どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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懲りずに続編

花火大会悲喜こもごも……

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 ファーストフード店で時間を潰してから小田原家に向かった俺たちは、見事なまでの変身を遂げた女性陣と誠に視線を奪われた。艶やかな浴衣に普段とは違った大人びたメイクで魅力度倍増じゃねぇかよ、これまでの俺なら目移りしてしょうがねぇや。
 「何か隣に立つのが申し訳ないや」
 颯天は恋人であると浅元さんを見て顔を赤らめてる。一方の誠は一緒にいる野上さんの影に隠れてやがる、おいもうちょいちゃんと見せろ。
 「もうまこちゃん、畠中君にちゃんと見せてあげなって」
 志賀さんに接突かれてようやっと全身が見えるように立つ。浴衣もこの前より着慣れてて、メイクも誠のキャラに合った感じになってる。
 「おぅ、案外似合ってんじゃねぇか」
 「そ、そうかな……?」
 誠は恥ずかしそうに下を向いてる。正直に言えば俺だって照れくさいけど、目の前の男は変に気を回して萎縮しちまうところがあるからなるべく照れは見せないようにする。
 「馬子にも衣装ってこの事か?」
 と余計なひと言を言ってみる、案外その方が緊張しなくて済むんじゃね?
 「畠中、その言い方はどうかと思う」
 「そうだよ、こんな可愛い子に言う台詞じゃないよ」
 誠を嬉しそうに囲んでる輝と光畑は、俺を押しのけるが如く蝶よ花よと褒めそやしている。まぁ元々は仲良く(?)争奪戦してたんだもんなぁ……その二人が今は恋人同士だってんだから世の中何が起こるか分かんねぇもんだわ。
 「そろそろ出た方がいいんじゃない?場所無くなっちゃうよ」
 見た目通りの姐御肌タイプらしき野上さんがこの場を仕切り、俺たちは見物スポットとなる堤防へと向かう。この辺りの土地勘に詳しい誠と輝の先導に従い、出店で食い物買いながら祭り気分を味わっていた。

 「やっぱそれなりに混んでんねぇ」
 小柄な志賀さんは懸命に背伸びしながら河川敷を覗こうとしている。う~ん、多分今日はどこ行ってもこんな感じなのかも知れねぇな。
 「何年か前までは橋からの見物もできたんだけど……」
 輝はそんなことを言いなから少し離れた大橋を見ながら言う。確か混雑しすぎて転落事故があったんだよな?
 「今はかろうじて歩きながら見るって感じだよね?」
 誠も地元民だから輝の言葉に頷いてる。俺もちっと気になって橋に視線をやると、確かに人通りはそれなりだけど誰も立ち止まってないな。
 「うん、写真撮るだけでも注意されるよ」
 「う~ん、でもこれじゃあオープニングの滝花火が観れないよぉ」
 志賀さんは野上さんに泣き言言ってるけど、ぶっちゃけ多分誰も見えねぇと思う。俺の身長でも上三分の一くらいがやっとだわ。
 「そこは諦めな、みんな見えてないから」
 なんてことを言ってると、始まったのか花火の音が聞こえてきた。俺らの位置にいる人たちの動きが慌ただしくなり、光畑もポケットを漁ってる。
 「畠中、腕伸ばして動画撮影やってみよう」
 えっ?そんな事やっていいのかよ?俺の疑問をよそに、低い位置から俺を突っつく感触が伝わってくる。誠だ。
 「ここはメインの打ち上げがよく見えるスポットだから、オープニングはああやって……ほら」
 そう言われて周囲を見ると、ホントだみんなやってるわ。
 「はいケータイ」
 おぅよく分かってんじゃねぇか、誠のやつの方がカメラ機能は抜群に良いからな。俺は誠のケータイを借り、光畑の動きを真似て腕を伸ばしてみる。腕前はあんま期待しないでくれ、と何とか見える部分を宛てに照準を合わせて滝花火の動画撮影に臨んでいた。
 ほんの五分弱の滝花火撮影を終え、取り急ぎ動画をチェックしてみると……お~案外ちゃんと撮れてるわ。
 「後でそれくれ」
 と誠にケータイを返す。
 「うん」
 ケータイを受け取った誠は浴衣に合わせたデザインの巾着袋にケータイを入れ、暗くなり始めた空を見上げた。俺はその表情にドキッとしたが、それに浸る間もなく本格的に花火が打ち上がり始めた。
 色鮮やかな光に誘われて俺も空を見上げる。この街の花火見るの何年振りだろ?誠も中学時代はいじめに苦しんでほとんど外出しなかったから、多分何年か振りの花火だと思う。
 今隣にいるこの男は何を考えてんだろう?それが気になって俺はもう一度誠の顔を見る。最近ようやっと見せるようになってきた満面の笑みで夜空を見上げていた。薄化粧を施してるきめ細かい肌に、何色もの色で彩られた花火の光がほんのりと乗せられていく。
 俺は何の気無しに恋人の頬をそっと触る。ちょっとびっくりした表情を見せてたけど、嫌そうにしてる様子はない。俺は顔を寄せて軽くキスをお見舞いしてやる。綾姉さんに貰ったっつってたフレグランスをまとった中にも、極甘なホットミルクの香りは健在だった。
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