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第二章

魔法対抗戦8

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「ミュゼリア様!?」

そこに居たのは間違いなく同じクラスのミュゼリアだった。
未だに肩を震わせながらこちらを見ている、魔物を見たから怖くて震えているのだろうか?アリアローズは茂みに近づき声をかけようとした。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…」

消えそうな声でミュゼリアは謝罪を繰り返しているようだった。

「ミュゼリア様?魔物はもう居ませんよ。どうぞ落ち着いてくださ、、い!?」

「アリアローズ様!」

がばっと興奮したミュゼリアに両肩を掴まれ、その勢いで思わず尻餅をついてしまった。

「アリア嬢!!」

驚いたのかカインザークが駆けつけてくれた。先程魔物と戦った後だしきっと心配してくれたのだろう。
ミュゼリアからアリアローズを引き離すとそのまま何故か彼の腕の中に収まる形になってしまった。

「ちょっ、とカインザーク殿下!何ですかこの状きょ…う。えと、ミュゼリア様?大丈夫ですか?」

アリアローズの状況より酷く青ざめたミュゼリアの方が今は心配だ。
どうやら襲いかかった訳ではなくミュゼリアはとても動揺している様だった。

「君はハウズ伯爵令嬢でしたよね。どうしてここに…」

ニースベルが近づき事情を聞こうとしたが何かに気づいた様でグイッとミュゼリアに顔を近づけた。

「えっー!!ニース様何するんですか!!」

慌てたのはリリアンヌだけだった。

「そう言う事か…ハウズ伯爵令嬢はあの魔物について何か知っているね」

ビクッとミュゼリアの肩が上がった。

アリアローズもミュゼリアがこの場にいた時点で何となく分かってしまった。いや、分かったと言うより謝罪を蹴り返す彼女を前にして違和感が確信に変わったと言う方が正しいのだろう。

「君の腕にこれが付いてたんだけど、この糸さっきの魔物の足や嘴にも付いていたんだ。多分あの魔物を誰かがここに手引きしたって事なんだろうけど、君だよね」

やっぱり、森の中にあった複数の糸の様なもの、その先に居た本物の魔物。そして実技でミュゼリアが見せてくれた最小化した魔力の糸がそれととてもよく類似していたのだ。

ミュゼリアが犯人だなんて思いたくない。
彼女は誰からも好かれる心優しい性格でとてもこんな事をする様な人ではない。でも、疑うなと言う方が無理な状態ではどうにもならない。

「ごめんなさい、いえ、ほ、本当に申し訳ありません!!私の言える範囲でお話し致します…」

震えているが先程よりはしっかりした口調でミュゼリアは私たちに向き合い涙を流しながら話を始めた。

「これが、私がお話し出来る全てです…殿下、アリアローズ様、リリアンヌ様本当に申し訳ありませんでした。私は如何様な処分も謹んでお受け致します」

「ミュゼリア様…」

彼女の話はこうだった。
ハウズ伯爵家は最近拡大させた事業に失敗したらしく巨額な負債を抱え資金援助を必要としていたそうだ。
そこにある家が名乗りを上げてくれたのだがその対価として今回の魔物騒動を引き起こすと言う事だったらしい。
ミュゼリアは当然魔物の手引きなど犯罪だと反対したが、ハウズ伯爵は家の存続を優先したそうだ。その結果伯爵の命には逆らえずミュゼリアは犯罪に加担したと言う。

「そう、手引きする様言った家は分かる?」

「いえ、私は魔物をリリアンヌ様の所へ誘導する様にと…」

「リリアを狙ったのか」

ミュゼリアはコクンと頷く。
シーンとする中に彼女の啜り泣く声と小さく謝罪している声だけが聞こえていた。
本当に反省しているのだろう、、、

「あっそう言えばミュゼリア様、もしかして何ですが私たちが魔物に遭遇した時一瞬だけ隙を作って助けてくれましたよね?」

多分あの時リリアンヌを助けられたのは一瞬魔物が空中で止まったからだ。
もしそれがなければ間違いなくリリアンヌは下敷きになっていた。

「そ、それは…本当にごめんなさい。言い訳にしかならないだろうけれど、私は貴女達を傷つけたくはなかったの…だからアレくらいしか出来なかったけど…」

ピーーー

森全体に終了を告げる合図が響き渡った。
気がつくとさっきまでなかった魔法水晶がありそこから音が聞こえているようだった。

「出場者の皆様お疲れ様でした。これより審査の為皆様を一旦こちらに転移させて頂きます」

案内が流れたかと思うとパッと風景が変わった。
5人が戻されたのは初めのステージかと思ったがそこは控え室の様な部屋でその中には教師達に加えて出場者であった筈のランティスが待ち構えていた。

「殿下、ご無事で何よりです。それで、一体何があったんでしょうか」


どうやら4人が戦っている間魔法水晶には魔物など映ってはおらず擬似魔物と戦っている4人の姿が個々に映っていたそうだ。
だが、何か違和感を感じた教師達はその後のランティスとパートナーの報告により不穏なことが起こっていると推測しこの場を儲けたらしい。

その後両殿下により事の次第が報告され、ミュゼリアはニースベルの計らいにより退学にはなるが当面の自宅謹慎処分となった。
ランティスは魔物の手引きに加え、王族を害した罪に問われるのに処分が甘いと助言したが、リリアンヌが助かったのは彼女のお陰でもあった為ニースベルは妥当な処分としたようだ。
まぁ、ランティスが憤るのも無理はない。
本来なら重刑に値する罪の筈だ。それをリリアンヌを助けたからと軽減するのはどうかと思うが、ミュゼリアが自身の判断で魔物を手引きした訳ではないし逆らえなかった事を踏まえると処分を軽減しても良いとの判断だそうだ。そう、加担したミュゼリアも勿論悪いが本当に罪に問われなければいけないのはこの話を持ちかけたどこかの家とそれを指示した伯爵である。

「聖女候補のリリアを狙うなんて、やっぱり相手は聖女に意を唱える反組織なのかもしれない、リリアにこれからは護衛を付けようか…」

ニースベルが本気で悩んでいるがそれを尻目にリリアンヌとアリアローズはお互いをみると確信する。

そう、これは間違いなくリザベラ公爵令嬢の仕業であると。



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