親友だった奴等と異世界で勇者やってましたが、俺だけ力不足だとクビにされたので見返すために可愛い亜人たちと世界救っちゃいます!

農民サイド

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第1章 冒険の始まり

第2話 彼は元勇者です

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 俺が『シルヴェスト王国』を離れてから結構な時間がたちすっかりと日が落ちて辺りは真っ暗になっていた。しかし、予想以上に歩くのが早かったのか、あっと言う間に森を抜けて砂の大地が見てきた。
 砂漠と言われると日本人ならサハラ砂漠のような大陸内部砂漠……つまり、海から遠く降水量がとても低い場所をイメージをすると思うが、この世界の砂漠は根本が違う。なぜかと言うと元々砂漠があった場所は木々が生い茂る緑のあふれる森だったのだが、魔族との長期に渡る戦争によって植物は全てが枯れ果て、大地は乾き、砂漠と化したそうだ……まあ、その話は俺たちがこの世界に来る何十年も前の話らしいので事実かどうかは確認できないけど。

「行けるか?」

 自問自答するように口に出す。これは俺の癖みたいなもので冷静に考えたい時などに、一度口に出すと不思議と頭が働くので何かを決めるときなど必ずやるようにしている。ようは、ルーティーンだな。今の場合は、徒歩で目的を目指すかどうかを考えたのだが……

「いや、どう考えても徒歩は無理だろう……」

 単純に、一度も行ったことのないような場所を目指すにはリスクが高すぎる。この世界に来て2年は経過しているが、王国周りで魔物退治くらいしかしたことがないので残念なことに地理には全然詳しくないのだ。しかし、一刻も早く『レイザード帝国』を目指したかった俺はリスクを承知でこの砂漠を横断することを決意した。馬鹿だと言われるのは覚悟の上だが、そもそも馬鹿と言ってくれる友人ももういないと言う事実が俺の背中を押した。

――別に俺が死んでも問題ないだろう。

 生きたいと言う気持ちと、今後の孤独を考えたときの気持ちが入り混じり、ほんの少しだけ今後の孤独な気持ちが勝ってしまい、半ば自暴自棄になりながら俺は歩き出した。
 
「ついさっきまで悩まないとか思ってたんだけどなぁ……」
 
 頭では分かっているのに行動が伴わない……
 こんなことは今まで生きてきた中でも初めてのことで気持ちを整理しきれないなと思っていると自然と歩幅が広くなる、そうすると普通に歩くよりも足が砂に埋まることに気づく。
 
「なるほど、気をつけて歩かないと砂に足を取られるな」

 また一つ賢くなったなと思いながら、俺はスニーカーに乗った砂を払うために腰を下ろす。

「このスニーカーもずっと履いてるな、特別な思い出なんかはないけれど、なぜか捨てられないんだよな」

 ボロボロのスニーカーを見て、思わずそんなことを口にする。
 
「なんか、感情的に割り切れてないの俺のほうな気がしてきたわ」

 散々、正人たちにはこの世界で頑張ろうっていい続けていた俺が、一番元の世界との繋がりに依存していたようで自分がとても女々しい人間に思えてきてしまった。
 もしかしたらそういうところを正人たちは気づいてしまったのかもしれない……いや、それも違うか。

「よし、折角の機会だし、俺は俺でこの世界を救うためにはっちゃけますか……」

 俺は、スニーカーを脱ぎその辺に投げ捨て砂漠を駆け出した。とにかく気持ちを切り替えて1人でも魔王をぶっ倒してしまおう。そうすれば、正人たちも俺を少しは見直してくれるだろう。そのためにもとにかく冒険者になろう、そして仲間を増やそう……

「よしよし、段々目標が固まってきたぞ。なんか、行ける気がする」

 俺は息が切れるのも気にせず力一杯走り続けた。疲れたら砂の上で寝てやろう、そして休んだらまた走り出そう。とにかく、もう立ち止まらない魔王を倒し、世界を救う。
 新たな決意を胸にしたところで、俺は砂に足を取られ盛大にすっ転んだ。

 
 
 ◇◇◇


 
 気がつけば、太陽が顔を出し周囲は段々と明るくなっていた。興奮していたせいか、眠気もこなかったのでただひたすらにあるき続けたのだが、困ったことにゴールが全然見えてこない。

「なんか目印がないかとか聞いておけばよかったな……」

 周囲のマナも太陽の影響を受けて熱を発し始めたので、このままだと熱中症で倒れてしまうかもしれないな。
 ちなみに、マナとは世界樹と呼ばれるこの世界の何処かにある大きな木が吐き出す酸素の一種みたいなもので、人間はマナを体内に取り込むことで魔力を生成することが出来るので、とても大事なものという認識をしている。というのもマナは当たり前のように大気に存在しているのに酸素と同じで目に見えないので、あるんだなぐらいの感覚しかないからだ、目に見えれば捉え方はまた違うんだろうけど。
 それと、この世界には季節の概念はない。マナは地域によって活性属性という現象が起こり、それが体感温度にや環境に影響を与えている。北に進めば氷のマナが活性化しており寒く、雪が降る。大陸中央部分は火のマナが活性化しており熱く、雨が降らない。東側と西側は土のマナが活性化しており温度が一定で過ごしやすく、雨が降る。それと南は魔王の根城となっているので闇のマナが活性化しており、空気が毒のように変化している。これが魔族の拠点を攻めづらい原因ともなっている。

「あれ……」

 目の前で誰かが倒れたように見えた。俺は急いで駆け寄るとそこには頭にフードを被った太り気味の男が倒れていた、着ている服装から旅商人のように見える。

「おい、大丈夫か?」

 俺はフードを少しだけめくり男の顔色をうかがう。

「熱中症だな……」

 顔が真っ赤だし、汗がすごい。一刻も早く涼しいところで休ませて水を飲ませないと命の危険がある。

「おっさんたてるか?」

 声はかけるが反応はない。

「よいしょっと」

 俺は男を背に抱え、とにかく砂漠を抜けることを考える。幸いなことに男が歩いてきた足跡が残っていたのでそちらに進んだほうが早いだろうと予測する。

「流石に夜通し歩く馬鹿は俺ぐらいだろうしな」

 多少、重さは感じたが散々お年寄りをおぶってきた俺にはそこまでの苦は感じなかったの。



 ◇◇◇


 
「おーい、おっさん」

 男を砂漠で拾ってから急ぐこと30分ぐらいか? それぐらいの時間でどこかの街に到着した。

「おーい」

 生憎、所持金はなかったのだが理由を説明したら近くの商店の気のいいおっちゃんが屋根のある場所と水とベッドを貸してくれたので、男を寝かせて水を少しずつ飲ませたのだが、未だ意識は戻らない。

「目の間で死なれたら困るなぁ」

 こういうときに回復魔法や、合成回復薬ヒーリングポーションでもあればいいのだがどちらもない。流石にポーションは高級品なのでただで貰うわけにもいかないので、このまま様子をみるしかなかった。

「流石に俺も疲れたな……一緒に寝るか」

 いや、男と同じ屋根のしたで寝る趣味は俺にはないな。とはいっても同じ屋根のしたで寝るような異性は今まで出会ったことはないが……

「おーい、目が覚めたか?」
「あ、気のいいおっちゃん。それがまだ目覚めないんだよな」

 この場所を貸してくれた、色黒のスキンヘッドのおっちゃんがカーテンをわけて入ってくる。

「そうか……呼吸はしてるんだろ?」
「ああ、別に急を要すような状況じゃないとは思うけど……」

 高校で熱中症になった人の応急処置は学ぶが、その後は速やかに救急車を呼びましょうなのでこのままでいいのかどうか俺には判断がつかなかった。

「兄ちゃん、この男と知り合いじゃないんだろう? それなら、俺が代わりに見とくからもう行ってもいいぞ」
「いや、申し訳ないですよ」
「構わねえよ。どうせ客も来なくて暇だしな」

 気のいいおっちゃんは、気怠そうに大きなあくびをする。

「なんか、おっちゃんも疲れてんのか?」
「あ、そう見えるか? 暇すぎてやる気が出ないだけだよ」

 とおっちゃんは笑ってみせるが、明らかに普通じゃないのは目に見えて分かる。いや、俺が病人やお年寄りの介護をしていたのもあるかもしれないが、おっちゃんの顔はもうすぐ無くなりそうな病人やお年寄りのそれに酷似していた。けれど、分かったところで俺にはどうすることも出来なかった。

「おっちゃん、お言葉に甘えさせてもらうよ……あとおっちゃんも疲れたらすぐ休めよな」
「おう、気遣い痛み入るわ。兄ちゃんもこの国に用事があるなら気をつけろよ」
「え? ああ、そういえばここってどこだ?」

 おっちゃんは驚いたような顔をする。

「何だ兄ちゃん、知らないで来たのか? ここは、商売と快楽の国『パスウェスト商国しょうこく』だ」

 パスウェスト!?
 俺が出発したシルヴェストの正反対に位置する……つまり最東端の国だ。

「なんてこった俺は北に向かいたかったのに……」
「兄ちゃん、北のどっちの国に向ってんだ? もしかして兵士志望でレイザードに向ってるのか? それなら残念だったな、パスウェストから出てる長距移動の馬車は、シルヴェスト王国か『アルベレント共産国』にしか向かわないぜ。もし、レイザードに向かうなら一度アルベレントを経由するんだな」
「ありがとうな、おっちゃん」

 俺はおっちゃんに礼を言うと、立ち上がりテントを出ようとする。すると、去り際におっちゃんがボソッと呟く。

「兄ちゃん……この国は快楽の国。可愛い亜人がいっぱいだぜ」
「なん……だと……?」

 色々と高尚な目標を掲げていたような気がするが、すっかり頭から飛び抜けた。

「折角、この国に来たんだ楽しまないと損だぜ?」

 おっちゃんは、俺にグッドサインを向ける。俺もおっちゃんにグッドサインを返す。こうして男と男の友情は出来上がっていく。やっぱり世の中エロいことが正義だったのか……俺はそのことをすっかり忘れていた。

「よっしゃ! おっちゃん俺行ってくる。また来るぜ」
「おう、またな」

 踊る心と湧き出る興奮を抑えつつ、おっちゃんのテントを抜け快楽の国パスウェストへと足を踏み入れた。
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