 秋都は一応料理出来るからね、姉もたまには家事を休みたいさ。
「なつ姉ちゃんは良いよね~、会長の銭でご飯食べられてさ~」
 うっ、ちょっと罪悪感。でもお酒飲んじゃってるから運転出来ないし。
「ゴローちゃんとこ行こう、今日は奢る」
「うわぁ~いやったぁ!」
 それ大学生の喜び方じゃないよ冬樹、と思ってたらケータイが震え出した。あら楓さん、珍しいですね。
「もしもし」
『夏絵? 夕飯済ませてる?』
「私は軽く。あきとふゆがまだなんです、それで……」
 とまだ続きがあったのに。
『今日は来ない方がいいわ、この前の男の子うちに来てるのよ』
 何ですと! 私は冬樹に向けて首を横に振った。
『さっきから『夏絵さんから連絡が来ない』ってグチグチグチグチ、鬱陶しいったらありゃしないわ』
 わざわざ知らせてくれてありがとうございます。そして知人が迷惑掛けて申し訳ございません。
「ごめんなさい楓さん、変なご迷惑掛けちゃって」
『こっちは大丈夫だから気にしないで。今日は達吉たつきちさんのお店の方が安全だと思う』
「分かりました、今日はそっちにします」
 私はそれで通話を切る。はぁ~行動狭められてるようで何だか窮屈だ。
「なつ姉、ひょっとして……」
「うん、ゴローちゃんとこに居るんだって。達吉さんとこでもいい?」
「うん、僕お腹空いた~」
 ここからだとちょっと遠いけど仕方無いよね? ゴローちゃんのお店からだと逆方向だし、駅からも離れるから多分来ないと思う。ただ……これ以上気にしてても無意味だ、そうと決まれば早速参りましょう!

 で達吉さんのお店に行ったらサクが一人寂しく晩酌してる。またフルボッコかい?
「おぅ、どした? しけた顔してさ」
「いや、まぁ……ちょっとな」
 どうしたサク? そこまでテンション低いと余計な心配してしまうわさ。けど触れてほしくない事かも知れないからそっとしておいてやろう。
「あき、今日はそっとしといてやんな」
 私は秋都の服を引っ張ってテーブル席に移動するも……。
「なつ姉! 俺を慰めてっ!」
 サクがいきなり半べそ状態で泣きついてきた。なぜそうなる?私は反射的にサクの頭をぶん殴る。
「えぇい離れろ鬱陶しい!」
「ひでぇよなつ姉、俺ガチで悩んでんだからな」
「おぉそうかサク、だったら一緒に飲もうぜ。話せば楽になるってもんさ」
 結局サクも連れてテーブル席に着き、早速秋都のお節介が始まった。
「一体何があったんだ?」
「実はミトのやつ……」
「すいませ~ん、定食メニュー食べられますかぁ~?」
 冬樹、いくらお腹が空いてるとは言え、話をぶった斬ってやるのはやめないか? まぁサクも慣れてるからさほど気にしてない様だけど。
「冬樹~、せめて話し終え……」
「鶏唐定食なら出来るよー! それでいいかーい?」
 と達吉夫人の小百合さゆりさん。こちらは事情が分かってらっしゃらない可能性もあるけど……サクはこういうの結構多い。
「ったく話の邪魔すんなよおばちゃん」
「やかましいわ! さっきからしけた面してチビチビ酒飲みやがって! 雰囲気悪くなるだろうがっ!」
「だってさぁ、俺どうすりゃいいんだよぉ~」
 こういうのは珍しいな、普段はケ・セラ・セラな男なのに。
「内容も分かんないのに答えようがないだろうが」
「誰のせいで話止まってると思ってんだよ」
「ふゆちゃんじゃないか」
「え~僕なのぉ?」
 小百合さん正解。話の流れ考えりゃ完全にお前のせいだ冬樹……こりゃ大事になりそうだなぁ。
「子供出来たんだ、ミトに」
 ん? それってめでたくない? 因みに“ミト”はサクの嫁さんね。二ヶ月前に出逢ったその日に結婚……すげぇドンピシャじゃん! 何? 父親になる自覚無し? まだ浮気してたいのかこのヤリチン野郎が!
「普通嫁さんの妊娠ってめでたいもんだろ? 何そんなにしけた面してんだよ?」
「だってさぁ……」
「へいお待ちぃ! 鶏唐定食出来たよ!」
 達吉さん、冬樹のワガママに応えてくださった事は非常にありがたいのですが、今話をぶった斬るのやめません? 小百合さんは仕事に戻り、冬樹用の鶏唐定食を持ってきてくれた。
「はい鶏唐定食、ふゆちゃんにはまだちょっと熱いかもね」
「うん、ちょっと待ってから食べる~。ところで話の続きは~?」
 どこまでマイペースなのコイツ、サクが可哀想になってくるわ。
「実は俺の……」
 プルルルル、プルルルル。
「あっゴメン、私のケータイだわ」
 誰だろ? 取り敢えずチェックだけ……何だ満田君か、面倒いから無視だ無視。
「「なつ姉~」」
 だからゴメンって。私はケータイの電源を落としてバッグに放り込む、はいもうこれで大丈夫よ。
「もう話進めてよ~サクちゃん」
「俺のせいじゃねぇだろ! 元はと言えば冬樹、お前だからな!」
「え~ん! サクちゃんがいじめる~!」
 いや、むしろいじめてるのはお前だ冬樹。
「いい加減にしろ! 話全然進まねぇじゃねぇかよ!」
 秋都、アンタたま~にマトモになるね。
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