上 下
70 / 83
第三章

約束の高原2

しおりを挟む
二本の木に結んだブランコはその男の子との思い出の場所だった。
王家の所有地にいるのだから王族関係者なのだろうがそれがカインザーク殿下だったのだろうか。
でも、、夢に出てきたあの男の子はカインザークの容姿とは似ても似つかない髪と瞳の色をしていた。その色は一般的なラクトリア国民の特徴色だった筈だ。
なら私と同じでこの場所に忍び込んだ人だったのだろうか。

「あの、殿下?」

中々返答が返って来ないので答えが気になってしまう。

「ふっ、あーあ、カインと呼んでくれたのは一回だけだったか、残念」

「あれ今そんな話でしたっけ?!」

カインザークは笑いながら二本の木に結んであるブランコに触れると懐かしそうにゆっくりと揺らしてみた。

「本当は教えてあげても良いんだけど…」

「え、今何か言いました?」

余りに小さく呟くのでアリアローズには聞き取れなかった。

「はは、今はまだ秘密だ。さて、そろそろお腹空かないか?軽食だが持ってきたから食べようか」

上手く話題を逸らされてしまったが、確かにお腹も空いていたしこれ以上カインザークは何も教えてくれなそうだった。
思い出させようとしたのに教えてくれないなんて意地悪だ。

用意された軽食を食べ終わると侍女がお茶を入れてくれた。食べ終えた物はすっかり片付けがされ広々したシートに座り込むだけの優雅なピクニック。
勿論アリアローズもピクニックはするがレネティシス家は最低限の使用人なのでやれる事は自分ですると言う家訓がある様な無い様ななので片付けも自らしていた。
そう言えば、セリーヌ達と行ったピクニックも片付けて無い気がするがあの時は森に入ってる間に無くなっていたのでそこまで気にならなかった。

お茶を口に含みのどかな雰囲気にホッとするとカインザークに伝えないといけない事があるのを思い出した。

「あっ、殿下そう言えばなんですが…」

「うん?」

どう話そうか、あれこれ悩んでも纏まらないしここは直球でいいか。

「アルベルト殿下に治癒魔法のことバレてしまいました!」

「はぁぁ?!」

余りに突拍子もない事を聞いたものだから思わず持っていたお茶をこぼして熱がっている。
まぁ、そう言う反応になりますよね…

「アリアあれだけ気をつけてって言った気がするんだが。しかも、よりによってセクタールの王太子にか…」

「あはは、、すみません」

謝るしかないけどもう済んでしまった事はどうすることも出来ないし要件はまだあるのだ。

「で、ですね。内緒にしてもらう変わりにレネティシス領の栄養剤を数本欲しいそうなんですが」

「待て。何故アルベルト殿が栄養剤の事を知ってるんだ」

「あー、そのー、なんと言うか、、すみません。ちょっと前に自国の回復薬と間違って栄養剤を渡してしまったんです。そこから調べたらしくて…治癒魔法の事がバレてしまったのでその事と含めて内緒にするから自分用に数本分けて欲しいと。流石に私だけでは渡していいのか判断が出来なかったので殿下の許可を貰わないとと思いまして…」

恐る恐る横を見ると明らかに不機嫌かつ怒っているオーラが受け取れる。
そりゃ怒っても当然の内容だ。気をつけろと言われていたのにあっさり他人に知られてしまうし、栄養剤までバラしてしまう自体。これはもう処罰の対象だと思う。

「それ知られたのはこの前のデートの時?」

デート!?

「いや、視察です!!でも、その、はい。その時に転んで血が出てた女の子に使った所を見られてしまって…」

うーん、とカインザークは頭を抱えながらどうするか考えている様だ。

「そうか、分かった。アリア次は無いよ?」

「はい!!」

ピンと背筋を正して返事をする。
もう本当に次は無いだろう、絶対守りますから!!
許して貰えたと胸を撫で下ろすとゴロンと膝に何かが乗る感覚がする。

「へっ?!殿下ちょ、何してるんですかー!!」

膝に乗ってるのは間違いなくカインザークの頭でこの状態は誰が見ても膝枕だ。
恋人でもないのに膝枕とか大丈夫なのだろうか、いや。それ以前に膝枕なんて恥ずかしすぎる!!

「何だ?いいだろうアルベルト殿の件を許してやるんだからこれくらいして貰わないと割に合わないからな」

膝枕が国家レベルの約束事の代わりになるのか分からないがそれで代わりになるのなら何も言えない。
ドキドキしているのがバレない様に必死に冷静を保つ事に集中した。

「そうだった、私もアリアに言わないといけない事があるんだ」

クルッと膝の上で寝返りを打ちアリアと顔を合わせ優しく微笑んだかと思うとカインザークは手を伸ばしアリアの頬を軽く撫でる。

「この後暫く国を離れる事になった。まぁ、ただの交換留学なんだが今この国にはアルベルト殿がいるだろう。王族が留学にきているのにこちらは行かないと言うのは体が悪いのでな、ほんの少しだ。3学年には戻るが今年のアリアの卒業パーティーは見れそうに無いんだ」

「そ、そうなんですか…それはまた長くお会い出来ないんですね」

あれ…
こんな返しをする筈ではなかったのに思わず口をついて出てしまった。
学園や校舎は違ってもこうして会うことが出来ていたが留学となると全く会うことは無いだろう。そう思うとやっぱり寂しいと感じてしまう。

「ふっ、そうかそう思ってくれる様にはなったんだな。それだけで成果があったのかな」

優しい微笑みを崩さないがどこか満足そうなカインザークはヨッと膝から起き上がりアリアローズと向かい合うと先程はとは変わって真剣な表情で見つめてきた。

「アリア、浮気するなよ」

はい?…この流れでそれですか?!
他に言うことはないんでしょうかね。

「もぉ、浮気とか誰とするんですか!と言うよりまず私は誰とも付き合ってもませんよー!!」


まだ、、
と小さく付け加えておいた。
その相手が目の前の人であれば良いのにと思うが一男爵令嬢には叶わない願いである。
ならこの気持ちは思わなかった事にしないと…と。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

白崎りか
恋愛
色なしのアリアには、従兄のギルベルトが全てだった。 「ギルベルト様は私の婚約者よ! 近づかないで。色なしのくせに!」 (お兄様の婚約者に嫌われてしまった。もう、お兄様には会えないの? 私はかわいそうな「妹」でしかないから) ギルベルトと距離を置こうとすると、彼は「一緒に暮らそう」と言いだした。 「婚約者に愛情などない。大切なのは、アリアだけだ」  色なしは魔力がないはずなのに、アリアは魔法が使えることが分かった。 糸を染める魔法だ。染めた糸で刺繍したハンカチは、不思議な力を持っていた。 「こんな魔法は初めてだ」 薔薇の迷路で出会った王子は、アリアに手を差し伸べる。 「今のままでいいの? これは君にとって良い機会だよ」 アリアは魔法の力で聖女になる。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

処理中です...