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懲りずに続編
波那ちゃんとハナちゃん……
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波那ちゃんとは転職をきっかけに知り合い、何度かの紆余曲折があってから共に人生を歩むことになったってのは知ってた。
元々は兄さんの転職先『江戸食品』に波那ちゃんが居たってのが出会いなんだけど、最終的には結婚相談所が仲介したお見合いという形で成就したって聞いてる。その会場というのがランドマークホテル二十六階の星付きレストランだったという話だ。
『そん時波那が[コーヒーゼリーの色した目を持つ男を好きになった]って言ったんだ。そいつの瞳を見ると無性にコーヒーゼリーが食いたくなるって』
それきっと兄さんのことだ、俺は艷やかな黒褐色の瞳を見る。
『昔からコーヒーが苦手でさ、何度かチャレンジしても食えなかったらしいんだけど……それで俺は掛けをした、この店のコーヒーゼリーを食べられたら俺の勝ち、食べられなかったら波那の勝ちってな』
『勝算はあったんですか?』
田丸の疑問は全うだと思う、俺自身彼がコーヒーゼリーを食ってる姿は一度も見たことが無い。体調を崩してからは紅茶や緑茶など、カフェインの入ってるものは口にすらしてないと思う。
『正直無かった、けど根拠のない自信だけはあったんだ。このコーヒーゼリーだけは絶対に食えるって、そんな直感みたいなもんがそん時だけは働いて』
『で、食べられたから今に至ってるんですね』
あぁ。兄さんは俺たちから仏壇に視線を移す。
『それから毎年、お見合いした日を記念日にしてこのコーヒーゼリーを二人で食ってさ。まぁ体調崩してからは俺一人で食ってたんだけど』
『へぇ、全然知らなかった』
『何言ってんだ、お前俺らに気ぃ利かせてわざわざ遅く帰ったり小田原家に泊まったりしてたじゃねぇか』
あっ気付いてたか……俺はちょっとバツが悪くなる。
『波那何気に寂しそうにしてたんだぞ、[変な気遣わなくていいのに]ってさ』
そうだったんだ……ゴメン波那ちゃん。俺は心の中で彼に謝ってると、さっきまで大人しくしてたハナちゃんがボックスから顔を出した。ひと声ニャ~と鳴いてからゆったりとした足取りで俺たちのそばまで歩み寄り、俺の前でちょんとお座りした。
いきなりかなり意外な行動を見せたハナちゃんは本来結構な神経質だった。人見知りの激しい彼女は人になかなか懐かず、何というかその行動が妙な懐かしさと温もりを感じる。
更には兄さんの傍らで寝そべってたミソラもハナちゃんに反応してむくっと起き上がる。気付くの遅ぇわなんて思いながら見てたら、何を思ったかハナちゃんの体に鼻をこすり付けてから体を寝かせて仰向けになった。
『『嘘だろっ!?』』
兄さんと俺は思わず声を上げてしまってた。これはもう驚くしかない、ミソラは日課のように生前の波那ちゃんの体の匂いを嗅ぎ、事あるごとに腹を見せて甘えていたんだ。参考までに言うと、この二匹相性は悪くないけどここまで仲良くもなかった。
ハナちゃんは腹を見せて寝そべってるミソラの体の上に乗り、くるんと体を丸めて寛ぎ始めてる。二匹は俺たちの視線を気にすることなく、何分も経たないうちにすぅすぅと眠りの世界に入っていった。
『『『……』』』
信じられない光景を目の当たりにした俺たちは言葉も出なかった。まるで波那ちゃんの魂がハナちゃんの体に乗り移ったみたいに見えていた。
取り敢えず兄さんの話が終わったんでこの後コーヒーゼリーは美味しく頂いたんだけど、田丸が帰ろうとハナちゃんを促すと今度は見せた事のない瞬発力で兄さんの影に隠れちまったんだ。
『んもぅ、ご迷惑になるから』
田丸vsハナちゃんの追いかけっこが始まり、これまでならあっさり捕まってたのにこの日は随分とすばしっこくてそうもいかずにいる。俺も手伝ったけど駄目で、兄さんにも加勢してもらってやっとこさ彼女を捕獲した。
『主に迷惑かけちゃ駄目だろ』
兄さんのひと言で大人しくなったハナちゃん、この日はそれで終わったんだけど、一週間ほどして田丸はまたハナちゃんを連れて家に来た。
『このところ元気無くて』
『なら家じゃなくて病院連れてけよ』
そう言う俺に行ったよと口を尖らせる田丸。
『全くもって異状なし、これまで以上の健康体』
『じゃ何で元気無ぇんだよ?』
『恋煩いか何かじゃない?あれから物思いに耽ってる感じだし、ご飯もまともに食べないし』
『恋煩い?ミソラにか?』
あいつ見た目はともかくメスだぞ。ハナちゃんもメスだから……動物の世界にもレズビアンってあるんだな。
『多分星哉さんにだと思う』
『は?何で?』
『知らないよ、けどこの前星哉さんの言葉に一番素直な反応したじゃない。だから』
『また例の直感か?』
そうは言ってみたがコイツの直感の鋭さは今更ながら侮れない。
『嫌じゃなければこの子の飼い主になってほしんだ』
『それは俺じゃ決めらんねぇわ、兄さんまだ仕事中の時間だし……それまで待てるか?』
うん。田丸は頷いてリビングのソファに腰掛け、ボックスからハナちゃんを出して兄さんの帰りを待った。
元々は兄さんの転職先『江戸食品』に波那ちゃんが居たってのが出会いなんだけど、最終的には結婚相談所が仲介したお見合いという形で成就したって聞いてる。その会場というのがランドマークホテル二十六階の星付きレストランだったという話だ。
『そん時波那が[コーヒーゼリーの色した目を持つ男を好きになった]って言ったんだ。そいつの瞳を見ると無性にコーヒーゼリーが食いたくなるって』
それきっと兄さんのことだ、俺は艷やかな黒褐色の瞳を見る。
『昔からコーヒーが苦手でさ、何度かチャレンジしても食えなかったらしいんだけど……それで俺は掛けをした、この店のコーヒーゼリーを食べられたら俺の勝ち、食べられなかったら波那の勝ちってな』
『勝算はあったんですか?』
田丸の疑問は全うだと思う、俺自身彼がコーヒーゼリーを食ってる姿は一度も見たことが無い。体調を崩してからは紅茶や緑茶など、カフェインの入ってるものは口にすらしてないと思う。
『正直無かった、けど根拠のない自信だけはあったんだ。このコーヒーゼリーだけは絶対に食えるって、そんな直感みたいなもんがそん時だけは働いて』
『で、食べられたから今に至ってるんですね』
あぁ。兄さんは俺たちから仏壇に視線を移す。
『それから毎年、お見合いした日を記念日にしてこのコーヒーゼリーを二人で食ってさ。まぁ体調崩してからは俺一人で食ってたんだけど』
『へぇ、全然知らなかった』
『何言ってんだ、お前俺らに気ぃ利かせてわざわざ遅く帰ったり小田原家に泊まったりしてたじゃねぇか』
あっ気付いてたか……俺はちょっとバツが悪くなる。
『波那何気に寂しそうにしてたんだぞ、[変な気遣わなくていいのに]ってさ』
そうだったんだ……ゴメン波那ちゃん。俺は心の中で彼に謝ってると、さっきまで大人しくしてたハナちゃんがボックスから顔を出した。ひと声ニャ~と鳴いてからゆったりとした足取りで俺たちのそばまで歩み寄り、俺の前でちょんとお座りした。
いきなりかなり意外な行動を見せたハナちゃんは本来結構な神経質だった。人見知りの激しい彼女は人になかなか懐かず、何というかその行動が妙な懐かしさと温もりを感じる。
更には兄さんの傍らで寝そべってたミソラもハナちゃんに反応してむくっと起き上がる。気付くの遅ぇわなんて思いながら見てたら、何を思ったかハナちゃんの体に鼻をこすり付けてから体を寝かせて仰向けになった。
『『嘘だろっ!?』』
兄さんと俺は思わず声を上げてしまってた。これはもう驚くしかない、ミソラは日課のように生前の波那ちゃんの体の匂いを嗅ぎ、事あるごとに腹を見せて甘えていたんだ。参考までに言うと、この二匹相性は悪くないけどここまで仲良くもなかった。
ハナちゃんは腹を見せて寝そべってるミソラの体の上に乗り、くるんと体を丸めて寛ぎ始めてる。二匹は俺たちの視線を気にすることなく、何分も経たないうちにすぅすぅと眠りの世界に入っていった。
『『『……』』』
信じられない光景を目の当たりにした俺たちは言葉も出なかった。まるで波那ちゃんの魂がハナちゃんの体に乗り移ったみたいに見えていた。
取り敢えず兄さんの話が終わったんでこの後コーヒーゼリーは美味しく頂いたんだけど、田丸が帰ろうとハナちゃんを促すと今度は見せた事のない瞬発力で兄さんの影に隠れちまったんだ。
『んもぅ、ご迷惑になるから』
田丸vsハナちゃんの追いかけっこが始まり、これまでならあっさり捕まってたのにこの日は随分とすばしっこくてそうもいかずにいる。俺も手伝ったけど駄目で、兄さんにも加勢してもらってやっとこさ彼女を捕獲した。
『主に迷惑かけちゃ駄目だろ』
兄さんのひと言で大人しくなったハナちゃん、この日はそれで終わったんだけど、一週間ほどして田丸はまたハナちゃんを連れて家に来た。
『このところ元気無くて』
『なら家じゃなくて病院連れてけよ』
そう言う俺に行ったよと口を尖らせる田丸。
『全くもって異状なし、これまで以上の健康体』
『じゃ何で元気無ぇんだよ?』
『恋煩いか何かじゃない?あれから物思いに耽ってる感じだし、ご飯もまともに食べないし』
『恋煩い?ミソラにか?』
あいつ見た目はともかくメスだぞ。ハナちゃんもメスだから……動物の世界にもレズビアンってあるんだな。
『多分星哉さんにだと思う』
『は?何で?』
『知らないよ、けどこの前星哉さんの言葉に一番素直な反応したじゃない。だから』
『また例の直感か?』
そうは言ってみたがコイツの直感の鋭さは今更ながら侮れない。
『嫌じゃなければこの子の飼い主になってほしんだ』
『それは俺じゃ決めらんねぇわ、兄さんまだ仕事中の時間だし……それまで待てるか?』
うん。田丸は頷いてリビングのソファに腰掛け、ボックスからハナちゃんを出して兄さんの帰りを待った。
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