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第三章

王都アクアーレン

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初めに連れて来られた所は意外にも洋服店だった。
店内に入るとこれでもないあれでもないとアルベルトが洋服を吟味している。

「よし、これでいいだろう。さぁアリアローズはこれに着替えてきて」

手渡された服は庶民が着るごくごく普通のワンピースだった。一応視察と言うので簡素な服を選んできたつもりだったのだが、もしかしたらこの服がお気に召さなかったのかも知れないし折角選んでくれたので着替える事にした。
フィッティングルームを出ると既にラクトリア王国の服に着替えているアルベルトが立っていた。

「うん、よく似合うよ。ほら一応僕の格好だと直ぐにセクタールの住民だって分かってしまうしね」

「確かにそうですけど、それなら私が着替える必要は無かったかと…」

アリアローズはこの国の住民だし服も大差ないと言うより新品だし最新だからか選らんで貰った服の方が高級そうに見えた。
勿論アリアローズの服も令嬢が着るようにセミオーダーではあるが元よりお金を稼ぐ事が趣味のような性格だ、服にお金をかけるなら他に使いたいと思ってしまう。
本当はもっと質素なワンピースなどもあるが一応セクタールの王太子とのお出かけだしそれなりに見れる格好はして来たつもりだったのだが…

「うん、確かにさっきの服も素敵だけど今日は視察だからね、デザインは大差なくても見る人が見れば生地が明らかに違って見えるんだよ。それに、アクアーレンで服を買ってどう言うのが流行っているのかや着心地を確かめるのも悪くないだろ?」

「はぁ、そう言うものですかね。であれば、どうですアルベルト様着心地はー?一応ラクトリア国民として気になりますねー」

王族に庶民の服の着心地を聞いてもと思い冗談半分に聞いたのだが、至って真面目に生地や製法などの評価を頂けた…
視察はアリアローズがいるとはいえ公務の一貫である、これは揶揄ったらいけない奴だ。

「さぁ、次は何処に行きましょうか。あぁ、そうでしたここではアルベルトではなくアルトと呼んでください。私もアリアと呼んでも良いですよね?」

「あー、もぉ、どうぞ好きにして下さい…」

これを学園の人が聞いたら卒倒しそうだと考えたが一応アクアーレンとはいえアルベルト殿下をそのまま呼んでいては防犯上宜しくはないのは分かるがアリアローズまで変える必要はあるのか…まるで

「クス、何だかデートみたいだね」

「何言うんですかー!!」

同じことを思っていたようだ。勿論アルベルトはクスクス笑っているので揶揄っているのが丸見えだが、アリアローズはデートと言われた事により一層恥ずかしさが込み上げて顔をぷいっと横に逸らした。

「アリアったら真っ赤ー、そんなに僕のこと意識しちゃった?」

追い討ちをかける様に顔を覗き込んでニヤニヤしている。

「ちょっ、もう!!冗談辞めてくださいよねー!顔が赤いのは条件反射です!その無駄にイケメンなお顔近づけないで下さいー!!」

ケラケラ笑っているのに少し悪意を感じてしまうがこの悪戯っ子のような性格がアルベルト本来の性格だとアリアローズは知っているので本気には捉えない。でも知らない人からしたら麗しい顔が迫って来たら勘違いもしたくなるのだろう。
幸いアリアローズはもう2人麗しい顔を近くで知っているので耐性が付いていた様だが。

「残念、アリアが僕の顔好きなのは知ってるから遊べると思ったのになぁ。釘刺されたら遊べないじゃないか」

今みたいに揶揄われると事あるごとにアルベルトの顔は麗しいから近寄らないで、と言っていたのでアリアローズが自分の顔が好きだと思っているのだ。まぁ、間違ってはないが。

「洋服も買ったし、次は…そうだな魔道具屋さんかな。さあ、行くよ」

またもや手を引かれて歩き始めた。

「アルベ、じゃなくてアルト様何故手を繋ぐのです?もう揶揄う必要はないのでは?」

「えっ、だってアリアは迷子になりそうだからね」

冗談ではなく普通に答えられた。

「いやいや、いくら何でも15歳にもなって迷子なんてなりませんよ!もぉ、離して下さいよー」

と言い放った数分後にお約束かの如く迷子になるのだった。


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