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朝食を頂いた後、チェックアウトしてから例のマクラーレンに乗って県内を南下中。これからS市にある明生君の自宅でゆっくりと過ごそうという話に収まり、お泊りに必要なものを購入してから確実に十階建以上はある高層マンションの地下駐車場に入った。
「今はここで一人暮らししてるんだ、職場近くだから」
彼の出身地であるK市やここS市は財界人や政治家、芸能人が多く暮らす所謂高級住宅地である。土地の値段はもちろん賃貸物件のお家賃もなかなかお高くて、二十代の平均的なお給料ではとても契約できないはずなんだけど。
「この辺のお家賃って高いんじゃ……?」
「えっ?そうかな?たかだか二十万前後でしょ?」
たかだか?前々から思ってたけど、彼と私じゃ金銭感覚が違い過ぎる。
「でも祖父が購入した物件だから家賃は払ってないんだよ。今は使ってないからって譲ってもらったんだ」
まぁお祖父様はそれなりに財をお持ちだとは言ってたけどちょっと凄過ぎない?使っていない物件があるってことは、似たような物件を何軒かお持ちでいらっしゃるってことだよね?
「やっぱり凄いんだね、ご実家」
「凄いのは祖父だけ、本人曰く遮二無二働いて老後のために貯蓄したって聞いてるけど。今は株に夢中で頻繁にパソコンとにらめっこしてるよ」
「そ、そうなんだ……」
私は思わずマンションを見上げてしまう。まさかとは思うけど最上階だとか言わないよね?
ちょっと複雑な気持ちを抱えつつ駐車場からエレベーターに乗ったのだが、彼は当然のように最上階のボタンを押したのでちょっとした格差を感じていた。
「良い物件なんだけど、エレベーターの乗り換えが面倒臭くてね」
へっ?エレベーターの乗り換えとかあるの?
「セキュリティの都合上入居者と許可してる来客以外は使えないようになってるんだよ」
「へ、へぇ……」
ごめん若干引いてます。
「変かな?」
そう聞かれてしまうと返事に困る。
「私の周りでは聞いたことが無いわ」
もう無難にそう答えるしかない。
「そうなんだ、一般的だと思ってたけど……たまに『オッペケペ』って言われるんだよね」
まぁ、でしょうねぇ。
「一般的では、ないと思う」
確実に私には場違いでございます。
「そうなんだね。でも夏絵には見てほしかったんだ、結婚してからも使っていいって許可はもらってるあるから」
『結婚』というワードに私の胸がトクンと鳴る。かつては結婚を意識した相手である彼にそんなことを言われたら、何というか妙な期待をしてしまう。
そんな話をしている間にエレベーターが最上階(?)に到着し、向かい突き当たりにある明らかに格の違いを見せつけている重厚なエレベーターへと移動する。彼がカードキーを差し込むとドアが重そうに開き、内装も別格感を誇る豪華な作りとなっていた。あの~、シャンデリアって要ります?
「こういうのを日常で使えるって認められた気になるよね」
えっ?何が?動くたびにぷらぷらと揺れる装飾が逆に怖いんですが……地震があったら速攻で落下しそうだな。そんなことを思いながら見上げていると、そういうの好きなの?と訊ねられた。いえそうではなく……。
「あの装飾、落ちて頭に当たったら痛そうだなぁって」
「えっ……?」
彼にとっては相当意外な返しだったようで、何言ってるの?的な表情を見せてくる。防犯的セキュリティを気にするのであれば防災的セキュリティも気にした方が良いんじゃないかと余計なことを思ってしまう。
「夏絵って時々面白いこと言うよね?」
別にウケとかは狙ってないのですが……。
「でも今は芸術的な装飾を無駄だっていう思考があるからね。そういうのって精神的余裕が無いんだなって思う」
「……」
何か噛み合ってない……そう思ったけどシャンデリアごときで気まずい空気にする必要は無いかとこれ以上の言及は控えることにした。ここでも更に最上階まで昇り、ドアが開いた目の前に彼の自宅玄関がデンと構えていらっしゃった。
「着いたよ」
彼は何らかの穴に指を入れてからカードキーをスキャンし、キーロックを解除する。あの穴って指紋認証か何かかな?
「どうぞ、入って」
「お邪魔しまぁす」
私は少々気後れしながらも彼の後に付いて入る。今時一軒家でもない限り廊下なんて無いし、最初に通過したダイニングキッチンでも多分十畳くらいはあったと思う。その奥のリビングにはテレビとリビングテーブル、ソファーくらいしか置いてなくて、とんでもなく広く感じられた。
「座って待ってて、お茶くらい淹れるよ」
「いえお気遣いなく」
そうは言ってみたけど、彼はそれくらいさせてとキッチンに入っていく。彼だって車の運転で県内縦断したんだからきっと疲れているだろうに。
ダイニングキッチンもリビングも白基調で、大きな窓にはカーテンすら掛かっていない。いくら周囲の建物よりも高いとはいえ、中身丸見えなんじゃ……。
「テレビでも点けてなよ、音が無いのも退屈でしょ?」
「うん」
退屈と言うよりは落ち着かない、この部屋。薄暗いよりは良いんだけど、何というか無駄に明るくて気持ちがざわつく。
私はお言葉に甘えてテレビを点ける。こんな時間にテレビなんて見ることが無いから、どんな番組を放送しているのかすら正直よく分からない。
テキトーにザッピングなんかしてみたり、番組表を見たりもしたけどやっぱりよく分からない……こういう時は動物番組がいいかな?平和だしということで、BSのよく分からないチャンネルの動物番組に切り替えてひたすら猫映像で癒やされていた。
その後彼が紅茶とお茶菓子を出してくれてしばらくは二人で猫映像を見ていたんだけど、どこで何をどうしたのか空白時間ができてしまい、記憶を取り戻した時はキングサイズのベッドの中で一人裸になっていた。
「今はここで一人暮らししてるんだ、職場近くだから」
彼の出身地であるK市やここS市は財界人や政治家、芸能人が多く暮らす所謂高級住宅地である。土地の値段はもちろん賃貸物件のお家賃もなかなかお高くて、二十代の平均的なお給料ではとても契約できないはずなんだけど。
「この辺のお家賃って高いんじゃ……?」
「えっ?そうかな?たかだか二十万前後でしょ?」
たかだか?前々から思ってたけど、彼と私じゃ金銭感覚が違い過ぎる。
「でも祖父が購入した物件だから家賃は払ってないんだよ。今は使ってないからって譲ってもらったんだ」
まぁお祖父様はそれなりに財をお持ちだとは言ってたけどちょっと凄過ぎない?使っていない物件があるってことは、似たような物件を何軒かお持ちでいらっしゃるってことだよね?
「やっぱり凄いんだね、ご実家」
「凄いのは祖父だけ、本人曰く遮二無二働いて老後のために貯蓄したって聞いてるけど。今は株に夢中で頻繁にパソコンとにらめっこしてるよ」
「そ、そうなんだ……」
私は思わずマンションを見上げてしまう。まさかとは思うけど最上階だとか言わないよね?
ちょっと複雑な気持ちを抱えつつ駐車場からエレベーターに乗ったのだが、彼は当然のように最上階のボタンを押したのでちょっとした格差を感じていた。
「良い物件なんだけど、エレベーターの乗り換えが面倒臭くてね」
へっ?エレベーターの乗り換えとかあるの?
「セキュリティの都合上入居者と許可してる来客以外は使えないようになってるんだよ」
「へ、へぇ……」
ごめん若干引いてます。
「変かな?」
そう聞かれてしまうと返事に困る。
「私の周りでは聞いたことが無いわ」
もう無難にそう答えるしかない。
「そうなんだ、一般的だと思ってたけど……たまに『オッペケペ』って言われるんだよね」
まぁ、でしょうねぇ。
「一般的では、ないと思う」
確実に私には場違いでございます。
「そうなんだね。でも夏絵には見てほしかったんだ、結婚してからも使っていいって許可はもらってるあるから」
『結婚』というワードに私の胸がトクンと鳴る。かつては結婚を意識した相手である彼にそんなことを言われたら、何というか妙な期待をしてしまう。
そんな話をしている間にエレベーターが最上階(?)に到着し、向かい突き当たりにある明らかに格の違いを見せつけている重厚なエレベーターへと移動する。彼がカードキーを差し込むとドアが重そうに開き、内装も別格感を誇る豪華な作りとなっていた。あの~、シャンデリアって要ります?
「こういうのを日常で使えるって認められた気になるよね」
えっ?何が?動くたびにぷらぷらと揺れる装飾が逆に怖いんですが……地震があったら速攻で落下しそうだな。そんなことを思いながら見上げていると、そういうの好きなの?と訊ねられた。いえそうではなく……。
「あの装飾、落ちて頭に当たったら痛そうだなぁって」
「えっ……?」
彼にとっては相当意外な返しだったようで、何言ってるの?的な表情を見せてくる。防犯的セキュリティを気にするのであれば防災的セキュリティも気にした方が良いんじゃないかと余計なことを思ってしまう。
「夏絵って時々面白いこと言うよね?」
別にウケとかは狙ってないのですが……。
「でも今は芸術的な装飾を無駄だっていう思考があるからね。そういうのって精神的余裕が無いんだなって思う」
「……」
何か噛み合ってない……そう思ったけどシャンデリアごときで気まずい空気にする必要は無いかとこれ以上の言及は控えることにした。ここでも更に最上階まで昇り、ドアが開いた目の前に彼の自宅玄関がデンと構えていらっしゃった。
「着いたよ」
彼は何らかの穴に指を入れてからカードキーをスキャンし、キーロックを解除する。あの穴って指紋認証か何かかな?
「どうぞ、入って」
「お邪魔しまぁす」
私は少々気後れしながらも彼の後に付いて入る。今時一軒家でもない限り廊下なんて無いし、最初に通過したダイニングキッチンでも多分十畳くらいはあったと思う。その奥のリビングにはテレビとリビングテーブル、ソファーくらいしか置いてなくて、とんでもなく広く感じられた。
「座って待ってて、お茶くらい淹れるよ」
「いえお気遣いなく」
そうは言ってみたけど、彼はそれくらいさせてとキッチンに入っていく。彼だって車の運転で県内縦断したんだからきっと疲れているだろうに。
ダイニングキッチンもリビングも白基調で、大きな窓にはカーテンすら掛かっていない。いくら周囲の建物よりも高いとはいえ、中身丸見えなんじゃ……。
「テレビでも点けてなよ、音が無いのも退屈でしょ?」
「うん」
退屈と言うよりは落ち着かない、この部屋。薄暗いよりは良いんだけど、何というか無駄に明るくて気持ちがざわつく。
私はお言葉に甘えてテレビを点ける。こんな時間にテレビなんて見ることが無いから、どんな番組を放送しているのかすら正直よく分からない。
テキトーにザッピングなんかしてみたり、番組表を見たりもしたけどやっぱりよく分からない……こういう時は動物番組がいいかな?平和だしということで、BSのよく分からないチャンネルの動物番組に切り替えてひたすら猫映像で癒やされていた。
その後彼が紅茶とお茶菓子を出してくれてしばらくは二人で猫映像を見ていたんだけど、どこで何をどうしたのか空白時間ができてしまい、記憶を取り戻した時はキングサイズのベッドの中で一人裸になっていた。
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