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睦月、夜に動く
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紬はとても優しそうな人だ。睦月はそのことに安堵した。
問うことはしっかり問われたが、それはたしかに大事なことだし、重要なのは、決して怒鳴らないことだ。睦月は、怒鳴られるのが苦手だった。過去置いてもらっていた家から出ることになったのは、その家の主がよく怒鳴るようになったからだ。
それが怖く、睦月は怒鳴り散らす家から「追い出された」と受け止めていた。
前の夫・宏の良かったところは、決して怒鳴ることがないことだった。
それでも、怒鳴ることだけが睦月を、座敷わらしを追い出す行為ではない。
面と向かってハッキリ「出て行け」と怒鳴らずに告げたのも、宏が初めてであった。
「……紬さんには、棄てられないといいな」
睦月は、ここでも自分に出来ることをしようと思った。
結局、結婚をするわけではなく、居候という形で家に居させてもらうことはできたが、それでも家の役に立たないわけにはいかない。
日本には昔からこんな言葉がある。
「働かざる者、食うべからず」
それは人間であろうと妖怪であろうと同じ事だろう。
元・座敷わらしの睦月には、「働かざる者、住むべからず」と言ったほうが正しいかもしれない。どの道、働かなくては生きていけない。
とはいえ睦月は家の中にいる妖怪である。基本的に、外に出て仕事をする、ということはできない。ならばせめて家の中で出来る仕事をしようと、睦月は与えられた客間の和室から音を立てずに出て、掃除を開始した。
睦月は掃除が好きだ。綺麗で静かな家、部屋というのはとても落ち着く。自分の住みやすい環境は自分で作り上げるものだ。
冬の夜は寒い。窓掃除は、隣の部屋に眠る紬に寒い思いをさせてしまうと思い、この夜は掃き掃除、部屋の拭き掃除、食器洗いを、音が立たぬよう行うこととした。
今まで置いてもらった家々に比べると大して広くもないので、掃除はあっという間に終わってしまった。
紬の部屋に入ると起こしてしまうかもしれないので、その部屋は夜が明けてからにするとして、やることがなくなってしまった睦月は、紬から借りていた『携帯端末』を操作することにした。
(昨日は喫茶店で、色々な料理を振舞ってもらってしまった。そのお礼はしないと)
睦月は寝る前の紬から簡単な操作方法を教えてもらい、そこから思考を巡らせ応用していくうちに、一晩で紬より複雑な仕組みをも使いこなせるようになってしまった。
ある程度やるべきことをやり終えた睦月は、紬の携帯端末に、書きかけの小説やメモを見つけ、紬が起きるまでの間、それを読み続けた。
「面白い……。紬さんの小説、やっぱりすごく面白い……!」
胸がわくわくと躍り出すような、そんな体験をした気がする読後感。散りばめられた伏線の回収の巧さ。魅力的なキャラクターたち。
睦月はすっかり、紬の小説のファンになってしまった。
だからこそ、理解できない。
「なんでこんな素敵なお話を書ける人が、小説家になれないんだろう?」
これこそ世の中に出て、もっとたくさんの人に読まれるべきだろう。
「いろんな……人に……」
睦月は、数時間前にはじめてインターネットという世界を知り、ネットサーフィンというものをした。そこで知ったのが、このインターネットという世界は広いとことだ。世界中の誰とつながるのも一瞬で出来、会話も手紙も行うことが出来る。
その中で、漫画や小説、イラスト、動画。睦月にはなじみのないものもあるが、自分の創作物なども、全世界で共有出来ることも知った。
それがたとえ、素人であってもプロであっても、自分の作品を見てもらうことが出来る場所やサービスをインターネット上で提供してくれる「サイト」もたくさんあった。
それぞれの要項を読みながら、睦月は思わずにはいられない。
もっとたくさんの人に読んでもらうことで小説家デビューすることも出来る可能性があるのなら、そちらに挑戦してみるのも一つの手だ、と。
「紬さんに、提案してみよう!」
問うことはしっかり問われたが、それはたしかに大事なことだし、重要なのは、決して怒鳴らないことだ。睦月は、怒鳴られるのが苦手だった。過去置いてもらっていた家から出ることになったのは、その家の主がよく怒鳴るようになったからだ。
それが怖く、睦月は怒鳴り散らす家から「追い出された」と受け止めていた。
前の夫・宏の良かったところは、決して怒鳴ることがないことだった。
それでも、怒鳴ることだけが睦月を、座敷わらしを追い出す行為ではない。
面と向かってハッキリ「出て行け」と怒鳴らずに告げたのも、宏が初めてであった。
「……紬さんには、棄てられないといいな」
睦月は、ここでも自分に出来ることをしようと思った。
結局、結婚をするわけではなく、居候という形で家に居させてもらうことはできたが、それでも家の役に立たないわけにはいかない。
日本には昔からこんな言葉がある。
「働かざる者、食うべからず」
それは人間であろうと妖怪であろうと同じ事だろう。
元・座敷わらしの睦月には、「働かざる者、住むべからず」と言ったほうが正しいかもしれない。どの道、働かなくては生きていけない。
とはいえ睦月は家の中にいる妖怪である。基本的に、外に出て仕事をする、ということはできない。ならばせめて家の中で出来る仕事をしようと、睦月は与えられた客間の和室から音を立てずに出て、掃除を開始した。
睦月は掃除が好きだ。綺麗で静かな家、部屋というのはとても落ち着く。自分の住みやすい環境は自分で作り上げるものだ。
冬の夜は寒い。窓掃除は、隣の部屋に眠る紬に寒い思いをさせてしまうと思い、この夜は掃き掃除、部屋の拭き掃除、食器洗いを、音が立たぬよう行うこととした。
今まで置いてもらった家々に比べると大して広くもないので、掃除はあっという間に終わってしまった。
紬の部屋に入ると起こしてしまうかもしれないので、その部屋は夜が明けてからにするとして、やることがなくなってしまった睦月は、紬から借りていた『携帯端末』を操作することにした。
(昨日は喫茶店で、色々な料理を振舞ってもらってしまった。そのお礼はしないと)
睦月は寝る前の紬から簡単な操作方法を教えてもらい、そこから思考を巡らせ応用していくうちに、一晩で紬より複雑な仕組みをも使いこなせるようになってしまった。
ある程度やるべきことをやり終えた睦月は、紬の携帯端末に、書きかけの小説やメモを見つけ、紬が起きるまでの間、それを読み続けた。
「面白い……。紬さんの小説、やっぱりすごく面白い……!」
胸がわくわくと躍り出すような、そんな体験をした気がする読後感。散りばめられた伏線の回収の巧さ。魅力的なキャラクターたち。
睦月はすっかり、紬の小説のファンになってしまった。
だからこそ、理解できない。
「なんでこんな素敵なお話を書ける人が、小説家になれないんだろう?」
これこそ世の中に出て、もっとたくさんの人に読まれるべきだろう。
「いろんな……人に……」
睦月は、数時間前にはじめてインターネットという世界を知り、ネットサーフィンというものをした。そこで知ったのが、このインターネットという世界は広いとことだ。世界中の誰とつながるのも一瞬で出来、会話も手紙も行うことが出来る。
その中で、漫画や小説、イラスト、動画。睦月にはなじみのないものもあるが、自分の創作物なども、全世界で共有出来ることも知った。
それがたとえ、素人であってもプロであっても、自分の作品を見てもらうことが出来る場所やサービスをインターネット上で提供してくれる「サイト」もたくさんあった。
それぞれの要項を読みながら、睦月は思わずにはいられない。
もっとたくさんの人に読んでもらうことで小説家デビューすることも出来る可能性があるのなら、そちらに挑戦してみるのも一つの手だ、と。
「紬さんに、提案してみよう!」
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