91 / 117
quatre-vingt-onze
しおりを挟む
どうしてこんなに嫌な気持ちになるんだろう?
考えてみたら誰一人悪いことをしている訳ではないのに、この感じは何なんだろう?弥生ちゃんが木暮さんと仲良くなってもいいじゃない、安藤があぶれるからてつこを呼んだっていいじゃない、何で?何が気に入らないの私?
私は今日一日弥生ちゃんとは挨拶以外のを言葉を交わさなかった。お昼も別行動にして公園で一人で食べた。普段でもたまにお昼休憩がずれ込んで一人でお弁当を食べる時だってあるのに、今日の昼食はいつに無く悲しかった。
こんな時にふと思い出す明生君の横顔……交際していた頃よりも痩せてしまい、頬がこけているようだった。合わなかった六年の間に何があったんだろうか?平賀時計資料館で会った時は、拒否反応以外無くて思い出すのも嫌だった。
多分当時の愛情は残ってないと思う、だけどそれとはまた別の情というものがあるのかも知れない。私はふとケータイの着信履歴を見る。
彼の新しい番号はまだ登録していない。今後も電話帳に加えるつもりはなかった……けど、気付けば画面を指で突っつき、彼の名前を入力して新規登録を完了させていた。
二度も反応しなかったんだから、もう連絡なんてしてこないだろう。そう思ってたけど、午後に勤務の間に彼の番号が履歴に残っていた。どうしよう、かけ直す?でも今更何を話すの?私は画面を見つめながらグダグダと考えていた。
「お先に、夏絵ちゃん」
弥生ちゃんは私の態度を気にすることなく平常運転だ。今日は誰かと待ち合わせでもしているのだろうが?誰よりも早くオフィスから出て行った。
「お疲れ様……」
私の声はいつもより弱く、彼女に届いていたかどうかすら分からない。結局その番号にかけ直すことなく、ケータイをバッグに仕舞って帰り支度を始めた。
「私ら本屋さんに寄るんだけど、夏絵はどうする?」
と水無子さんからお誘いがあったけど、とてもそんな気分にはなれない。
「今日はまっすぐ帰ります」
さっさとお風呂に入って寝よう、明日も仕事だし。
「そう、お疲れ様」
「お疲れ様です」
私は一人帰宅する選択をした。
「ただいまぁ」
何か疲れた……ご飯を食べる元気もない私は、部屋に直行してパジャマと下着をタンスから出す。
「お帰りなつ姉、飯要らねえのか?」
今日秋都は日勤だったようだ、仕事着のままキッチンに立っている。
「先にお風呂入る、それでお腹空いた時は食べる」
分ぁった。秋都はキッチンに引っ込み、冬樹の分を先に作っていた。
『なつ姉先に風呂だってさ』
『僕お腹空いた~、先に食べよ~』
私は二人の会話を尻目にお風呂に入る。体の疲れは落とせたが心の疲れまでは取れず、結局ご飯を抜いてベッドで休むことにした。
そんな調子ではあったが、仕事の方はスムーズに進んで無事に金曜日まで乗り切った。このところ弥生ちゃんとは挨拶しかしてないなぁ……しかも自分から声掛けしてないし。
「お疲れ様」
なるべく普段通りにっと。けど何か変な顔してる。
「夏絵ちゃん、ケータイ見てないの?」
ん?そう言われてケータイを見ると。一件のメールが受信されていた。何の気なしに画面を操作すると、安藤からのメールが届いていた。午前中には届いていたが全然気付かなかった。
「あっ、安藤からメール」
「今日はケータイ見なかったんだね」
うん。と返事してから内容をチェックすると、仕事でこの辺りに来るから食事でもどうか?というお誘いだった。
「他に誰か呼んでるのかな?」
「う~ん、聞いてないけど」
安藤なら良いかな、私は返信が遅くなったと詫びの一文を添えてからOKと返信した。
「どうする?」
「OKしたよ、行こっか」
うん。弥生ちゃんは満面の笑みを浮かべて私の隣に立った。
ほぼ一週間振りのことなのに、随分と久し振りに弥生ちゃんと一緒に歩いてるような気がする。
「最近調子悪かったの?」
彼女は私のことを気遣ってくれてる。この優しさを素直に受け取れなかったのが申し訳なくなる。
「う~ん、何か空回りしてた感じ。何がどうってことも無かったんだけど」
「そっかぁ、でもそういう時ってあるよね。今日のお店、一度行ってみたかったの」
そう言えばこの店最近オープンしたばかりで、評判自体は結構良い。ただ前にあったレストランが好きだった私は、そっちの方が残念であの辺りに足が向かなくなっている。
「今日は美味しいもの食べて気分換えよう、それで帰ってすぐに寝ちゃおう」
「そうだね」
この子やっぱり優しいな……私は同期の気遣いに感謝して、安藤チョイスのダイニングレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
店内は夜のお店らしく照明は抑えめ、白のワイシャツに黒のパンツというスタイルのイケメンさんが入口に控えていらっしゃった。多分安藤で予約入れてるのかな?
「待ち合わせしているんです」
「安藤様のお連れ様ですね、ご案内致します」
彼の案内で比較的大きめのテーブル席に案内されると、六人席に一人座る安藤が手を振ってきた。
「普段からこの時間に終わるの?」
まだ五時半だぞ……ってウチの定時は五時ですがね。
「今日は現地解散、四時半に終わったの」
私は安藤の向かいに、弥生ちゃんは私の隣に座る。
「三人だと大きすぎない?この席」
「えぇ、最終的には五人か六人になると思う」
そうなの?私はちょっと嫌な気持ちになる。
「元々は合コンの予定だったのよ、ただ当日になって全員がキャンセルしたものだから急遽人数集め。考えてもみてよ、お店側はこの予約に向けて朝から準備をしているのよ。
仕事のトラブルだから仕方がない面もあるけど、それならメンバー変えてでも利用した方が無駄にならないじゃない」
「それで私たちを呼んだの?」
「そうよ、急だったから迷惑は承知だけど……」
そういうことだったんだね。多分最後の含みは『4Aお断り』ってところだろうな。
「今日は予定無しだから大丈夫」
「私も。健吾君今日は深夜までの勤務になりそうなの」
小売業だとこの時期は忙しいものね、営業時間自体が十時ってやっぱり長いよね。
「あと三人来るんだ」
「私が呼べたのは二人、あと一人は……こっちこっち」
と話を中断して手を振った先には木暮さんの姿があった。
考えてみたら誰一人悪いことをしている訳ではないのに、この感じは何なんだろう?弥生ちゃんが木暮さんと仲良くなってもいいじゃない、安藤があぶれるからてつこを呼んだっていいじゃない、何で?何が気に入らないの私?
私は今日一日弥生ちゃんとは挨拶以外のを言葉を交わさなかった。お昼も別行動にして公園で一人で食べた。普段でもたまにお昼休憩がずれ込んで一人でお弁当を食べる時だってあるのに、今日の昼食はいつに無く悲しかった。
こんな時にふと思い出す明生君の横顔……交際していた頃よりも痩せてしまい、頬がこけているようだった。合わなかった六年の間に何があったんだろうか?平賀時計資料館で会った時は、拒否反応以外無くて思い出すのも嫌だった。
多分当時の愛情は残ってないと思う、だけどそれとはまた別の情というものがあるのかも知れない。私はふとケータイの着信履歴を見る。
彼の新しい番号はまだ登録していない。今後も電話帳に加えるつもりはなかった……けど、気付けば画面を指で突っつき、彼の名前を入力して新規登録を完了させていた。
二度も反応しなかったんだから、もう連絡なんてしてこないだろう。そう思ってたけど、午後に勤務の間に彼の番号が履歴に残っていた。どうしよう、かけ直す?でも今更何を話すの?私は画面を見つめながらグダグダと考えていた。
「お先に、夏絵ちゃん」
弥生ちゃんは私の態度を気にすることなく平常運転だ。今日は誰かと待ち合わせでもしているのだろうが?誰よりも早くオフィスから出て行った。
「お疲れ様……」
私の声はいつもより弱く、彼女に届いていたかどうかすら分からない。結局その番号にかけ直すことなく、ケータイをバッグに仕舞って帰り支度を始めた。
「私ら本屋さんに寄るんだけど、夏絵はどうする?」
と水無子さんからお誘いがあったけど、とてもそんな気分にはなれない。
「今日はまっすぐ帰ります」
さっさとお風呂に入って寝よう、明日も仕事だし。
「そう、お疲れ様」
「お疲れ様です」
私は一人帰宅する選択をした。
「ただいまぁ」
何か疲れた……ご飯を食べる元気もない私は、部屋に直行してパジャマと下着をタンスから出す。
「お帰りなつ姉、飯要らねえのか?」
今日秋都は日勤だったようだ、仕事着のままキッチンに立っている。
「先にお風呂入る、それでお腹空いた時は食べる」
分ぁった。秋都はキッチンに引っ込み、冬樹の分を先に作っていた。
『なつ姉先に風呂だってさ』
『僕お腹空いた~、先に食べよ~』
私は二人の会話を尻目にお風呂に入る。体の疲れは落とせたが心の疲れまでは取れず、結局ご飯を抜いてベッドで休むことにした。
そんな調子ではあったが、仕事の方はスムーズに進んで無事に金曜日まで乗り切った。このところ弥生ちゃんとは挨拶しかしてないなぁ……しかも自分から声掛けしてないし。
「お疲れ様」
なるべく普段通りにっと。けど何か変な顔してる。
「夏絵ちゃん、ケータイ見てないの?」
ん?そう言われてケータイを見ると。一件のメールが受信されていた。何の気なしに画面を操作すると、安藤からのメールが届いていた。午前中には届いていたが全然気付かなかった。
「あっ、安藤からメール」
「今日はケータイ見なかったんだね」
うん。と返事してから内容をチェックすると、仕事でこの辺りに来るから食事でもどうか?というお誘いだった。
「他に誰か呼んでるのかな?」
「う~ん、聞いてないけど」
安藤なら良いかな、私は返信が遅くなったと詫びの一文を添えてからOKと返信した。
「どうする?」
「OKしたよ、行こっか」
うん。弥生ちゃんは満面の笑みを浮かべて私の隣に立った。
ほぼ一週間振りのことなのに、随分と久し振りに弥生ちゃんと一緒に歩いてるような気がする。
「最近調子悪かったの?」
彼女は私のことを気遣ってくれてる。この優しさを素直に受け取れなかったのが申し訳なくなる。
「う~ん、何か空回りしてた感じ。何がどうってことも無かったんだけど」
「そっかぁ、でもそういう時ってあるよね。今日のお店、一度行ってみたかったの」
そう言えばこの店最近オープンしたばかりで、評判自体は結構良い。ただ前にあったレストランが好きだった私は、そっちの方が残念であの辺りに足が向かなくなっている。
「今日は美味しいもの食べて気分換えよう、それで帰ってすぐに寝ちゃおう」
「そうだね」
この子やっぱり優しいな……私は同期の気遣いに感謝して、安藤チョイスのダイニングレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
店内は夜のお店らしく照明は抑えめ、白のワイシャツに黒のパンツというスタイルのイケメンさんが入口に控えていらっしゃった。多分安藤で予約入れてるのかな?
「待ち合わせしているんです」
「安藤様のお連れ様ですね、ご案内致します」
彼の案内で比較的大きめのテーブル席に案内されると、六人席に一人座る安藤が手を振ってきた。
「普段からこの時間に終わるの?」
まだ五時半だぞ……ってウチの定時は五時ですがね。
「今日は現地解散、四時半に終わったの」
私は安藤の向かいに、弥生ちゃんは私の隣に座る。
「三人だと大きすぎない?この席」
「えぇ、最終的には五人か六人になると思う」
そうなの?私はちょっと嫌な気持ちになる。
「元々は合コンの予定だったのよ、ただ当日になって全員がキャンセルしたものだから急遽人数集め。考えてもみてよ、お店側はこの予約に向けて朝から準備をしているのよ。
仕事のトラブルだから仕方がない面もあるけど、それならメンバー変えてでも利用した方が無駄にならないじゃない」
「それで私たちを呼んだの?」
「そうよ、急だったから迷惑は承知だけど……」
そういうことだったんだね。多分最後の含みは『4Aお断り』ってところだろうな。
「今日は予定無しだから大丈夫」
「私も。健吾君今日は深夜までの勤務になりそうなの」
小売業だとこの時期は忙しいものね、営業時間自体が十時ってやっぱり長いよね。
「あと三人来るんだ」
「私が呼べたのは二人、あと一人は……こっちこっち」
と話を中断して手を振った先には木暮さんの姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる