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quatre-vingt-six
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時が経つのは早いもので、この前正月を迎えたかと思ったらあっという間に二月目前。そろそろバレンタインシーズンなので、義理チョコの大量買いに忙殺せねばならぬ時期か。
ここ海東文具経理課も例外に漏れず、何気に甘い物好きな男性社員共からの無言の催促が待っている。課長も係長も独身で、何気に平均年齢の若いこの課は既婚者が一人しかいない。
「今年もピーチクパーチク煩い時期に入ったわね」
と我らがリーダー水無子さん、今年は彼氏さんに集中したいところでしょうに。それを言えば弥生ちゃんだってそうだと思うが、ショッピングモール勤務の健吾さんにとってこの時期は忙しくていつも日をずらしている。
「この風習そろそろやめたい」
東さんは甘いものが苦手で、この時期のデパ地下とかには寄りたくないと以前も零してらした。
「しょうがない、特にウチの課は侘しい独身男しかいないのよ。こんなことで仕事のモチベ変えられたらこっちが迷惑だわ、ここは哀れんでやってマウントを取りなさい」
はい……東さんも言い分は分かってらっしゃるようで弱々しく従っている。一方の睦美ちゃんは、そこら中のバレンタイン商戦カタログを片っ端から目を通している。
「う~ん、自分で食べたいですぅ」
「それは夏絵に任せる、私たちの分は『文子洋菓子堂』のマカロンにしない?睦美は初めてでしょ?」
「良いですね、今年はあそこのにしようと思ってたんです。夏絵ちゃん、週末一緒に買いに行かない?」
『文子洋菓子堂』に食いついた弥生ちゃんに同意し、『友チョコ』はマカロンに決定。そう言えば弥生ちゃんと休日に会うのってチュニックワンピースを買った時以来かぁ。
「良いよ、今年の家族チョコもあそこのにしよう」
「実家の父にも贈ろうかな?確か配送やってたよね?」
うん。全国展開ではないけど、弥生ちゃんの出身地であるD県なら配送可能なはずだよ。
「僕もそこのマカロンお願いします」
と毎度毎度無粋にも女子の集まりに割って入る仲谷君。君実家も遠いし彼女いないから寂しいのも分かるけど……。
「「「「「あ”ぁ?」」」」」
んで毎度この展開、女子の会話に割り込むのは危険なのよ。
「いえ悩んでそうでしたので、リクエストあった方がラクかなぁって」
ただコイツも年々図太くなっていってるのよね。
「なら自分で買え」
東さんの容赦ないひと言にそんなぁと悲しげに言う仲谷君。
「今月僕ピンチなんですよ~」
お前の金銭事情なんぞ知るか、どうせ何らかのギャンブルで大負けしたんだろうが。
「勝負師でもないくせに万単位の馬券買ってたもんね」
「いえ今月は雀荘です、競馬は三千円勝ちました」
仲谷、そこはキリッとするところじゃない。
「競馬でやめれば良かったのに。ああいうのって深入りするから負けるようにできてるのよ」
実を言うと弥生ちゃんも多少ギャンブルを嗜む。しかし仲谷君と違って彼女は勝負師、適度に勝ってサッと引くので大儲けはしないが滅多に負けないのだ。
「僕を一流ギャンブラーにお導きください師匠!」
あ~また始まった、その度に断られてるよね。
「弟子は取らないの、それにこんな出来の悪い子要らない」
「うっ……」
あら撃沈したみたいね、弥生ちゃんから辛辣な言葉浴びせられるのってアンタくらいだよ。
「おはようさん、今日は早いな女性陣」
普段よりも少々遅めに出勤された係長が声を掛けてきた。
「「「「「おはようございます」」」」」
「係長ぉ~、女性陣が冷たいんです~」
いや自業自得だろ、厚かましくも『文子洋菓子堂』のマカロンなんぞリクエストしてきたからこうなったんでしょ?係長は睦美ちゃんのデスクに積まれてるカタログを見やって苦笑いなさってるわ。
「仲谷、まさかリクエストなんて厚かましいことしてないよな?」
「えっ?その方がラクじゃないですか、悩まなくて済むんですよ」
「考えてもみろ、女性にとってこの時期は否応無しに物入りとなる。そんな時に懐事情も考えないで好き勝手リクエストするのはどうかと思うぞ」
「そ、そうなんですか?」
ただの義理チョコにリクエスト入れるお前マジどうかしてるわ。
「今は『義理チョコよりも友チョコ』の時代だ、職場でチョコを頂けるだけで運が良いんだぞ。チ○ルチョコ一個でも有り難いと思わないと」
「ではそれ採用します」
水無子さんのひと言に男性陣が凍りました。
「さすがにチ○ルチョコ一個はどうかと思いますよ」
午前の勤務を終え、経理課女性陣は近くのレストランでランチがてら引き続き義理チョコ会議。
「まさかそこまでのことしないって」
「せめてギフトパックにしますよねぇ」
うん、チ○ルチョコが暗躍する空気、たまに食べると美味しいんだけどね。
「それクリスマスにも出てませんでした?」
「そうね、今年くらい喜ばせてあげましょうか?」
「マカロンあげるんですかぁ?」
う~んそれこそ懐事情が……『文子洋菓子堂』のマカロンは三個で千円と良いお値段するのよ。
「あそこのよりは安いのにしよう、黙ってりゃ分かんないって」
「案外あっさり決まりましたね」
苦手なだけあって大して興味無さげにしてる東さんは、たらこクリームパスタを頬張ってらっしゃる。
「これに時間割き過ぎるのも疲れるからね。ある程度で決めちゃって早めに調達、これ鉄則」
「なら私たちも週末調達しておきましょうよぉ。経理課内の分くらいなら私一人で行きますよぉ」
「手分けしたらいいじゃない、三人で行こう。夏絵と弥生は『文子洋菓子堂』の方頼むね」
「「はい」」
これにて義理チョコ会議は終了した。週末は忙しくなりそうだ。
ここ海東文具経理課も例外に漏れず、何気に甘い物好きな男性社員共からの無言の催促が待っている。課長も係長も独身で、何気に平均年齢の若いこの課は既婚者が一人しかいない。
「今年もピーチクパーチク煩い時期に入ったわね」
と我らがリーダー水無子さん、今年は彼氏さんに集中したいところでしょうに。それを言えば弥生ちゃんだってそうだと思うが、ショッピングモール勤務の健吾さんにとってこの時期は忙しくていつも日をずらしている。
「この風習そろそろやめたい」
東さんは甘いものが苦手で、この時期のデパ地下とかには寄りたくないと以前も零してらした。
「しょうがない、特にウチの課は侘しい独身男しかいないのよ。こんなことで仕事のモチベ変えられたらこっちが迷惑だわ、ここは哀れんでやってマウントを取りなさい」
はい……東さんも言い分は分かってらっしゃるようで弱々しく従っている。一方の睦美ちゃんは、そこら中のバレンタイン商戦カタログを片っ端から目を通している。
「う~ん、自分で食べたいですぅ」
「それは夏絵に任せる、私たちの分は『文子洋菓子堂』のマカロンにしない?睦美は初めてでしょ?」
「良いですね、今年はあそこのにしようと思ってたんです。夏絵ちゃん、週末一緒に買いに行かない?」
『文子洋菓子堂』に食いついた弥生ちゃんに同意し、『友チョコ』はマカロンに決定。そう言えば弥生ちゃんと休日に会うのってチュニックワンピースを買った時以来かぁ。
「良いよ、今年の家族チョコもあそこのにしよう」
「実家の父にも贈ろうかな?確か配送やってたよね?」
うん。全国展開ではないけど、弥生ちゃんの出身地であるD県なら配送可能なはずだよ。
「僕もそこのマカロンお願いします」
と毎度毎度無粋にも女子の集まりに割って入る仲谷君。君実家も遠いし彼女いないから寂しいのも分かるけど……。
「「「「「あ”ぁ?」」」」」
んで毎度この展開、女子の会話に割り込むのは危険なのよ。
「いえ悩んでそうでしたので、リクエストあった方がラクかなぁって」
ただコイツも年々図太くなっていってるのよね。
「なら自分で買え」
東さんの容赦ないひと言にそんなぁと悲しげに言う仲谷君。
「今月僕ピンチなんですよ~」
お前の金銭事情なんぞ知るか、どうせ何らかのギャンブルで大負けしたんだろうが。
「勝負師でもないくせに万単位の馬券買ってたもんね」
「いえ今月は雀荘です、競馬は三千円勝ちました」
仲谷、そこはキリッとするところじゃない。
「競馬でやめれば良かったのに。ああいうのって深入りするから負けるようにできてるのよ」
実を言うと弥生ちゃんも多少ギャンブルを嗜む。しかし仲谷君と違って彼女は勝負師、適度に勝ってサッと引くので大儲けはしないが滅多に負けないのだ。
「僕を一流ギャンブラーにお導きください師匠!」
あ~また始まった、その度に断られてるよね。
「弟子は取らないの、それにこんな出来の悪い子要らない」
「うっ……」
あら撃沈したみたいね、弥生ちゃんから辛辣な言葉浴びせられるのってアンタくらいだよ。
「おはようさん、今日は早いな女性陣」
普段よりも少々遅めに出勤された係長が声を掛けてきた。
「「「「「おはようございます」」」」」
「係長ぉ~、女性陣が冷たいんです~」
いや自業自得だろ、厚かましくも『文子洋菓子堂』のマカロンなんぞリクエストしてきたからこうなったんでしょ?係長は睦美ちゃんのデスクに積まれてるカタログを見やって苦笑いなさってるわ。
「仲谷、まさかリクエストなんて厚かましいことしてないよな?」
「えっ?その方がラクじゃないですか、悩まなくて済むんですよ」
「考えてもみろ、女性にとってこの時期は否応無しに物入りとなる。そんな時に懐事情も考えないで好き勝手リクエストするのはどうかと思うぞ」
「そ、そうなんですか?」
ただの義理チョコにリクエスト入れるお前マジどうかしてるわ。
「今は『義理チョコよりも友チョコ』の時代だ、職場でチョコを頂けるだけで運が良いんだぞ。チ○ルチョコ一個でも有り難いと思わないと」
「ではそれ採用します」
水無子さんのひと言に男性陣が凍りました。
「さすがにチ○ルチョコ一個はどうかと思いますよ」
午前の勤務を終え、経理課女性陣は近くのレストランでランチがてら引き続き義理チョコ会議。
「まさかそこまでのことしないって」
「せめてギフトパックにしますよねぇ」
うん、チ○ルチョコが暗躍する空気、たまに食べると美味しいんだけどね。
「それクリスマスにも出てませんでした?」
「そうね、今年くらい喜ばせてあげましょうか?」
「マカロンあげるんですかぁ?」
う~んそれこそ懐事情が……『文子洋菓子堂』のマカロンは三個で千円と良いお値段するのよ。
「あそこのよりは安いのにしよう、黙ってりゃ分かんないって」
「案外あっさり決まりましたね」
苦手なだけあって大して興味無さげにしてる東さんは、たらこクリームパスタを頬張ってらっしゃる。
「これに時間割き過ぎるのも疲れるからね。ある程度で決めちゃって早めに調達、これ鉄則」
「なら私たちも週末調達しておきましょうよぉ。経理課内の分くらいなら私一人で行きますよぉ」
「手分けしたらいいじゃない、三人で行こう。夏絵と弥生は『文子洋菓子堂』の方頼むね」
「「はい」」
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