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第十六話

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回想。

俺は見てしまった。
逃げていく犯人だろう男が誰なのか?
ーー俺は一体どーしたらいーのだろうか?

警察に通報する。
市民の義務だーーだが、昔から付き合いのあるやつを売ることになってしまう。

一晩考えた。
しかし、いい答えは出てこなかった。
共犯者になる代わりに、友達を売れないーー俺にメリットはない。
売らない代償を何かで得なくてはーー。危険なだけだ。

何もしてないのに、その場にいなかったのに、俺だけが犠牲になるかも知れないーーそんな恐怖が俺の心を支配した。

「あんなもの、受け取らなければ良かった」

翌日。
健吾は昼過ぎにようやく目を覚ます。
ーー昨日はあまり熟睡する事が出来なかった。
俺は太郎に電話をする。

「もしもし?」
明らかに嫌そうな声で電話に出ると太郎は言った。

「俺だけど。やっぱり俺は共犯じゃねーだろ?ーーお前、おかしいよ」
いきなりそんな想いを伝える。

「なんの事だ?」

「しらばっくれるつもりなのか?ーーじゃ、警察に」

はぁ。
太郎の深いため息が、受話器の向こうから響いてくる。

「わかったよ。どーしたらいーんだ?」

「俺は何もしてない。お前が逃げるところを見ただけだーーそれなのに、お前に共犯だと言われている」

「そうだな、、」

「共犯だというなら、金だ。100万用意しろ。それで秘密を共有してやる」
健吾の声が震えている。

生まれてこの方、人を脅迫なんてしたこともないし、脅迫された事もない。
臆病になる。

「百万?ーーそれで共犯になってくれるんだな」

太郎は言った。

「いいだろう」

健吾は頷く。
ーーとりあえず、はな。

「わかった。払おう!」

太郎は簡単に頷いた。健吾はあまりにも簡単に払うと言われて驚きのあまり、目をパチパチさせている。
瞬きが増えている。

その日。家に帰ると健吾は、無意識に今日1日を振り替えっていた。
太郎にはそんなお金はないように見えたのに、なぜ彼は簡単に払うなどと言えたのだろう?

翌朝。
健吾にとっても、寝た気がしない朝だった。
ーー太郎に、現金を要求した事で、俺も犯罪者か。

これまで真面目に生きてきたはずの俺自身が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが、わかる気がした。

「俺、これから一体どーなるんだろう?」

太郎を脅迫した事で俺も犯罪者になり、見逃すだけで、済ませておけば良かったと今更ながらに後悔する。
悪事を働けば、必ず自分にも帰ってくるだろう。わかっているが、共犯者でもないのに、共犯者にされたんではたまらないーー。
俺は、、俺は、、。
自問自答の日々が始まる。

太郎に脅迫行為をしてから、早いもので一週間程度の時間が過ぎている。
一本の電話がなった。

「もしもし?俺だけど」
その声は太郎だ。
「あぁ、どうしたんだ?」
心の通わない上辺だけのトーク。
「今日払うよ。金」
重すぎる沈黙が流れる。
ーーどうやら、太郎は本当に俺を共犯者にしたいらしい。

「ーーどこへ行けばいい?」
「この前の喫茶店で」
「わかった」
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