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第1章

ゲーム開始

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うん、そうは意気込んで見たものの…
何これ、どうしてこうなったのだろう。

「おっ、このお茶美味いな。今日のは何処の物だったかな」

「殿下、本日の茶葉はチャリス地方のと伺いましたわ」

「ほう、チャリスのお茶か。アリアローズ嬢も飲んでみるといい。美味しいぞ」

ふぅ、と分からない程度にため息をつきティーカップに口をつける。
あぁ、本来ならセリーヌと2人で楽しくティータイムをしている筈なのに、どうしてこのお方はここにいるんだろう。

今は1日の終わりにあるティータイムの時間だ。
中庭で学園専用の給仕がお茶やお菓子を用意してくれ、アリアローズも唯一できた友達であるセリーヌと席を共にし、お茶を楽しんでいる筈だった。

「ここ空いてるか?良ければ御一緒しても?」

声を聞いた瞬間明らかに周りがざわつき始めた。
アリアローズも一瞬ポカンとしてしまった。

それもそうだろう。周りからしたら婚約者や有名貴族でもないような御令嬢の元にわざわざカインザーク殿下が自ら足を運び声をかけているのだから。
針の筵とはまさにこの事か…視線が突き刺さる。居た堪れないしヒソヒソ何か言ってる声も聞こえる。

「ええ、こちらで宜しければどうぞお座りくださいませ殿下」

答えてくれたのはセリーヌだった。

失礼する。
と椅子を引き給仕にお茶とスイーツを人数分お願いする。
直ぐに給仕がアリアローズ達の元に運んでくるがまだ他のテーブルには運ばれてきていない。流石殿下だけあって最優先なのだろう。
運ばれてきたスイーツも私たちが食べるものより高級っぽい。

「悪いな、2人の話の邪魔をしてしまって。確か貴方はカブレラ侯爵家のご令嬢であってるかな?」

「はい、覚えて頂けて光栄でございます。セリーヌ・カブレラと申します」

「セリーヌ嬢は何度か夜会でお見受けしてるな。…で、アリアローズ嬢は何故下を向いてるんだ?」

そりゃ貴方がここにいるからですよ!!
とは言えない。

「いえ、カインザーク殿下を前にして恐れ多くて顔をあげれないのでございます…」

「何を言ってるんだ、2回もぶつかっておいて恐れ多いも何もないだろ?」

?!

ええ、それ言っちゃうんですか‼︎

周りがさっきより一層とザワザワしてる。

(まぁ、信じられない。あの子何様なのかしら)
(カインザーク殿下にぶつかるなんてどうしたら出来るのかしら、わざとなんじゃないかしら?)
(と言うか、あの子誰?)

うんうん、そうなりますよね。
確かに淑女としては些か不注意だったかもしれないけど誰だってぶつかる事はあるでしょ!それが偶々カインザーク殿下だっただけなのよ‼︎
運があるのかないのか…

ガシャーン。

そんな事を考えていると後ろで何やらカップの割れる音と共に女の人の声が聞こえてきた。

「あら、ごめんなさいませ。立ち上がろうとしたら丁度貴方が通りかかってぶつかってしまいましたわ」

「クスクス、イザベラ様ったらそそっかしいのですね」

「ほら、貴方!不注意でイザベラ様にぶつかったのに謝りもしないのですか!」

罵声の先には制服にお茶を盛大に被ったリリアンヌが座り込んでいた。

あー、これね。
なんか見たことがある、確かここでイベントが発生してたのよね。
偶然立ち上がったなんて嘘が丸わかりなくらいリリアンヌに直で足を掛けお茶もぶちまける。そこにニースベル殿下達攻略対象者がやって来てその中で1番親密度が高い攻略者がリリアンヌを助けるって流れだった筈。

と言うかこれ、側からみたらただのイジメよね。でもイザベラは公爵令嬢、この国の王族に次ぐ爵位の持ち主なのだから誰も告げ口や助け舟など出せないのだ。
そう言う私もゴタゴタに巻き込まれたくて傍観を決めてる卑怯者の1人なのだけど、それにしても…

「また、今回は盛大にしてますね」

「本当ですわ、見てて気持ちの良いものではありませんわね」

「ふーん、このような事は良くあるのか」

「いえ、ここまで酷いのは初めてかと思います」

えぇ、これがイベント発生中なので今までのイジメの中では酷い方なのです、とは言えない。

「そうか、相手が相手だから皆声を出せないと…」

カインザークは何やら考えながら席を立とうとした。

「何をしている!!リリアンヌ嬢大丈夫か?


「ニースベル殿下、、平気です。イザベラ様の足に躓いてしまい転んでしまいました」

そう言いながらも目には涙を浮かべている。

「これは酷い制服がびしょ濡れですね。早く着替えた方がいいのでは?ニースベル殿下彼女を更衣室まで連れて行かれては?」

殿下の側近役ランティスがすかさずリリアンヌの擁護をする。

「お待ちくださいニースベル殿下!ぶつかったのは彼女の方です。見てくださいませ!私にもお茶が掛かっておりますわ。着替えに連れて行かれるなら私とご一緒して下さいませ!」

わぁ、ゲームでも思ったけどリザベラの精神力は強靭だ。リザベラのほんの小さなシミとリリアンヌのびしょ濡れを一緒にしてしまった。と言うか自分の方が重症みたいに聞こえる。

「何を言っているのです。リザベラ嬢の濡れ方とリリアンヌ嬢の濡れ方では明らかに着替えが必要なのは彼女の方でしょう。
さぁ、リリアンヌ嬢立てますか?行きましょう」

「えっ、お待ちくださいニースベル殿下!!」

悔しそうにリザベラは制服の裾を握りしめながらニースベルとリリアンヌが去って行く後ろ姿を見ている。


さぁ、これでリリアンヌはニースベルルート確定ね。この時にニースベルが自分で連れて行くとニースベルルート、他の攻略者に任せるとその人のルートに入る…
ってあれ?さっきニースベル殿下の側に攻略者候補は皆んな揃ってたよね。
じゃあ何でカインザーク殿下はここに居るんだろう。

その時、リリアンヌがこちらをチラッと見て何やら不満そうな顔をしている。
パチっとリリアンヌと目があうとギロっと睨まれた。

その瞬間、明確にパンドラ乙女の記憶が流れ込んできた。

そうだ!!
パンドラ乙女がありきたりのゲームでも人気だったのは主人公が只の主人公ではなく、転生者って設定なんだった‼︎そして、転生者はもちろんチート能力の光属性と転生前の記憶で周りを虜にして行くんだったわ。
それに、もしかして今睨まれたのって…
ここにカインザーク殿下がいたから。もしそうならリリアンヌはニースベルルートではなく全員の親密度マックス逆ハールートを狙ってるのね。

えっ、と言うかこのゲーム転生者が主人公なのよね…転生者2人もいて大丈夫なの?!
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