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soixante dix−neuf
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てつこと二人で晩酌と洒落込み、久し振りにテレビを見ながらいろんな話をした。今日はいつも以上に飲むペースが早く、喋りもいつもより饒舌だったんだけど、肝心の内容は訊ねてもはぐらかされて正直全容は掴めないままだった。
コイツが酒の場で口数が増えるのは大概嫌なことがあった時だ。ひょっとしたら元カノさんとの再会は決して歓迎された出来事ではなかったのかもしれない。付き合ってた当時から好きだった訳じゃなかった的なこともこの前言ってたし、私からすると何でそんなとこ我慢するかなぁ?なんて思ってしまう。
「疲れた顔してんなぁ」
今日のてつこは珍しいこと尽くしだ、六時前に家に来て只今午後十時半。家にあるお酒もちょっと飲んじゃったし、一度買い出しにも出掛けたからそれなりにアルコールは消費してるんだけど。
う~んしょうがないかぁ、と思ってさっきケータイから中西家に現状を通話連絡しておいた。今年は明後日が初営業だとのことなので、今日は家に泊めて明日戻らせることにした。
私は客間から毛布を持ち出し、ソファーを占領して眠っているてつこの体に掛けてやる。中西家の許可は頂けたし、下着は……さすがにサイズまで分からないから起きたら本人に買わせよう。
因みにてつこは一度眠りに入るとちょっとやそっとの物音では起きない。それをいいことにテーブルの上のものを片付け、使った食器を洗っておく。少し残ってしまっているお料理はダイニングテーブルに移動させ、一人なのも退屈だから電気ケトルでお湯を沸かしながらケータイをいじる。
あっという間にお湯が沸いたので、お茶でも淹れるかと立ち上がったところで振動音が響く。見るとテーブルの上でケータイがカタカタと揺れていて、画面をチェックすると姉からの着信。こんな時間に珍しい、仕事中に通話着信なんて滅多にしてこないのに。
「もしもし」
『なつ?今日は暇すぎて帰宅命令が出たの。スーパーに寄ってから帰る、要るものある?』
あら珍しい、そんなこともあるんだね。この時間帯に開いてるスーパーといえば、駅エリアと山手エリアの境にある二十四時間スーパーくらいだな。姉の店からだとちょっと遠いと思うんだけど、ハンドルキーパーでもいらっしゃるのかな?
「んじゃあメンズの下着一着買ってきて。今てつこが来てるんだけど、お酒飲んでソファーで寝ちゃってんのよ」
てつこが?姉は意外だと言わんばかりの口調だったが、コンビニの方がいいと思うと了承してくれた。
『てつこだと私と同じサイズで大丈夫そうね』
「そうなの?私じゃサイズまで分かんないから。でもスーパーってちょっと遠くない?」
『大丈夫、アンジェリカが車出してくれるから』
アンジェリカ……あのゴリマッチョ運転めちゃくちゃ荒いぞ。でも接客ついでに多少のアルコールが入ってるだろうから、嫌でも下戸であるアンジェリカがハンドルキーパーになるんだろうな。
「いえそれかなり危険かと……」
『あれから結構上達してるわよ、家の近くになったらもう一度連絡する』
じゃ後でね。姉からの通話が切れ、改めてお茶を淹れて……しまった!牡蠣調理したこと言ってなかったわと再びケータイを掴み、そのことをメールで報せておいた。
これでよしとテーブルに置いた途端またしてもブーブーと振動させている。きっと姉からの即レスだろうなと思って画面チェック、予想通りと思ってたところにもう一件受信される。お相手は杏璃、そう言えば何で父を家の目で降ろしたんだろう?
杏璃【父がお邪魔してます、一晩よろしくお願いします♡】
うん、もう寝ちゃってるよ。
なつ【お見合いで疲れてたみたいだね、聞いてると思うけど今寝てる】
杏璃【うん、ばぁばから聞いた。今日のお相手さん、知り合いだったみたいで余計に疲れちゃったんだと思う】
そりゃまぁ、元カノさんだからね。
杏璃【しかもチョーゼツなれなれしい女でさ、思い出話とやらのオンパレード。マジウザい】
それはしょうがないよ。てつこの気持ちはどうあれ、三年程お付き合いしてたんだから。知らない話聞かされるのって結構困るよね、初対面でそれされるとキツイよね。彼女そんな方だったっけ?高校時代に何度かお会いしてるけど、穏和で優しそうな女の子だったと記憶してるよ私はね。
なつ【そっか、知らない話聞かされるのはしんどいよね】
杏璃【多分私にケンカ売ってたんだと思う。ゆるふわ系の見てくれのわりに腹黒い女だった】
いやぁ再会を喜びすぎてはしゃいじゃった可能性もあるよ、彼女てつこのこと相当好きだったのは傍目でも分かるくらいだったから。
なつ【再会を喜んでただけだと思うよ】
何か風向き良くないなぁ、取り敢えず元カノさんをフォローする内容のメールを送るとものの数秒で即レス。
杏璃【なつはその場にいなかったからそんなのんきなことが言えるんだよ】
その文面を数秒で入力しちゃうの?早いな小学生。
杏璃【時々こっちに挑戦的な目向けてきてさ、あー思い出しただけでムカつく!】
ダメだ、火に油注ぐ結果になっちゃった。それにしても杏璃の怒りは相当なもののご様子で、文面だけでもひしひしと伝わってくる。
なつ【大変だったんだね】
杏璃【そうだよ!ってかパパから聞いてないの?】
なつ【聞いてもはぐらかされちゃって】
杏璃【だから五条家の前で降ろしてあげたのに!家だと瀬田さんがまだいる状態でガス抜きもしにくいだろうから、幼なじみのなつに本音を話してスッキリしてもらおうかと思ってたの】
あぁそういうことだったんだ、知り合いのいる前で愚痴はこぼせないって娘なりの配慮だったのね。父には伝わってなくて不思議がってたよ……瀬田さん運転の車内で理由は話せないか。
杏璃にとっては最悪のお見合いだったみたいだ、てつこの渋い表情もそういうことだったんだと今更ながらに思う。私はメールの手を止めて、ソファー越しの幼馴染を見る。
杏璃【とにかくあの女はイヤ!】
相当お嫌みたいだね……私はゆるかわ系の元カノ周央清乃の高校時代の姿を改めて思い出していたが、当時の印象を言えば杏璃が怒るような女性ではなかったので、この時の私は話半分で完全に信じてはいなかった。
コイツが酒の場で口数が増えるのは大概嫌なことがあった時だ。ひょっとしたら元カノさんとの再会は決して歓迎された出来事ではなかったのかもしれない。付き合ってた当時から好きだった訳じゃなかった的なこともこの前言ってたし、私からすると何でそんなとこ我慢するかなぁ?なんて思ってしまう。
「疲れた顔してんなぁ」
今日のてつこは珍しいこと尽くしだ、六時前に家に来て只今午後十時半。家にあるお酒もちょっと飲んじゃったし、一度買い出しにも出掛けたからそれなりにアルコールは消費してるんだけど。
う~んしょうがないかぁ、と思ってさっきケータイから中西家に現状を通話連絡しておいた。今年は明後日が初営業だとのことなので、今日は家に泊めて明日戻らせることにした。
私は客間から毛布を持ち出し、ソファーを占領して眠っているてつこの体に掛けてやる。中西家の許可は頂けたし、下着は……さすがにサイズまで分からないから起きたら本人に買わせよう。
因みにてつこは一度眠りに入るとちょっとやそっとの物音では起きない。それをいいことにテーブルの上のものを片付け、使った食器を洗っておく。少し残ってしまっているお料理はダイニングテーブルに移動させ、一人なのも退屈だから電気ケトルでお湯を沸かしながらケータイをいじる。
あっという間にお湯が沸いたので、お茶でも淹れるかと立ち上がったところで振動音が響く。見るとテーブルの上でケータイがカタカタと揺れていて、画面をチェックすると姉からの着信。こんな時間に珍しい、仕事中に通話着信なんて滅多にしてこないのに。
「もしもし」
『なつ?今日は暇すぎて帰宅命令が出たの。スーパーに寄ってから帰る、要るものある?』
あら珍しい、そんなこともあるんだね。この時間帯に開いてるスーパーといえば、駅エリアと山手エリアの境にある二十四時間スーパーくらいだな。姉の店からだとちょっと遠いと思うんだけど、ハンドルキーパーでもいらっしゃるのかな?
「んじゃあメンズの下着一着買ってきて。今てつこが来てるんだけど、お酒飲んでソファーで寝ちゃってんのよ」
てつこが?姉は意外だと言わんばかりの口調だったが、コンビニの方がいいと思うと了承してくれた。
『てつこだと私と同じサイズで大丈夫そうね』
「そうなの?私じゃサイズまで分かんないから。でもスーパーってちょっと遠くない?」
『大丈夫、アンジェリカが車出してくれるから』
アンジェリカ……あのゴリマッチョ運転めちゃくちゃ荒いぞ。でも接客ついでに多少のアルコールが入ってるだろうから、嫌でも下戸であるアンジェリカがハンドルキーパーになるんだろうな。
「いえそれかなり危険かと……」
『あれから結構上達してるわよ、家の近くになったらもう一度連絡する』
じゃ後でね。姉からの通話が切れ、改めてお茶を淹れて……しまった!牡蠣調理したこと言ってなかったわと再びケータイを掴み、そのことをメールで報せておいた。
これでよしとテーブルに置いた途端またしてもブーブーと振動させている。きっと姉からの即レスだろうなと思って画面チェック、予想通りと思ってたところにもう一件受信される。お相手は杏璃、そう言えば何で父を家の目で降ろしたんだろう?
杏璃【父がお邪魔してます、一晩よろしくお願いします♡】
うん、もう寝ちゃってるよ。
なつ【お見合いで疲れてたみたいだね、聞いてると思うけど今寝てる】
杏璃【うん、ばぁばから聞いた。今日のお相手さん、知り合いだったみたいで余計に疲れちゃったんだと思う】
そりゃまぁ、元カノさんだからね。
杏璃【しかもチョーゼツなれなれしい女でさ、思い出話とやらのオンパレード。マジウザい】
それはしょうがないよ。てつこの気持ちはどうあれ、三年程お付き合いしてたんだから。知らない話聞かされるのって結構困るよね、初対面でそれされるとキツイよね。彼女そんな方だったっけ?高校時代に何度かお会いしてるけど、穏和で優しそうな女の子だったと記憶してるよ私はね。
なつ【そっか、知らない話聞かされるのはしんどいよね】
杏璃【多分私にケンカ売ってたんだと思う。ゆるふわ系の見てくれのわりに腹黒い女だった】
いやぁ再会を喜びすぎてはしゃいじゃった可能性もあるよ、彼女てつこのこと相当好きだったのは傍目でも分かるくらいだったから。
なつ【再会を喜んでただけだと思うよ】
何か風向き良くないなぁ、取り敢えず元カノさんをフォローする内容のメールを送るとものの数秒で即レス。
杏璃【なつはその場にいなかったからそんなのんきなことが言えるんだよ】
その文面を数秒で入力しちゃうの?早いな小学生。
杏璃【時々こっちに挑戦的な目向けてきてさ、あー思い出しただけでムカつく!】
ダメだ、火に油注ぐ結果になっちゃった。それにしても杏璃の怒りは相当なもののご様子で、文面だけでもひしひしと伝わってくる。
なつ【大変だったんだね】
杏璃【そうだよ!ってかパパから聞いてないの?】
なつ【聞いてもはぐらかされちゃって】
杏璃【だから五条家の前で降ろしてあげたのに!家だと瀬田さんがまだいる状態でガス抜きもしにくいだろうから、幼なじみのなつに本音を話してスッキリしてもらおうかと思ってたの】
あぁそういうことだったんだ、知り合いのいる前で愚痴はこぼせないって娘なりの配慮だったのね。父には伝わってなくて不思議がってたよ……瀬田さん運転の車内で理由は話せないか。
杏璃にとっては最悪のお見合いだったみたいだ、てつこの渋い表情もそういうことだったんだと今更ながらに思う。私はメールの手を止めて、ソファー越しの幼馴染を見る。
杏璃【とにかくあの女はイヤ!】
相当お嫌みたいだね……私はゆるかわ系の元カノ周央清乃の高校時代の姿を改めて思い出していたが、当時の印象を言えば杏璃が怒るような女性ではなかったので、この時の私は話半分で完全に信じてはいなかった。
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