閻魔大王の判決

みゆたろ

文字の大きさ
上 下
3 / 12

判決の時

しおりを挟む
204で待たされていたのは鈴木大介だ。
ドアが開く。
案内人が顔を出すと、すぐさま言った。
ーー証言台へ。
言われるままに大介は証言台へ歩み寄る。
「万が一、この判決が不服なものであったとしても、裁判のやり直しは出来ませんので、ご了承下さい」
案内人が真面目な顔をした。
ーーこれより鈴木大介に対する判決を言い渡します。


ーー生死をかけた裁判をしていると言うからには、俺は今生きてはいないのだろうが、胸の鼓動が高まっているように感じた。

案内人がハッキリとした口調で言う。
ーー大介さまへの判決は「生」。あなたはもう一度現世に帰り、人生をやり直して下さい。

突如、涙が溢れてきた。
ーー生きられる。良かった。

これまで当たり前のように思えていた事実が、実はすごく大切な事で、実はすごく深い意味を持つ事なんだと言う事がわかった。
頭を深々と下げて、大介は言った。

「僕をもう一度、生きられるようにしてくれてありがとうございました」

頭をあげて大介は聞いた。
「ところで僕はこの後、どうしたらいいのですか?」
案内人が答える。
「もう1人判決を下すので、それまでここでお待ちください」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
大介は再度頭を下げた。

突然、204と書かれた部屋の中が賑やかになったようだ。先程までの雰囲気がガラリと変わった。案内人がいた場所の両隣から、沸いてでてきたように、数名の人が座っていたからだ。
男性2名。女性2名。
彼らはこの裁判に関わった人達なのだろう。
案内人と同じ服装をしている。

「大介さん、生と言う判決になって良かったですね」
女性が言った。
「はい。本当に良かったです。ありがとう」
また涙が溢れてくる。
「ちゃんと彼女の事を大切にしてあげて下さいね」
「はい」
ーーまた彼女に会える。会えるんだ。
感情が高ぶる。

彼らはまた次の判決を告げるため、次の人が待つ部屋へと歩いていったようだ。
次はきっと眠っていた彼だろう。山崎拓海と言ったかーー。
大介はまた1人に戻ってしまった。


ーー拓海。

404の部屋のドアが開き、案内人が顔を出した時、呑気にも拓海は眠っていた。
案内人は彼が眠っている事はまるで気にしていない様子で、拓海の肩を叩き起こした。
「拓海さん、起きて下さい!判決ですよ」

ーー山崎拓海さん、証言台へ。

「はい」
拓海の声はかすれている。まるで風邪でも引いている様なガラガラ声だ。素直な口調で彼はそう言いながらも、態度はあからさまにイヤそうに見える。
仕方なく証言台へ向かう。
そんな態度だった。

「山崎拓海さん、あなたの判決は死ですーーこれからあなたが行くべき場所に、ご案内します。それまでお待ちください」
ーーまた、だ。俺はまた1人になってしまった。
一体なぜ?こんなにも多く一人にならなければいけないのだろうか?
まぁいい、、1人には慣れている。。


ーー大介。

その頃204号室で待たされていたのは大介だったが、メンタル的に相当疲れていた。しかし、その結果が「生」と出た事で、気が抜けてしまっている。

「大介様、さぁ、参りましょう」

案内人は終始にこやかに笑っていた。その後で捕捉するように、案内人の彼は言った。
「残念ですが、あなたは「生」と言う判決でしたが、もう1人の方は「死」とゆう判決でしたので、現世にお連れするのはあなただけと言う事になりました」

案内人が頭を軽く言った。
どうやらこの世界では「個人情報」も何もあったもんじゃないらしい。

ーーどうして僕だけ「生」とゆう判決だったんでしょうか?
不思議だった。
直接、大介は案内人に聞いた。

ーー裁判で聞いた事に関しては、こちらでも事実確認しましたが、あなたは自分に正直でした。ですから、願い通りの結果になったようでした。

「拓海と言うもう1人の彼は?」
「彼は自分にウソをつきすぎていました。だからこそ、死の世界に導かれたのです」
「そうですか」

大介は「生」とゆう望み通りの結果を手にしていながら、なぜか手放しで喜べないような気持ちになった。
先ほど固く手を繋ぎ合った彼は「死」の判決を受ける事になってしまったからだ、、。
そんな事を考えていると、二本に枝分かれした道にたどり着いた。案内人が右手の道を指差して言った。
「大介様はこちらの道から、現世へとお戻りくださいーーでは、私はこれで」
案内人は頭を下げ、軽く手を振ってから「お元気でーー」と言った。

そして案内人はまたもう1人の彼のもとへと向かって走って行った。
長い廊下を渡っていると、物凄い騒音が響き渡ってくる。
ーーなんだ?一体何が起きている?
その音のする部屋へと急いで向かった。
404ーーこの部屋だ。
案内人はこの部屋にいたのが誰だったか?名簿で確認する。
山崎拓海だった。
彼は部屋中のいろんなものを蹴り飛ばしているのだろうか?ーー対したものは置いていないはずだが、、。
彼が何らかの方法で大暴れしているのは間違いなかった。
「拓海さん、お静かにーー」
ドアを開けると大きな声で案内人が言った。
いつもより冷静な声でーー。
しかし、彼の耳には届いていないようだ。
彼のヒートアップした感情は、さらに熱を上げていく。
「静かにしなさい」
案内人が声をあらげた。
「ーー何だよ、俺に指図すんな」
思わず振り上げた手が、案内人の頬に思いっきり当たってしまった。
それに驚き、一瞬だけハッと我に返った拓海だったが腹の底から沸き上がる「怒り」は収まらず、冷静には戻れなかった。

ーーこんな事は初めてです。
激怒しているんだろうか?案内人は握りしめた拳を震わせている。
殴られた頬を撫でるでもなく、案内人はその部屋の鍵を閉めた。
その時「少し頭を冷やしなさい」ーーもっともその声が、大暴れしている彼の耳に届いているかどうか定かではなかったが、、。
こんな事は前代未聞だ。どう対処していいのか?随分と長くこの世界にいる案内人にも、分からない。
一体どうしたものか?

しばらく彼が大暴れしている音が、長いろうかの隅々まで響き渡っていた。
現世での30分弱の時間が過ぎた頃、突然あたり一面に静けさが広がった。
物音一つないその静けさから、どうやら彼も落ち着いたようだ。
案内人はそう思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

夫は使用人と不倫をしました。

杉本凪咲
恋愛
突然告げられた妊娠の報せ。 しかしそれは私ではなく、我が家の使用人だった。 夫は使用人と不倫をしました。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

夫の裏切りの果てに

恋愛
 セイディは、ルーベス王国の第1王女として生まれ、政略結婚で隣国エレット王国に嫁いで来た。  夫となった王太子レオポルドは背が高く涼やかな碧眼をもつ美丈夫。文武両道で人当たりの良い性格から、彼は国民にとても人気が高かった。  王宮の奥で大切に育てられ男性に免疫の無かったセイディは、レオポルドに一目惚れ。二人は仲睦まじい夫婦となった。  結婚してすぐにセイディは女の子を授かり、今は二人目を妊娠中。  お腹の中の赤ちゃんと会えるのを楽しみに待つ日々。  美しい夫は、惜しみない甘い言葉で毎日愛情を伝えてくれる。臣下や国民からも慕われるレオポルドは理想的な夫。    けれど、レオポルドには秘密の愛妾がいるらしくて……? ※ハッピーエンドではありません。どちらかというとバッドエンド?? ※浮気男にざまぁ!ってタイプのお話ではありません。

処理中です...