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第1章 冒険の始まり
第1話 罪なき勇者は、パーティを追放される
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俺は元高校生の碇才蔵。
元だからといって決して中退したわけではなく、これには深い事情がある。それは、普通の高校生だった俺と親友と女友達2人とで仲良く夏祭りに向かう途中に起こった摩訶不思議な現象のせいであり、突然まばゆい光に包み込まれ異世界に転移していたことが原因だ。
俺たちが飛ばされたのは、『ミロリセントワーズ大陸』と呼ばれる、よくファンタジー主題のゲームにあるような中世ヨーロッパ風の世界で、そこの4つある国の1つ『シルヴェスト王国』にある、王の城の地下の魔法陣が描かれた怪しい地下室だった。そこで、俺たちはシルヴェスト王国の王である『ランド・シルヴェスト』と慈しみの女神『ネレス』にこの世界に召喚された理由を聞かされる。
「よくぞ参られた異世界の戦士たちよ。そなたたちにはこの国の勇者として魔族と戦い魔王を滅ぼし、世界を救ってほしいのだ。突然のことで混乱していると思うが運命として受け入れてくれ」
開口一番の王様からのありがたい言葉に俺たちはひどく混乱し取り乱した。それもそうだろう、平和な日本においては他人と切磋琢磨する闘いならいざ知らず、肉体的に戦うなんて言う考え自体がナンセンス。さらに、言えば俺たちのような高校生よりも、大人の方が知識も体力も経験も勝っているのは明白でベストな人選だとは思えなかったからである。
当然、俺たちはもっと年齢が高く戦いの分野に秀でた人間に変えたほうがいいと提案したのだが、取り付く島もなく却下されてしまう。しかし、それには理由があるそうで、
「実は勇者になるためには、豊かな想像力を持ち合わせている必要があり、私の判断で年齢を15歳から18歳程度の男女に絞らせていただきました。そして、多くの人間の中から選ばれたのがあなたたちだったのです」
と女神ネレスは笑顔で俺たちに告げ、続けるように勇者に選ばれたことがどれだけ素晴らしいかを力説していたが、他3人にはそれ以上女神の言葉は届かず、逃げられないんだなと言う事実だけが突きつけられたような顔をしていたのだが……俺だけは違っていた。そう、何を隠そう俺は日常に潜む影の刺客と日夜戦い続ける光の戦士……と言う訳でもなく。ただのゲームとアニメが好きな中二病だからであり、むしろこの状況を楽しんでやろうと思っていたからである。そこで、俺は3人をどうにかこうにか説得し、王と女神に勇者を引き受けることを伝えた。
「ありがとうございます。異世界の戦士たち……改めこの世界を救う勇者たちよ」
女神ネレスは深々と頭を下げ、さらに言葉を続ける。
「私からの感謝として、勇者としての強力な能力をお渡しします」
そう言って女神ネレスは俺たちに向けて手をかざす。すると、急に心臓の鼓動が早くなり全身に心地の良い熱が巡るのを感じた。
「これで勇者としての能力に目覚め、魔力を感じて扱うことが出来るようになりました」
さらに女神ネレスは、各々の能力と魔力の扱い方の説明する。
与えられた能力は、本人の性格により傾向が分かれるらしく各々が受け取ったスキルはこんな感じだった。
正義感が強く文武両道の俺の親友、大崎正人が受け取った能力は騎士。他人を守り、敵を排除する攻守ともに優れた勇者としては最強の能力。
ちょっと感情的になりやすいが基本冷静で知力の高い正人の彼女、石井優里が受け取った能力は魔法。高い攻撃力と殲滅力に優れ、極めれば一撃で戦況を変えてしまえるほどの力を発揮する能力。
高い包容力と誰に対しても優しい石井の親友、荒川伊織が受け取った能力は回復。他者を癒やし、身体能力を強化する魔法を扱え。さらに、神への信仰が深ければ死者をも蘇らすこともできる能力。
そして、この世界に最も適性を示し、正義感も強く知的で包容力もある俺がもらった能力は小手先。
「小手先?」
思わず女神に聞き返す。しかし、女神も俺の能力に困惑の色を示し詳しい説明を省こうとしていたので、俺は思わず異議を申し立て、詳しい説明を求めた。すると、嫌そうな顔をしながら渋々説明を始めた。
「小手先の能力は、使用者の器用さが最大まで強化される能力です」
「終わり?」
「…………はい」
「嘘だろ?」
「事実です」
現実を受け止めきれない俺は、何度も女神に能力を変えてくれとお願いしたのだが全て却下さてしまい、絶望のあまり勇者を辞めようかと思ったのだが、正人たちに説得されてこの能力で頑張ることに決めた。
「最後になりますが、この世界であなたたちは特別な存在となりますが、常にこの世界のことを想い、守り、救うことが勇者の定めですのでそれを忘れず一刻も速い魔王の討伐をお願いします。ちなみに魔王討伐し、世界を救ったあかつきには、元の世界に帰れますので頑張って下さい」
そう言って女神ネレスは、俺たちの目の前で透明になって消えてしまった、と思ったのだが再度姿を表し、
「いい忘れてました。この世界の言語設定なのですが話すのも聞くのも自動で日本語に変換されるようになっているのですが、私がこの世界の言葉を日本語に置き換えてますので、たまに伝わらないこともあるかもしれません、その時はいい直してあげて下さい。逆に聞き取れないこともあると思いますので、その時は聞き返してあげて下さい……至らぬ仕事で申し訳ありませんがよろしくお願いします」
と言い残して透明になって消えた。
「なんか、女神も大変そうだな……」
ちょっと女神の大変さに同情しつつも、これから始まる第2の人生に胸を踊らせていた。
◇◇◇
そうして2年の時が経過した。
俺たちは、襲い来る魔族を次々と撃退したり、頼まれる街の依頼を解決したりと忙しい日々を毎日送っていた。
衣食住に困ることは全く無く、度重なる戦闘で能力も徐々に強くなってきた頃……
日課である、街の下水場の掃除と花壇の手入れと、迷子の案内とお年寄りの買い物と孤児院の手伝いを終えた俺は正人に呼出され、街の中央広場に位置する勇者の宿屋へと足を運んだ。
正人が待つ部屋に入ると、そこにはすっかりと見慣れた俺以外の勇者3人が俺を待ち構える形で待っていた。
「本日も雑務、ご苦労だったな才蔵」
いつもなら俺に労いの言葉などかけない正人らしからぬ言葉に違和感を感じたが、黙って言葉を聞くことにした。
「実は、前々から3人で相談していたことがあってな、そのことの結論が出たからお前にも伝えようと思って、わざわざ呼び出したんだ」
一体なんの話だ……まったく想像もつかない。
「ふむ、その様子だと自覚はなさそうだからはっきりと言おう……お前は勇者としては力不足だ!」
「いきなりどうしたんだよ、正人!」
俺は思わず声を荒らげる、自慢ではないが今まで失敗という失敗はしてきたことはないし、誰かに迷惑をかえけるような行いもしてこなかったと思っているのだが……正人の様子だと、俺が何かをしてしまったのかもしれない。
「どうしただと? はぁ。そこまで無自覚だったとは……やはり早めに話をしてよかった。はっきりと言う、お前はこの先、勇者としての戦いにはついてこれない。それどころか、俺たちの足を引っ張るだろう! だからこそ今お前をパーティから追放する!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は一度も迷惑をかけたことはないし、きっちりと戦闘もこなしていると思うぞ。そこまで言うんなら、きちんと理由を説明してくれ!」
「いいだろう、いかにお前が自己中心的で役立たずかを順番に説明してやろう!」
正人がそう言うと、まずは石井が口を開いた。
「碇はさ、あたしたちを援護してるつもりなんだろうけどさ、目の前をチョロチョロと虫みたいに動き回ってうざいし、そのせいで魔法は全然撃てないし、正人からタゲ奪うし、まじ存在がいらないわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。範囲じゃなくて単体魔法のほうが効率がいいからって話、前もしたよな。今後は連続戦闘も増えてくるだろうし、少しでも魔力は温存しようって。それにタゲを奪ったんじゃなくてタゲが外れたやつを確認して俺は攻撃を――」
正人はバンっと机を強く叩き、俺の言葉を遮る。
「男なら言い訳するな。お前がタゲを奪い、攻撃の邪魔をしているそれが事実だ! 次は伊織さん頼む」
「はい、正人さん。私から見た碇くんのダメなところは、とにかく被弾が多いのにダメージを受けないようにするわけでもなく、私の回復を頼りにしてるところがキモいです。あと、戦闘では全く役に立たないのにバフをくれって言うところとか……自己中心的で生理的に受け付けられません。それと指示厨なところも本当に無理です……だから早く私たちの前からいなくなってほしいです」
まさか、荒川さんがそんなことを思っていたなんて……
確かに、みんなが作戦を無視するから口調が強くなる時もあったけど、それって俺だけが悪いのか? みんなで立てた作戦だろ。それに俺だけいつもバフがないからかけてってお願いしただけなのに、その言い方は流石に酷いんじゃないかと思うけど……言えないな。
「黙ってるってことは、認めるんだな」
「え、いや待ってくれ。俺は別に黙ってる訳じゃ――」
また、正人は机を強く叩き、俺の言葉を遮る。
「本当に、お前には失望したよ才蔵。今まではこの世界の事情や、戦い方、能力の使い方に不慣れな俺たちをサポートしてくれていたお前に、俺は心の底から感謝していた。しかし、最近のお前は人間としても友人としても見過ごせない粗が多すぎる」
そう言うと、正人は机の上に1枚の紙を置いた。
「それを見てみろ」
俺はそれを手に取り内容を確認する。そこには、俺に対する街中からのクレームが書かれていた。しかし、どれも見に覚えがなく、確信はないが明らかに捏造されたものだと分かる内容だった。
「ま、待ってくれ正人。全部見に覚えのないことだらけで……」
「お前は! そうやってまた嘘をつくんだな!」
正人の迫力に思わず腰が引けてしまうが、俺はなんとか無実だということを伝えたく言葉を続ける。
「そもそも、俺は正人たちに嘘なんてついたことはないぞ。嘘を付くメリットなんてなにもないしな」
しかし、俺の言葉を聞いた正人は、大きくため息をつき、肩を落とす。
「……もういい、ここまで腹を割って話しても嘘を付くような奴だとは思ってなかったよ」
「ちょっと、待っ――」
「黙れ! お前が、王と密会して俺たちのことを散々悪く言っていたのを優里が聞いてたんだよ!」
「はぁ?」
俺は、石井の顔を見ると笑っていた。
もしかして、こいつが全部仕組んだのか?
「……才蔵、二度と俺たちの前に現れるな。お前はもう友達でも何でもない……俺たちの敵だ」
「ま、正人。一度俺と2人で話さないか? そうすれば公平に話が出来ると思――」
「公平? まさかお前、優里を疑っているのか!? 自分の嘘を棚に上げて、仲間を疑っているのか!?」
正人は逆上し、腰に携えた剣を抜いた。
「今すぐ消えるか、ここで死ぬか選べ」
「……消えるよ」
正人の本気の殺気に、それ以上何も言う気にはなれず、俺は黙って宿を出た。
怒りや悲しみが沢山溢れ出し、それをどこかで発散したいという気持ちもあったが、脱力感がそれらを上回り一層のこと自殺を考えた。この世界で俺の生きる意味はないとそう思ったからだ。けれど、いつもと違う俺の姿に街行く人たちは何かしらの声をかけてくれた。いつも挨拶する商店のおっちゃんや、迷子を案内した親子、よく買い物を手伝うおばあちゃんや孤児院の子たち……それだけでも俺の2年は無駄じゃなかったと思えたのだが、どうしても割り切れず誰もいない街の外まで歩みを進めた。
「すぅ……はぁ……」
近くの林で、何度か深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着けると、とりあえず今後のことを考えるために宿の自分の部屋に向かおうと街へと戻る。しかし、俺は入り口の衛兵に呼び止められ、街に戻ることができなくなっていた。
「どういうことだ?」
衛兵に事情を聞くと、王から俺は追放処分となったので街に入れないようにとのお触れが出ていると言われた。
折角、落ち着いたはずの怒りの感情が湧き出し、危うく衛兵に食って掛かろうとしたが、彼らは所詮命令に従っているだけで罪はないと自分に言い聞かせ、次に自分が何をすべきかを考え始めた。
目の前で唸り始めた俺を見て不憫に思ったのか、衛兵が声をかけてくる。
「サイゾウさん、ここはお通しできませんが、もし生活費のことを考えでしたら、この国を出て北に進み、森を越え、砂漠を越えるとその先に『レイザード帝国』っていう国があります。そこでなら冒険者登録をしてお金を稼げますので今後の生活の見通しが立つと思われますが……」
衛兵はあくまで申し訳なさそうに俺に話をしてくれた。なるほど、冒険者か……他に方法も思いつかないし、とりあえず向ってみるか、と俺は衛兵に、礼を言うと北に向けて歩き出す。いつまでも悩まないのが俺の性分だと強がりながら、今後の明るい冒険者生活に夢を馳せていた。
元だからといって決して中退したわけではなく、これには深い事情がある。それは、普通の高校生だった俺と親友と女友達2人とで仲良く夏祭りに向かう途中に起こった摩訶不思議な現象のせいであり、突然まばゆい光に包み込まれ異世界に転移していたことが原因だ。
俺たちが飛ばされたのは、『ミロリセントワーズ大陸』と呼ばれる、よくファンタジー主題のゲームにあるような中世ヨーロッパ風の世界で、そこの4つある国の1つ『シルヴェスト王国』にある、王の城の地下の魔法陣が描かれた怪しい地下室だった。そこで、俺たちはシルヴェスト王国の王である『ランド・シルヴェスト』と慈しみの女神『ネレス』にこの世界に召喚された理由を聞かされる。
「よくぞ参られた異世界の戦士たちよ。そなたたちにはこの国の勇者として魔族と戦い魔王を滅ぼし、世界を救ってほしいのだ。突然のことで混乱していると思うが運命として受け入れてくれ」
開口一番の王様からのありがたい言葉に俺たちはひどく混乱し取り乱した。それもそうだろう、平和な日本においては他人と切磋琢磨する闘いならいざ知らず、肉体的に戦うなんて言う考え自体がナンセンス。さらに、言えば俺たちのような高校生よりも、大人の方が知識も体力も経験も勝っているのは明白でベストな人選だとは思えなかったからである。
当然、俺たちはもっと年齢が高く戦いの分野に秀でた人間に変えたほうがいいと提案したのだが、取り付く島もなく却下されてしまう。しかし、それには理由があるそうで、
「実は勇者になるためには、豊かな想像力を持ち合わせている必要があり、私の判断で年齢を15歳から18歳程度の男女に絞らせていただきました。そして、多くの人間の中から選ばれたのがあなたたちだったのです」
と女神ネレスは笑顔で俺たちに告げ、続けるように勇者に選ばれたことがどれだけ素晴らしいかを力説していたが、他3人にはそれ以上女神の言葉は届かず、逃げられないんだなと言う事実だけが突きつけられたような顔をしていたのだが……俺だけは違っていた。そう、何を隠そう俺は日常に潜む影の刺客と日夜戦い続ける光の戦士……と言う訳でもなく。ただのゲームとアニメが好きな中二病だからであり、むしろこの状況を楽しんでやろうと思っていたからである。そこで、俺は3人をどうにかこうにか説得し、王と女神に勇者を引き受けることを伝えた。
「ありがとうございます。異世界の戦士たち……改めこの世界を救う勇者たちよ」
女神ネレスは深々と頭を下げ、さらに言葉を続ける。
「私からの感謝として、勇者としての強力な能力をお渡しします」
そう言って女神ネレスは俺たちに向けて手をかざす。すると、急に心臓の鼓動が早くなり全身に心地の良い熱が巡るのを感じた。
「これで勇者としての能力に目覚め、魔力を感じて扱うことが出来るようになりました」
さらに女神ネレスは、各々の能力と魔力の扱い方の説明する。
与えられた能力は、本人の性格により傾向が分かれるらしく各々が受け取ったスキルはこんな感じだった。
正義感が強く文武両道の俺の親友、大崎正人が受け取った能力は騎士。他人を守り、敵を排除する攻守ともに優れた勇者としては最強の能力。
ちょっと感情的になりやすいが基本冷静で知力の高い正人の彼女、石井優里が受け取った能力は魔法。高い攻撃力と殲滅力に優れ、極めれば一撃で戦況を変えてしまえるほどの力を発揮する能力。
高い包容力と誰に対しても優しい石井の親友、荒川伊織が受け取った能力は回復。他者を癒やし、身体能力を強化する魔法を扱え。さらに、神への信仰が深ければ死者をも蘇らすこともできる能力。
そして、この世界に最も適性を示し、正義感も強く知的で包容力もある俺がもらった能力は小手先。
「小手先?」
思わず女神に聞き返す。しかし、女神も俺の能力に困惑の色を示し詳しい説明を省こうとしていたので、俺は思わず異議を申し立て、詳しい説明を求めた。すると、嫌そうな顔をしながら渋々説明を始めた。
「小手先の能力は、使用者の器用さが最大まで強化される能力です」
「終わり?」
「…………はい」
「嘘だろ?」
「事実です」
現実を受け止めきれない俺は、何度も女神に能力を変えてくれとお願いしたのだが全て却下さてしまい、絶望のあまり勇者を辞めようかと思ったのだが、正人たちに説得されてこの能力で頑張ることに決めた。
「最後になりますが、この世界であなたたちは特別な存在となりますが、常にこの世界のことを想い、守り、救うことが勇者の定めですのでそれを忘れず一刻も速い魔王の討伐をお願いします。ちなみに魔王討伐し、世界を救ったあかつきには、元の世界に帰れますので頑張って下さい」
そう言って女神ネレスは、俺たちの目の前で透明になって消えてしまった、と思ったのだが再度姿を表し、
「いい忘れてました。この世界の言語設定なのですが話すのも聞くのも自動で日本語に変換されるようになっているのですが、私がこの世界の言葉を日本語に置き換えてますので、たまに伝わらないこともあるかもしれません、その時はいい直してあげて下さい。逆に聞き取れないこともあると思いますので、その時は聞き返してあげて下さい……至らぬ仕事で申し訳ありませんがよろしくお願いします」
と言い残して透明になって消えた。
「なんか、女神も大変そうだな……」
ちょっと女神の大変さに同情しつつも、これから始まる第2の人生に胸を踊らせていた。
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俺たちは、襲い来る魔族を次々と撃退したり、頼まれる街の依頼を解決したりと忙しい日々を毎日送っていた。
衣食住に困ることは全く無く、度重なる戦闘で能力も徐々に強くなってきた頃……
日課である、街の下水場の掃除と花壇の手入れと、迷子の案内とお年寄りの買い物と孤児院の手伝いを終えた俺は正人に呼出され、街の中央広場に位置する勇者の宿屋へと足を運んだ。
正人が待つ部屋に入ると、そこにはすっかりと見慣れた俺以外の勇者3人が俺を待ち構える形で待っていた。
「本日も雑務、ご苦労だったな才蔵」
いつもなら俺に労いの言葉などかけない正人らしからぬ言葉に違和感を感じたが、黙って言葉を聞くことにした。
「実は、前々から3人で相談していたことがあってな、そのことの結論が出たからお前にも伝えようと思って、わざわざ呼び出したんだ」
一体なんの話だ……まったく想像もつかない。
「ふむ、その様子だと自覚はなさそうだからはっきりと言おう……お前は勇者としては力不足だ!」
「いきなりどうしたんだよ、正人!」
俺は思わず声を荒らげる、自慢ではないが今まで失敗という失敗はしてきたことはないし、誰かに迷惑をかえけるような行いもしてこなかったと思っているのだが……正人の様子だと、俺が何かをしてしまったのかもしれない。
「どうしただと? はぁ。そこまで無自覚だったとは……やはり早めに話をしてよかった。はっきりと言う、お前はこの先、勇者としての戦いにはついてこれない。それどころか、俺たちの足を引っ張るだろう! だからこそ今お前をパーティから追放する!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は一度も迷惑をかけたことはないし、きっちりと戦闘もこなしていると思うぞ。そこまで言うんなら、きちんと理由を説明してくれ!」
「いいだろう、いかにお前が自己中心的で役立たずかを順番に説明してやろう!」
正人がそう言うと、まずは石井が口を開いた。
「碇はさ、あたしたちを援護してるつもりなんだろうけどさ、目の前をチョロチョロと虫みたいに動き回ってうざいし、そのせいで魔法は全然撃てないし、正人からタゲ奪うし、まじ存在がいらないわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。範囲じゃなくて単体魔法のほうが効率がいいからって話、前もしたよな。今後は連続戦闘も増えてくるだろうし、少しでも魔力は温存しようって。それにタゲを奪ったんじゃなくてタゲが外れたやつを確認して俺は攻撃を――」
正人はバンっと机を強く叩き、俺の言葉を遮る。
「男なら言い訳するな。お前がタゲを奪い、攻撃の邪魔をしているそれが事実だ! 次は伊織さん頼む」
「はい、正人さん。私から見た碇くんのダメなところは、とにかく被弾が多いのにダメージを受けないようにするわけでもなく、私の回復を頼りにしてるところがキモいです。あと、戦闘では全く役に立たないのにバフをくれって言うところとか……自己中心的で生理的に受け付けられません。それと指示厨なところも本当に無理です……だから早く私たちの前からいなくなってほしいです」
まさか、荒川さんがそんなことを思っていたなんて……
確かに、みんなが作戦を無視するから口調が強くなる時もあったけど、それって俺だけが悪いのか? みんなで立てた作戦だろ。それに俺だけいつもバフがないからかけてってお願いしただけなのに、その言い方は流石に酷いんじゃないかと思うけど……言えないな。
「黙ってるってことは、認めるんだな」
「え、いや待ってくれ。俺は別に黙ってる訳じゃ――」
また、正人は机を強く叩き、俺の言葉を遮る。
「本当に、お前には失望したよ才蔵。今まではこの世界の事情や、戦い方、能力の使い方に不慣れな俺たちをサポートしてくれていたお前に、俺は心の底から感謝していた。しかし、最近のお前は人間としても友人としても見過ごせない粗が多すぎる」
そう言うと、正人は机の上に1枚の紙を置いた。
「それを見てみろ」
俺はそれを手に取り内容を確認する。そこには、俺に対する街中からのクレームが書かれていた。しかし、どれも見に覚えがなく、確信はないが明らかに捏造されたものだと分かる内容だった。
「ま、待ってくれ正人。全部見に覚えのないことだらけで……」
「お前は! そうやってまた嘘をつくんだな!」
正人の迫力に思わず腰が引けてしまうが、俺はなんとか無実だということを伝えたく言葉を続ける。
「そもそも、俺は正人たちに嘘なんてついたことはないぞ。嘘を付くメリットなんてなにもないしな」
しかし、俺の言葉を聞いた正人は、大きくため息をつき、肩を落とす。
「……もういい、ここまで腹を割って話しても嘘を付くような奴だとは思ってなかったよ」
「ちょっと、待っ――」
「黙れ! お前が、王と密会して俺たちのことを散々悪く言っていたのを優里が聞いてたんだよ!」
「はぁ?」
俺は、石井の顔を見ると笑っていた。
もしかして、こいつが全部仕組んだのか?
「……才蔵、二度と俺たちの前に現れるな。お前はもう友達でも何でもない……俺たちの敵だ」
「ま、正人。一度俺と2人で話さないか? そうすれば公平に話が出来ると思――」
「公平? まさかお前、優里を疑っているのか!? 自分の嘘を棚に上げて、仲間を疑っているのか!?」
正人は逆上し、腰に携えた剣を抜いた。
「今すぐ消えるか、ここで死ぬか選べ」
「……消えるよ」
正人の本気の殺気に、それ以上何も言う気にはなれず、俺は黙って宿を出た。
怒りや悲しみが沢山溢れ出し、それをどこかで発散したいという気持ちもあったが、脱力感がそれらを上回り一層のこと自殺を考えた。この世界で俺の生きる意味はないとそう思ったからだ。けれど、いつもと違う俺の姿に街行く人たちは何かしらの声をかけてくれた。いつも挨拶する商店のおっちゃんや、迷子を案内した親子、よく買い物を手伝うおばあちゃんや孤児院の子たち……それだけでも俺の2年は無駄じゃなかったと思えたのだが、どうしても割り切れず誰もいない街の外まで歩みを進めた。
「すぅ……はぁ……」
近くの林で、何度か深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着けると、とりあえず今後のことを考えるために宿の自分の部屋に向かおうと街へと戻る。しかし、俺は入り口の衛兵に呼び止められ、街に戻ることができなくなっていた。
「どういうことだ?」
衛兵に事情を聞くと、王から俺は追放処分となったので街に入れないようにとのお触れが出ていると言われた。
折角、落ち着いたはずの怒りの感情が湧き出し、危うく衛兵に食って掛かろうとしたが、彼らは所詮命令に従っているだけで罪はないと自分に言い聞かせ、次に自分が何をすべきかを考え始めた。
目の前で唸り始めた俺を見て不憫に思ったのか、衛兵が声をかけてくる。
「サイゾウさん、ここはお通しできませんが、もし生活費のことを考えでしたら、この国を出て北に進み、森を越え、砂漠を越えるとその先に『レイザード帝国』っていう国があります。そこでなら冒険者登録をしてお金を稼げますので今後の生活の見通しが立つと思われますが……」
衛兵はあくまで申し訳なさそうに俺に話をしてくれた。なるほど、冒険者か……他に方法も思いつかないし、とりあえず向ってみるか、と俺は衛兵に、礼を言うと北に向けて歩き出す。いつまでも悩まないのが俺の性分だと強がりながら、今後の明るい冒険者生活に夢を馳せていた。
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