モブの筈がモブじゃない〜乙女ゲームの世界ではモブだったはずなのに全然モブじゃありません〜

あかとんぼ

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第四章

動き出したシナリオ

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隣国セクタールより学園へと戻りあれから数ヶ月がたっていた。
アルベルトの私兵が陰ながらアリアローズを見守っているお陰で普段と変わらずの日常を今日まで過ごしている。

変わった事と言えば勿論高等部へ進学した事だが、持ち上がりの様なものなので顔ぶれば変わらない。
学園を卒業した兄のレイモンドは王宮の文官にと推薦も来ていたそうだが、本格的に父の仕事を引き継ぐ為にレネティシス領へと戻り領地経営をする事に決めたそうだ。
別れ際アリアローズを心配しすぎて逆に周りに引かれていたが兄からしたらアリアローズを1人にする事は色んな意味で心配でしかなかった様だ。
そんなに心配しなくても大丈夫なのにと回想を終え思いを巡らせていると、ここが教室である事を思い出す。
何だろう?クラスが騒ついている気がする。
顔を上げると目の前にいるセリーヌが深刻そうな顔をしてクラスを見回していた。

「えーと、皆さんどうしたの?」

「うーん、どうやら…リザベラ様が謹慎処分を受けた様ですわ、ね」

謹慎処分かぁ、、

「えっ、謹慎処分?!リザベラ様が?」

あっ!リザベラの謹慎処分と言うと…

そうだ、パンドラ乙女の最終章でそんな話があった。それにこれは物語の最後に続く為の大切な分岐な筈。
確か…リリアンヌとニースベルの親密さに業を煮やしたリザベラがリリアンヌにワザと打つかり階段から突き落としてしまう。その時親密さによって分岐が発生しニースベルが助けに来てくれるとハッピーエンド分岐へ、助けに来なくリリアンヌが階段から落ちると怪我で療養の為学園を休む事になり、断罪イベントが出来なくなってしまう。その結果ニースベルとリザベラが政略結婚をして正妃にリザベラ、妾妃にリリアンヌがなりノーマルエンドで終了する流れになる。
因みに、バッドエンドはこの分岐前にリリアンヌはニースベルに見限られてしまうのでここでは関係なさそうだ。
それにしても、ノーマルエンドとは言うものの終了後の話はゲームでは書いてないがどう考えてもノーマルで終わりそうな関係では無いのだけど…


「アリア、もしなら少しリリアンヌ様に会いに行きませんか?どう言うことなのかお伺いしたいですわ」

どうやらセリーヌも知らない情報だったらしい。周りの話を耳にしてからはいつもと違いソワソワして早く当事者に会いたそうな素振りを見せている。

「そうだね、行こうリリー様の所に」

コンコン、と救護室の扉を叩くとどうぞ。と声が聞こえ中からランティスが扉を開けてくれた。
リリアンヌに会いに教室へ向かうとここにいると言われて来たのだがまさかランティス様がいるとは、なら必然と…
ランティスの後ろを覗き見る様にするとベットに付き添っているリリアンヌとベッドの上に横になっているニースベル殿下が見えた。
リリアンヌは扉の開く音に振り返るとアリアローズの姿を見るや否や泣きながら駆け寄っり思いっきり抱きついてきた。

「リリー様?い、一体どうしたんですか?」

「アリア様、どうか助けてください!!シナリオでは殿下がこんな、こんな目を覚さないなんてなかったんです!なのにどうしよう…殿下が目を覚さないなんて、こんなの一体どうしたら…」

ニースベルが目を覚さない?
ゲームでは階段から落ちたリリアンヌを受け止めて足を怪我してその責任を取ってリザベラが謹慎になったのだが、目を覚さないとは一体…

「その事で、王宮に場所を移そうかと思いましたが一度レネティシス嬢に診てもらえないかと思いこれから呼びに行くところでした」

ランティスもふぅ、と一息ついてはいるがかなり焦っているのが手に取るように分かる。

「ニースベル殿下は医師にはお診せしましたか?」

「はい。階段から落ちて頭を打った衝撃で目を覚さないのではないかと。体に異常は無いから暫くすれば目を覚ますかもしれないし…」

階段から落ちた?リリアンヌの代わりにって事?シナリオとは違うがこのままではニースベルは目を覚さないかもしれないって事だ。


「分かりました。治癒魔法では病気や昏睡は治せないのでお力に慣れるか分からないのですがやってみます」

とは言えどうすればいいか、アリアローズは医者ではないので病気を診る事は出来ない、出来るとすれば…
アリアローズは失礼しますとニースベル殿下の手を握り集中し治癒魔法を掛けてみる。
特に治す場所がなければ何も起きる事はないのだが今はこれ以外に方法はない。

アリアローズが魔法を使うとニースベルの体を淡い緑色の光が包み込みパンっと弾けた。

あれ?これって…

「アリア様!!ニース様は?ニース様は大丈夫なんですか!?」

「レネティシス嬢?」

リリアンヌとランティスが不安そうにアリアローズの顔を覗き込む。

「えーと、、これ殿下、寝てますよね?」

「「はい??」」

周りの目が点になったのが見て分かる。

「多分、多分ですよ!殿下ここ最近寝てなかったのでは?」

「はい、確かに殿下はここ最近何か調べ物を遅くまでしていたのでもしかしたら寝てなかったのかも知れないですね。でも、それなら医師の判断は誤診だってことですか?」

いや、多分医師の判断も正しかったのだろう。階段から落ち頭を打ったのであれば意識が混濁して起きない可能性もある。だが、頭を打ち気を失った状態から殿下はそのまま睡眠に移ったのだろう。

「アリア様、あの何故寝ているだけと分かるのですか?」

うんうん、と周りも一様に頷く。

「さっき回復魔法を使ってみたのですがニースベル殿下から弾かれました。昔寝不足で疲れて寝ている兄に少しでも元気になって欲しくて使った事があるのですが、睡眠と言う自己防衛を取っている時はどうやら私の回復魔法は自然と弾かれてしまう様なんです。先程殿下にかけた魔法の感じがその時の反応と全く同じだったんです」

多分明日にはスッキリした顔で目覚めてくるだろう。

「ほ、本当ですか。それなら良かった、本当に良かったですー」

涙をポロポロ流しながらリリアンヌはニースベルの手を握りしめ何度も感謝の言葉を呟いた。


殿下を囲み安堵している3人を見つめながらアリアローズも一安心と息をつき、ゲームのシナリオ通りではないが殿下が助けてくれた事から無事ハッピーエンドへと向かっているのだろう。ともう一つの懸念にも一安心し胸を撫で下ろした。
ここまで来てノーマルではなさそうなノーマルエンドに進み国の行く末が怪しくなるのを見ているだけなのは辛いもんね。


「なんだ、やっぱり大したことないと思ったよ」

急いで駆けつけたのか少し髪が乱れているが息を整えるとズカズカとニースベルの元へと行き顔を覗き込む。
そして次の瞬間…

バシっ

「えぇ!!カインザーク殿下まさかのデコピンっ!!」

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