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quatre-vingt-onze
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どうしてこんなに嫌な気持ちになるんだろう?
考えてみたら誰一人悪いことをしている訳ではないのに、この感じは何なんだろう?弥生ちゃんが木暮さんと仲良くなってもいいじゃない、安藤があぶれるからてつこを呼んだっていいじゃない、何で?何が気に入らないの私?
私は今日一日弥生ちゃんとは挨拶以外のを言葉を交わさなかった。お昼も別行動にして公園で一人で食べた。普段でもたまにお昼休憩がずれ込んで一人でお弁当を食べる時だってあるのに、今日の昼食はいつに無く悲しかった。
こんな時にふと思い出す明生君の横顔……交際していた頃よりも痩せてしまい、頬がこけているようだった。合わなかった六年の間に何があったんだろうか?平賀時計資料館で会った時は、拒否反応以外無くて思い出すのも嫌だった。
多分当時の愛情は残ってないと思う、だけどそれとはまた別の情というものがあるのかも知れない。私はふとケータイの着信履歴を見る。
彼の新しい番号はまだ登録していない。今後も電話帳に加えるつもりはなかった……けど、気付けば画面を指で突っつき、彼の名前を入力して新規登録を完了させていた。
二度も反応しなかったんだから、もう連絡なんてしてこないだろう。そう思ってたけど、午後に勤務の間に彼の番号が履歴に残っていた。どうしよう、かけ直す?でも今更何を話すの?私は画面を見つめながらグダグダと考えていた。
「お先に、夏絵ちゃん」
弥生ちゃんは私の態度を気にすることなく平常運転だ。今日は誰かと待ち合わせでもしているのだろうが?誰よりも早くオフィスから出て行った。
「お疲れ様……」
私の声はいつもより弱く、彼女に届いていたかどうかすら分からない。結局その番号にかけ直すことなく、ケータイをバッグに仕舞って帰り支度を始めた。
「私ら本屋さんに寄るんだけど、夏絵はどうする?」
と水無子さんからお誘いがあったけど、とてもそんな気分にはなれない。
「今日はまっすぐ帰ります」
さっさとお風呂に入って寝よう、明日も仕事だし。
「そう、お疲れ様」
「お疲れ様です」
私は一人帰宅する選択をした。
「ただいまぁ」
何か疲れた……ご飯を食べる元気もない私は、部屋に直行してパジャマと下着をタンスから出す。
「お帰りなつ姉、飯要らねえのか?」
今日秋都は日勤だったようだ、仕事着のままキッチンに立っている。
「先にお風呂入る、それでお腹空いた時は食べる」
分ぁった。秋都はキッチンに引っ込み、冬樹の分を先に作っていた。
『なつ姉先に風呂だってさ』
『僕お腹空いた~、先に食べよ~』
私は二人の会話を尻目にお風呂に入る。体の疲れは落とせたが心の疲れまでは取れず、結局ご飯を抜いてベッドで休むことにした。
そんな調子ではあったが、仕事の方はスムーズに進んで無事に金曜日まで乗り切った。このところ弥生ちゃんとは挨拶しかしてないなぁ……しかも自分から声掛けしてないし。
「お疲れ様」
なるべく普段通りにっと。けど何か変な顔してる。
「夏絵ちゃん、ケータイ見てないの?」
ん?そう言われてケータイを見ると。一件のメールが受信されていた。何の気なしに画面を操作すると、安藤からのメールが届いていた。午前中には届いていたが全然気付かなかった。
「あっ、安藤からメール」
「今日はケータイ見なかったんだね」
うん。と返事してから内容をチェックすると、仕事でこの辺りに来るから食事でもどうか?というお誘いだった。
「他に誰か呼んでるのかな?」
「う~ん、聞いてないけど」
安藤なら良いかな、私は返信が遅くなったと詫びの一文を添えてからOKと返信した。
「どうする?」
「OKしたよ、行こっか」
うん。弥生ちゃんは満面の笑みを浮かべて私の隣に立った。
ほぼ一週間振りのことなのに、随分と久し振りに弥生ちゃんと一緒に歩いてるような気がする。
「最近調子悪かったの?」
彼女は私のことを気遣ってくれてる。この優しさを素直に受け取れなかったのが申し訳なくなる。
「う~ん、何か空回りしてた感じ。何がどうってことも無かったんだけど」
「そっかぁ、でもそういう時ってあるよね。今日のお店、一度行ってみたかったの」
そう言えばこの店最近オープンしたばかりで、評判自体は結構良い。ただ前にあったレストランが好きだった私は、そっちの方が残念であの辺りに足が向かなくなっている。
「今日は美味しいもの食べて気分換えよう、それで帰ってすぐに寝ちゃおう」
「そうだね」
この子やっぱり優しいな……私は同期の気遣いに感謝して、安藤チョイスのダイニングレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
店内は夜のお店らしく照明は抑えめ、白のワイシャツに黒のパンツというスタイルのイケメンさんが入口に控えていらっしゃった。多分安藤で予約入れてるのかな?
「待ち合わせしているんです」
「安藤様のお連れ様ですね、ご案内致します」
彼の案内で比較的大きめのテーブル席に案内されると、六人席に一人座る安藤が手を振ってきた。
「普段からこの時間に終わるの?」
まだ五時半だぞ……ってウチの定時は五時ですがね。
「今日は現地解散、四時半に終わったの」
私は安藤の向かいに、弥生ちゃんは私の隣に座る。
「三人だと大きすぎない?この席」
「えぇ、最終的には五人か六人になると思う」
そうなの?私はちょっと嫌な気持ちになる。
「元々は合コンの予定だったのよ、ただ当日になって全員がキャンセルしたものだから急遽人数集め。考えてもみてよ、お店側はこの予約に向けて朝から準備をしているのよ。
仕事のトラブルだから仕方がない面もあるけど、それならメンバー変えてでも利用した方が無駄にならないじゃない」
「それで私たちを呼んだの?」
「そうよ、急だったから迷惑は承知だけど……」
そういうことだったんだね。多分最後の含みは『4Aお断り』ってところだろうな。
「今日は予定無しだから大丈夫」
「私も。健吾君今日は深夜までの勤務になりそうなの」
小売業だとこの時期は忙しいものね、営業時間自体が十時ってやっぱり長いよね。
「あと三人来るんだ」
「私が呼べたのは二人、あと一人は……こっちこっち」
と話を中断して手を振った先には木暮さんの姿があった。
考えてみたら誰一人悪いことをしている訳ではないのに、この感じは何なんだろう?弥生ちゃんが木暮さんと仲良くなってもいいじゃない、安藤があぶれるからてつこを呼んだっていいじゃない、何で?何が気に入らないの私?
私は今日一日弥生ちゃんとは挨拶以外のを言葉を交わさなかった。お昼も別行動にして公園で一人で食べた。普段でもたまにお昼休憩がずれ込んで一人でお弁当を食べる時だってあるのに、今日の昼食はいつに無く悲しかった。
こんな時にふと思い出す明生君の横顔……交際していた頃よりも痩せてしまい、頬がこけているようだった。合わなかった六年の間に何があったんだろうか?平賀時計資料館で会った時は、拒否反応以外無くて思い出すのも嫌だった。
多分当時の愛情は残ってないと思う、だけどそれとはまた別の情というものがあるのかも知れない。私はふとケータイの着信履歴を見る。
彼の新しい番号はまだ登録していない。今後も電話帳に加えるつもりはなかった……けど、気付けば画面を指で突っつき、彼の名前を入力して新規登録を完了させていた。
二度も反応しなかったんだから、もう連絡なんてしてこないだろう。そう思ってたけど、午後に勤務の間に彼の番号が履歴に残っていた。どうしよう、かけ直す?でも今更何を話すの?私は画面を見つめながらグダグダと考えていた。
「お先に、夏絵ちゃん」
弥生ちゃんは私の態度を気にすることなく平常運転だ。今日は誰かと待ち合わせでもしているのだろうが?誰よりも早くオフィスから出て行った。
「お疲れ様……」
私の声はいつもより弱く、彼女に届いていたかどうかすら分からない。結局その番号にかけ直すことなく、ケータイをバッグに仕舞って帰り支度を始めた。
「私ら本屋さんに寄るんだけど、夏絵はどうする?」
と水無子さんからお誘いがあったけど、とてもそんな気分にはなれない。
「今日はまっすぐ帰ります」
さっさとお風呂に入って寝よう、明日も仕事だし。
「そう、お疲れ様」
「お疲れ様です」
私は一人帰宅する選択をした。
「ただいまぁ」
何か疲れた……ご飯を食べる元気もない私は、部屋に直行してパジャマと下着をタンスから出す。
「お帰りなつ姉、飯要らねえのか?」
今日秋都は日勤だったようだ、仕事着のままキッチンに立っている。
「先にお風呂入る、それでお腹空いた時は食べる」
分ぁった。秋都はキッチンに引っ込み、冬樹の分を先に作っていた。
『なつ姉先に風呂だってさ』
『僕お腹空いた~、先に食べよ~』
私は二人の会話を尻目にお風呂に入る。体の疲れは落とせたが心の疲れまでは取れず、結局ご飯を抜いてベッドで休むことにした。
そんな調子ではあったが、仕事の方はスムーズに進んで無事に金曜日まで乗り切った。このところ弥生ちゃんとは挨拶しかしてないなぁ……しかも自分から声掛けしてないし。
「お疲れ様」
なるべく普段通りにっと。けど何か変な顔してる。
「夏絵ちゃん、ケータイ見てないの?」
ん?そう言われてケータイを見ると。一件のメールが受信されていた。何の気なしに画面を操作すると、安藤からのメールが届いていた。午前中には届いていたが全然気付かなかった。
「あっ、安藤からメール」
「今日はケータイ見なかったんだね」
うん。と返事してから内容をチェックすると、仕事でこの辺りに来るから食事でもどうか?というお誘いだった。
「他に誰か呼んでるのかな?」
「う~ん、聞いてないけど」
安藤なら良いかな、私は返信が遅くなったと詫びの一文を添えてからOKと返信した。
「どうする?」
「OKしたよ、行こっか」
うん。弥生ちゃんは満面の笑みを浮かべて私の隣に立った。
ほぼ一週間振りのことなのに、随分と久し振りに弥生ちゃんと一緒に歩いてるような気がする。
「最近調子悪かったの?」
彼女は私のことを気遣ってくれてる。この優しさを素直に受け取れなかったのが申し訳なくなる。
「う~ん、何か空回りしてた感じ。何がどうってことも無かったんだけど」
「そっかぁ、でもそういう時ってあるよね。今日のお店、一度行ってみたかったの」
そう言えばこの店最近オープンしたばかりで、評判自体は結構良い。ただ前にあったレストランが好きだった私は、そっちの方が残念であの辺りに足が向かなくなっている。
「今日は美味しいもの食べて気分換えよう、それで帰ってすぐに寝ちゃおう」
「そうだね」
この子やっぱり優しいな……私は同期の気遣いに感謝して、安藤チョイスのダイニングレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
店内は夜のお店らしく照明は抑えめ、白のワイシャツに黒のパンツというスタイルのイケメンさんが入口に控えていらっしゃった。多分安藤で予約入れてるのかな?
「待ち合わせしているんです」
「安藤様のお連れ様ですね、ご案内致します」
彼の案内で比較的大きめのテーブル席に案内されると、六人席に一人座る安藤が手を振ってきた。
「普段からこの時間に終わるの?」
まだ五時半だぞ……ってウチの定時は五時ですがね。
「今日は現地解散、四時半に終わったの」
私は安藤の向かいに、弥生ちゃんは私の隣に座る。
「三人だと大きすぎない?この席」
「えぇ、最終的には五人か六人になると思う」
そうなの?私はちょっと嫌な気持ちになる。
「元々は合コンの予定だったのよ、ただ当日になって全員がキャンセルしたものだから急遽人数集め。考えてもみてよ、お店側はこの予約に向けて朝から準備をしているのよ。
仕事のトラブルだから仕方がない面もあるけど、それならメンバー変えてでも利用した方が無駄にならないじゃない」
「それで私たちを呼んだの?」
「そうよ、急だったから迷惑は承知だけど……」
そういうことだったんだね。多分最後の含みは『4Aお断り』ってところだろうな。
「今日は予定無しだから大丈夫」
「私も。健吾君今日は深夜までの勤務になりそうなの」
小売業だとこの時期は忙しいものね、営業時間自体が十時ってやっぱり長いよね。
「あと三人来るんだ」
「私が呼べたのは二人、あと一人は……こっちこっち」
と話を中断して手を振った先には木暮さんの姿があった。
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